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チャイナ・エクスペリエンス

郭徳綱が二回目の東京公演にやってくる(下)
2018-05-25. 戸張東夫(ジャーナリスト)
<郭徳綱が伝統相声を復活させた>

中国のお笑いの代表相声でいま最も人気のあるのが郭徳綱である。じつは「いま」というのは正確ではない。相声界の新たなスターと認められ、郭徳綱ブームを巻き起こしてから、すでに十年以上も経っているのに、いまなお相声界のスターの地位を保持している。郭にはとくにネットを通じたファンが多いといわれているが、相声関係の項目を検索するとまるで中国には郭以外の相声芸人がいないかのように、郭の動向や話題であふれかえっている。コメントも多く、しかも好意的なものが圧倒的に多い。この人気の背景はやはりなんといっても郭の相声が面白いからである。筆者も初めて郭の相声『楊乃武写状』や『西征夢』などを聴いた時には、こんな面白い作品があったのかと中国相声を改めて見直したくらいである。中国のファンたちも同じ思いだったに違いない。だが,それだけだろうか。

たとえば伝統相声を復活させたのは郭である。

1949年の中華人民共和国成立いらい中国ではそれまで娯楽として庶民に親しまれていた相声を当局は共産党のイデオロギー教育と政治宣伝の手段(道具)に変えてしまった。それと同時に1949年以前に作られ流布されていた相声を伝統相声と名づけ、すべて封建時代の遺物で有害だと排斥したうえ、当局の意向を反映した新作相声を奨励した。このため伝統相声を語る者はいなくなり、また語ることが出来る芸人や若い世代に伝統相声を伝える芸人もいなくなってしまった。

ところが中国が改革開放政策に転じ比較的自由な状況が生まれると、これまでタブー視されていた伝統相声に改めて興味を抱く若い世代も現れた。そんな時期に伝統相声をひっさげて登場したのが郭徳綱だった。相声芸人は五万といるが、伝統相声を語れる芸人は少なかったから、郭徳綱は引っ張りだこでたちまち中国全土で郭ブーム、伝統相声ブームが巻き起こった。


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舞台の上の郭徳綱(手前左)と于謙(徳雲社提供)
<劇場相声を定着させ相声の人気を回復した>

相声をイデオロギー宣伝と政治宣伝の道具にした当局は、政治の必要からラジオやテレビで積極的に新作相声を国民に聞かせた。相声芸人を辺境や山地に派遣することも少なくなかった。このため中国の人たちは相声はラジオ、テレビで聴くものでわざわざ劇場まで足を運び入場料を払って聴くという考え方はなかったのである。新作相声はどうせ当局の宣伝、聴きたくて聴いているのではない。内心そんなふうに考えていたのかも知れない。

一方郭はかねて伝統相声を劇場で語るというアイデアをあたためていた。伝統相声はひとつの作品でも最低四、五十分は必要だ。ラジオやテレビで細切れにされたら面白いものも面白くなくなってしまう。それに話芸は演者と観客が反応しあうところで語ってこそ味がある。そう考えていた。そこで郭は考え方の同じ相声芸人数人と語らい「北京相声大会」というグループを結成し、資金を出しあって空いている小劇場を借りては一週間に一回のペースで相声を聴く会を開くことにした。なにしろ当時はカネを払って相声を聴くという考え方がなかったから観客に来てもらうことが先決問題だった。観客が一人しかおらず、しかもその観客の携帯電話が鳴ったため、相声を中断せざるを得なかった、ということもあったという。

その後2007年郭たちは北京の一角にあった劇場を買い取り、「北京相声大会」を組織替えして名称も「徳雲社」として再スタートをきった。その後このような劇場型相声はファンの間ですっかり定着、いろいろな形態の相声の独演会や公演会が開かれるようになった。郭の東京公演は二回とも「徳雲社」がプロデュースしたものである。

中国の相声は九十年代にはファンからそっぽを向かれてしまった。口に出すわけにはいかないが当局の管理する新作相声はもう沢山というのがみんなの本音だったのだろう。少なからぬ相声芸人が転職したとか、相声の番組になるとテレビのチャネルを変えてしまうファンがふえているなどと話題になった。だが伝統相声の復活や劇場相声の普及で相声はいまやすっかり息を吹き返し、十年以上もブームが続いている。

郭のこのような功績や相声に対するひたむきな姿勢、真剣な取り組みに対するファンの高い評価が郭人気を下支えしていることは間違いないであろう。

<いま中国で相声を語るのは難しい?>

それにしてもいま中国で相声を語るのは想像する以上に難しいのではあるまいか。言論はもちろん全てを共産党が管理しているからである。これは政治や権力の問題だけに簡単には変えられない。中華人民共和国発足いらい相声から失われた風刺の精神をいまだに回復できないのもこのためである。少なくとも「党政軍民学、東西南北中、党是領導一切的(全てを共産党が指導する)」という固い信念の習近平政権が続く限りこの状況が変わることはあるまい。中国相声 加油(頑張れ)! 郭徳綱 加油! 

*郭徳綱らの二回目の東京公演は2018年7月8日東京国際フォーラムホールAで。出演は郭徳綱、于謙、高峰、栾雲平、郭麒麟、閻鶴祥、孟鶴堂、周九良。
*中国相声について詳しくは戸張東夫『中国のお笑い―伝統話芸“相声”の魅力』(大修館書店、2012年12月)を参照されたい。