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アジアの一期一会

第21回 砂漠のオアシスで日本語を学ぶウイグル族
2018-04-01. 小牟田 哲彦
 日本人のように国の筆頭公用語(この場合は日本語)を母語とする民族は、学校で第一外国語(多くの場合は英語)を他言語として学ぶ。だが、自身の母語が国の第二位以下の公用語扱いである場合は、他言語として最初に学ぶべきはその国の筆頭公用語になることが多い。この場合、その筆頭公用語が英語でなければ、外国語は3番目の言語となるため、修得のハードルは高くなるし、そもそもそこまでの語学は義務教育課程にないこともある。

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砂漠の西域南道をチャルチャンへ向かう乗合バス
 中国北西部の新疆ウイグル自治区では、ウイグル族は漢民族とは別の学校で学ぶ。母語であるウイグル語とは別に中国語を学ぶため、漢民族が第一外国語として学ぶ英語は3番目以降の言語となる。こうなると、強い動機を持って自ら学習しない限り、外国語を学ぶ機会はないことになる。

 そういう学校教育が一般的な環境に置かれているウイグル族にも、日本語を学ぶ人はいる。タクラマカン砂漠南部のシルクロード西域南道の途上に位置するチャルチャンは、人口の7割をウイグル族が占める典型的なオアシス都市で、区都のウルムチやカシュガルに比べれば訪れる外国人観光客は数少ない。そんな田舎町で外国人が宿泊可能なホテルを探したら、そこにたどたどしい日本語を話すウイグル族の男性がいた。インスタントラーメンのことを「べんりのしょくじ」とひらがなで書いてそのまま発音する、という語彙力であるから、「たどたどしい」と言っていいと思うが、それでも、大都市から遠く離れたシルクロードのこんな小オアシスに、学校もないのに独力で日本語を習得しようとするウイグル族がいるのか、と驚いた。西域南道が外国人に開放されてまだまもない、1990年代半ばのことである。

 彼は、(当時)この町で日本語を学んでいるのは恐らく自分くらいであること、チャルチャンの町の書店では日本語の辞書が手に入らないので勉強しにくいのが悩みであること、などと、食事の際に話してくれた。ウイグル語で書かれた日本語のテキストは現地の書店で売っているのだが、辞書がないのにどうやって勉強していたのだろうか。何より、隣のオアシスへ行くのも1日がかりで外界から隔絶されたようなこの町で、日本人のつてもないのに、彼は自分の第3言語として、なぜ、世界中で通用する英語ではなくあえて日本語を学ぼうとしたのだろうか。そのあたりの込み入った話になると彼の日本語と私の中国語では通じ合えなかったのが、今でも心残りである。

 帰国後、北京で買った中国語版の中日辞典を国際郵便で彼に送ったが、それが届いたのかどうかもわからない。電子メールもSNSもない時代のことで、返事の手紙がなければその後の消息は確かめようもない。ただ、「我が町では日本語の辞書が売っていない」と嘆きながら私の旅行スケジュールの手助けを日本語で一生懸命してくれた彼が、もしかしたらその辞書を使って、今ではチャルチャン一の日本語の使い手になっていたら嬉しい限りである。