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アジアの一期一会

第7回 カザフスタンで即席ホームステイをする
2017-02-01. 小牟田 哲彦
 中央アジアのカザフスタンでアルマトゥからシムケント行きの夜行列車に乗ったとき、4人用個室寝台で同室になった家族連れと仲良くなった。母と20代前半のジーナという娘、そしてまだオムツをしているよちよち歩きの次女の3人連れで、シムケントに自宅があり、これから一晩かけてみんなで帰宅するところだった。旧共産圏の鉄道では個室といえども男女の区別をしないので、女3人の家族と若い男の私が平然と同室をあてがわれる。ここまではよくある話である。

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シムケント郊外にあるコジャ・ヤフメド・アサウィ廟
 ジーナは英語を話せたが、母親はカザフ語かロシア語しか話せない。にもかかわらず、車内で一緒に食事をしたり次女をあやしたり、あるいは重い荷物の上げ下ろしなどを手伝っているうちに、母親が私に好印象を持ってくれたらしい。翌朝、終着駅のタシケントで下車して宿泊先をこれから探すという私に、「よかったら自分たちの家にいらっしゃい」と母娘で言ってくれたのだ。

 急かされるまま、駅頭で彼女たちを出迎えた彼女の父親と対面。前夜に車内で会ったばかりでカザフ語が全く話せない日本人の若い男性をいきなり自宅に招待しようとする娘と妻の提案を、彼は私への握手で即OKしてくれた。彼らの自家用車に同乗して到着した団地の一室に招き入れられると、普段は使用していない個室をササッと整理したうえで、「今夜はこの部屋に泊まりなさい」とのこと。しかも、私が列車の中で「シムケントでは郊外のトルキスタンにある世界遺産のコジャ・ヤフメド・アサウィ廟に行くつもり」と話していたことから、母親(私は途中から「ママ」と呼んでいた)の提案で「今日、これから家族みんなでそこへ行きましょう」ということになった。

 ジーナが作ってくれた遅い朝食をいただいた後、父親の自家用車でトルキスタンに向かった。シムケントの市街地から車で片道3時間ほどかかるトルキスタンまで、家族4人水入らずのドライブに異邦人がいきなり紛れ込んだ形で申し訳ないような気がしたが、ママとジーナは純粋に楽しそうだった。途中のドライブインではママが作ったランチボックスを開けて私に「もっと食べなさい」と勧め、到着した遺跡ではママが私の分の入場料も先に払ってしまい、ママやジーナと一緒に壮麗なイスラム寺院を存分に見て回った。

 その夜は、ジーナの伯父さん夫婦の家でのホームパーティーに招かれた。羊肉とジャガイモと玉ねぎなどを煮込んだカザクシャ・エトという伝統的なカザフ料理を、大皿に盛って腹いっぱい食べさせてくれた。言葉がろくに通じない外国で初対面の住民のホームパーティーに言われるままホイホイお邪魔する私も相当な図々しさだが、彼らもまた、ソ連時代から生きてきた人生で初めて会ったという日本人に、ジーナの通訳を介していろいろな質問を率直にぶつけてきた。自分が話す一言が彼らの日本像、日本人像の基礎を形作るかもしれないと思うと、誰も応援していないけど自分が日本代表になったような気さえした。

 帰国後、しばらく手紙とメールのやり取りがあった。ジーナはその後、中国へ留学したという。私宛ての国際郵便の住所が、簡体字で書かれていた。もし再会するようなことがあったとき、私たちは何語で話すのだろうかと想像しながら、すでに10年が経過している。