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アジアの一期一会

第14回 日本人旅行者が書き込む「情報ノート」の移り変わり
2017-09-01. 小牟田 哲彦
 本連載ではここまで、アジア各地で私が出会った現地の人たちとの邂逅をテーマにしてきたが、旅先で会うのは現地の住民ばかりではない。一人旅をしていてアジア各地の安宿を渡り歩くと、日本を離れて長期旅行を続ける日本人旅行者と出会う機会が少なくない。たまたま泊まり合わせた宿で夕食を共にしたり、共有スペースの談話室で夜更けまで話し込んだりする。そうした日本人旅行者が集まる宿は、旅行者から「日本人宿」と呼ばれている。

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中国青海省・ゴルムドのホテルに集まる日本人旅行者たち。チベットをバスで目指す日本人が大勢泊まっていた。
 日本人宿は世界中に存在しており、それこそアフリカや南米にもあるのだが、絶対数から言えばアジアにある軒数が圧倒的に多いと思われる。タイのバンコクやインドのコルカタ(カルカッタ)、ネパールのカトマンズなどには、長期旅行者にはよく知られている日本人宿がいくつかある。日本を出てアジア各地を長期間放浪したり、大陸横断してヨーロッパを目指す日本人が多いからだろう。

 日本人宿にはたいていの場合、「情報ノート」と呼ばれる冊子が置かれている。宿泊した旅行者が、自分の訪問済み旅行先での最新旅行情報を日本語で書き込み、あるいはこれから行こうとする旅行先に関する書き込みを読んだり自分のガイドブックの余白に書き写したりする。同種のノートは日本人特有ではなく、欧米人旅行者が英語で書き連ねたものを置いている宿ももちろんたくさんあるが、日本人宿の場合は日本人旅行者だけが利用する日本語の情報ノートが累積していることが多い。英語がさほど得意でない日本人同士が最新の旅行情報を交換するのに役立つからだ。日本人宿が各地にできるのと同じ理由で、情報ノートはその象徴的な存在でもある。

 情報ノートは宿泊施設側が設置するのではなく、日本人旅行者の誰かが自主的に現地でノートを購入して、それを談話スペースなどに勝手に置いていくケースが多いようだ。そうなると誰が所有権者なのかもはやわからないのだが、一見さんばかりの旅人が受け継いでいくだけで誰もまともに管理していないのに、「これは役に立つ」と考えて必要なページを破ったり、ノートごと持っていってしまう不届き者はほとんどいない。

 携帯電話やスマートフォンが普及する前は、伝言板のような役割を果たすこともあった。インドシナ半島やマレー半島は国土が細長く、旅行ルートが限られているので、陸路旅行社はほとんど同じようなルートを辿る。すると、たとえばベトナムのハノイの日本人宿で出会った旅行者が別々にインドシナ半島を南下し、半月後にカンボジアのプノンペンの日本人宿で偶然再会する、というようなことが珍しくもなく起こった。その間、先行する旅行者が通過するベトナム国内の他の都市の日本人宿で書き残した情報ノートの記述を、後から追いかける旅行者が読んでいれば、お互いに連絡先が分からなくても足跡を残すことができたのである。

 こうしたノートによる旅行者同士の情報交換形態は、インターネットが普及した21世紀になっても続いている。その気になればネットサーフィンで必要な情報はほとんど得られ、しかもスマホやタブレットを持ち歩いていればパソコンがなくてもリアルタイムでそれらの情報に接することができるようになった。それでも、日本人旅行者が、自分には何の見返りもないのに、見知らぬ後続の日本人旅行者のために最新の旅行情報や感想をせっせと書き込む文化(?)は健在なのだ。アジアの日本人宿を訪れる機会があれば現物を目にする機会は多いので、手に取って読んでみて、できれば何か一筆残してみてはいかがだろうか。