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アジアの一期一会

第13回 アゼルバイジャン人との初会話は国境紛争の見解伺い
2017-08-01. 小牟田 哲彦
 旧ソ連から独立したカスピ海西岸の国・アゼルバイジャン。コーカサスと呼ばれるこの地方で同時に独立したジョージア(グルジア)、アルメニアと3ヵ国合わせて語られることが少なくないが、実は隣のアルメニアとは仲が良くない。アルメニアと接する地域に位置するナゴルノ・カラバフ地方の領有権を巡って、ソ連崩壊前後の1980年代末から1990年代前半にかけて両国が戦火を交えた結果、ソ連時代にはアゼルバイジャンが領有していた同地方は事実上、アルメニア人の統治下に帰属してしまったからである。

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バクー郊外のアテシュギャーフ拝火教(ゾロアスター教)寺院。この近くの雑貨屋で領土問題への認識を問われた。
 国土の約2割を失ったアゼルバイジャンの人々の、アルメニアに対する印象は極めて悪いという。その程度は日本周辺国の一部における反日感情の比ではないようで、国境を接する両国間を直結する列車や航空便はないし、ナゴルノ・カラバフ地方にアルメニア側から入域した外国人(同地方は「ナゴルノ・カラバフ共和国」として独立宣言しているが、もちろんアゼルバイジャンは国家承認していない)はアゼルバイジャンへの入国を拒否される。

 そのような状況だから、アゼルバイジャン人は、ナゴルノ・カラバフの領有問題は世界中の人が関心を持っていると思っているのだろうか。首都バクー郊外の雑貨屋で買い物をしていた私に、店番をしていた大学生くらいの若い男性が、「英語は話せる?」と尋ねてきた。旧ソ連の各国では今もロシア語の通用力が高く、英語の通用度はおそらく日本より低いが、若い世代には英語教育がなされているのだろう。珍しくアゼルバイジャン人とコミュニケーションが図れると思って「Yes」と答えると、次に出てきた言葉がいきなり「ナゴルノ・カラバフ問題についてどう思う?」だった。

 日本人が初対面の外国人、それも自営業者が客として来店した相手に向かって、いきなり北方領土問題や竹島問題の見解を問うたりはしないだろう。だいたい、大多数の日本人は、そもそもナゴルノ・カラバフ問題と言われても何のことか知らない。だが、この時の私は、急なにわか雨を避けて店内で雨宿りをしているところで、会話を一方的に打ち切ってそそくさと店を出ることができなかった。

 アゼルバイジャンの旅行情報を載せている数少ない日本語ガイドブック『旅行人ノート シルクロード改訂版 中央ユーラシアの国々』(2006年・旅行人)には、「外国人には、しばしばアルメニアを罵倒し倒すような態度が期待される。『悪いのは戦争だ』といった中途半端なコメントは、向こう寄りとみなされるだけなので注意。特にアルメニア人に恨みがなければ、この種の話題は避けた方が無難だろう」とのアドバイスが書かれている。「この種の話題」をアゼルバイジャン人から一方的に向けられて、しかも容易に逃げられない環境でどう答えれば無難に切り抜けられるか、までは触れられていない。もとより、私はアルメニア人には何の恨みもない。

 この状況で私が何と答えて、雨が小降りになった後に笑顔で店を出たのかはここでは割愛する。ただ、特定の隣国に悪印象を持つ国の国民が、遠い第三国からやって来た外国人に対して「隣にあるあの国は悪い国だと思うだろう?」と半強制的に同意を求めるかのようなシチュエーションは、実は日本周辺の一部の国々を訪れる観光客にも発生していて、かつその悪意が日本に向けられていて、そのことを日本人だけが知らずにいるのかもしれない、という邪推が私の中に生まれた。そして、そういう話題を向けられたからと言って、話を向けられた者が必ずしもその悪意に同調するわけではないことも、体験として理解できた。