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アジアの一期一会

第1回 中国人のふりをしなくてよくなった中国旅行の気楽さ
2016-08-01. 小牟田哲彦
 中国には今から20年くらい前まで、「外国人料金」という価格設定が社会のあちこちで見られた。鉄道や長距離バスといった公共交通機関の運賃、観光名所の入場料などは中国人料金の数倍の外国人料金が設定され、国籍が中国ではないという理由のみで、同じサービスを受けるのに外国人は高額な料金を支払わなければならなかった。1990年代後半になって徐々に撤廃されていった理由は、当時の中国が目指していた世界貿易機関(WTO)への加盟にあたり、外国人に対する差別料金の存在が障害になったからだと言われている。

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1996年の北京の故宮(紫禁城)外国人入場券。英文が刷られている。
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1996年の天安門の中国人入場券(10元)。外国人は30元だった。
 中国側では、外国からの旅行者を「外賓」と呼び、特別な賓客にふさわしい特別待遇をすることが、高額な外国人料金徴収を正当化する表向きの理由になっていた(らしい)。ところが、実際には受けるサービスが全く一緒でも外国人は高い金を払わなければいけないので、外観が中国人と似ている日本人のバックパッカーは、中国人のふりをすることで高額な外国人料金の支払いを免れようとするケースが少なくなかった。日本で販売されている中国旅行のガイドブックにも「中国人料金で旅をする方法」が詳細に解説され、見事に中国人料金で押し通した旅行者はそれを自慢話にした。

 「中国人料金で旅をする方法」とは、要するに中国人のふりをする、ということであった。来ている服も持ち物も現地調達した地味なものにして、財布は使わず紙幣やコインはポケットに直接突っ込み、行列は作らず自分が購入したいものを大声と腕力で自己主張する、というのがその概要だ。私自身も学生時代に1人で中国を旅したとき、中国人料金で列車に乗ったり観光施設に入ったことがある。必要最低限の中国語だけ使い、あとは寡黙かつ堂々としていれば、ほとんどの場合はそれだけで問題なく通過した。

 ただ、この旅のスタイルには大きな欠点もあった。よほど中国語が流暢でない限り、現地で出会った中国人との交流機会を失してしまうのだ。中国では、一人旅をしていると列車やバスの中で同乗者から話しかけられることが多い。中国語が達者でなくてもペンと紙さえあれば、長旅の暇つぶしに日中異文化対談がどこでも始められる(いざという時の筆談用に筆記用具を持ち歩く日本人旅行者は多い)。そのうち、持参の食べ物を融通し合ったり、一緒に食堂車へ行って食事をすることもある。そんなやり取りの方が、概して名所旧跡巡りよりも印象に残るものだが、中国語が上手くないのに中国人のふりをするとなると、その可能性を自ら閉ざしてしまうのである。楽しむために旅行に来ているのに、外国人であることがばれないかどうかばかりに気を遣っていては落ち着かない。せっかく旅行に来てもそれでは楽しくないと気づいたときから、私は、少なくとも列車やバスに乗るときは外国人料金をきちんと払って乗るようになった。

 今や日本に観光旅行に来る中国人の方が日本人より金持ちであることも珍しくなくなり、中国の外国人料金はすっかり昔話である。中国の物価全体は当時より上昇しているし、外を歩いているだけで大気汚染の健康被害を受けそうな都市も出てきているけれども、外国人が国籍を気にすることなく自由に中国を旅行できる環境は、外国人料金の時代と比べれば格段に整っている。