topics & News to Home
霞山会とは
月刊『東亜』
講演会・シンポジウム
中国への研究留学
日本への研究留学
東亜学院中国語学校
東亜学院日本語学校
日中交流
霞山会館
交通案内
各種お申し込みForm

■中国マクロ経済分析
 慶應義塾大学駒形研究会

■霞山学生会
■リンク集
■サイトマップ
一般財団法人霞山会
東京都港区赤坂2-17-47
赤坂霞山ビル
TEL.03-5575-6301
FAX.03-5575-6306

アジアの一期一会

第23回 旅行者が垣間見るイスラム女性の素顔
2018-06-01. 小牟田 哲彦
 パキスタンのある街で食堂に入ったら、店の主人が店の奥の別席へ案内してくれた。そこにいたのは私と同じく1人で旅行中の日本人女性。バスの車内すら男女で区切るこの国で、見知らぬ男女が相席になることは普通はないのだが、同じ日本人だから、ということで気を利かせてくれたらしい。その席は家族が一緒に会食できる家族専用席のような場所だったので、旅行中の若い日本人夫婦と見られれば、男女相席でも問題ないというわけだ。

180522as.jpg
夜のダマスカス市街。黒いチャドルをまとう地元女性の姿が目につく
 その彼女と、食後に別の店でアイスクリームを食べていたら、地元の夫婦がやってきて近くの席でアイスを食べながら、私たちに話しかけてきた。若い夫に「夫婦なのか?」と聞かれ、私たちは(そう答えた方が無難だろう)と互いに判断して、ついさっき会ったばかりなのに「そうだ」と答えた。すると、それまでニカーブ(目以外は隠す布)で顔を隠していた彼の奥さんが、ニカーブを外して美味しそうにアイスを食べ始めた。顔を隠して過ごしている女性が多いこの国で、夫以外の男性である私の前で顔を出してニコニコしながらアイスを食べる彼女の様子はそれ自体が珍しかった。

 もっとも、同じイスラム圏でも、日常生活のあらゆる場面でこんなに厳格な男女の区別をしている国ばかりではない。パキスタンの隣国でもあるイランでは、真っ黒なチャドル(顔以外は全身を隠す服装)を全身にまとっているが顔は出しているおばちゃんたちが平気で私に話しかけてきた。イランでは外国人観光客を含む全ての女性はスカーフ(ヒジャブ)で髪を隠すことが義務づけられているのだが、若い女性の中には、カラフルで小さなスカーフを申し訳程度に後頭部につけているだけで、どう見ても「髪を隠す」意思がなさそうな人もいた。不良娘の流行なのか、若い世代が編み出した最新ファッションなのか。

 内戦前のシリアでは、ダマスカスの夜のマーケットは男女問わず人出が多く、いつも賑やかだった。街全体が世界遺産になっていて旅行者が多く、外国人も含めて多様なスタイルが日常風景になっていたためでもあるだろう。イランのように全ての女性にヒジャブ着用を義務づけたりしていないのだが、それでも、髪を隠していないのは非イスラム圏からの観光客ばかり。若い女性でも黒いチャドル姿が多く、世代間の大きな差は見てとれなかった。

 イスラム圏では、現地の女性がイスラム教特有の服装をしている姿をどこでも目にする。パキスタンやサウジアラビアなど男性も民族衣裳が一般的な国もあるが、概して女性の方が服装上の特徴が目につきやすい。非イスラム圏で日常生活を送る者にとっては、彼女たちの姿は、何かと厳格な戒律のイメージが強いイスラム教を象徴する存在でもある。ただ、厳しい建前が求められる国ほど、パキスタンの食堂の主人のように我々外国人旅行者に対する個人レベルでの特別な配慮に遭遇したり、ニカーブを外してアイスをほおばる若い奥さんやヒジャブが小さいイランの女性の姿に社会の建前との乖離を感じることがあったりする。そうした素顔を垣間見ることも(男性旅行者にとってはハードルが高いが)、イスラム圏を実際に旅する意義の一つではないだろうか。