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チャイナ・スクランブル

米国で2つの中国人絡みのスパイ“事件”−北京当局はグローバルに影響力強化狙う(上)
2018-02-08. 日暮高則
米国では今、2つの中国人スパイ問題が注目されている。一つ目は、中央情報局(CIA)元職員の李振成(ジェリー・チュンシンリー)氏が中国側に寝返って二重スパイを働いたとして1月中旬、米連邦捜査局(FBI)に逮捕されたこと。さらに、世界的なメディア王、ルパート・マードック氏の元妻で中国系米国人のウェンディ・トン(文迪)女史が実は北京当局の工作員であり、トランプ大統領の娘婿でホワイトハウスの上級顧問でもあるジャレッド・クシュナー氏に近づき、中国の国家利益のために働きかけたと米有力紙が報じたことだ。一方、オセアニアの2国では、中国の工作員が暗躍し、政府、議会関係者を金品で篭絡し、2国の対外関係を中国に有利に導く工作をしているとされ、オーストラリアのターンブル首相は「中国の影響力に懸念している」と名指しで不快感を表明した。習近平政権は2期目を迎え、強大な国家構築を目指して対外活動を活発化させており、西側諸国は警戒感を強めている。

香港誌によると、世界的な競売会社「クリスティーズ」の香港企業保安責任者である李振成〈53〉氏は1月15日、米ニューヨークのケネディ空港でFBI捜査員に逮捕された。逮捕容疑は「機密情報の不当な所持」とされ、最高10年の懲役が課される罪状だ。李氏は香港の生まれだが、米国に移住して公民権を取り、1982年−86年には米陸軍にも入隊している。その後、ハワイ・パシフィック大学でビジネス管理学などを学び、94年に専門職員としてCIAに入った。だが、「CIAにおける彼の仕事にはさまざまな障害があり、不満を感じていた」(友人談)ようで、2007年に職場を離れている。その後、香港でタバコ会社の調査員となったが、中国のタバコ製造、密売組織などと接触しているうちに彼の品行が会社に疑われ、解雇された。李氏はその後自ら起業を経験したりし、16年にクリスティーズ系企業に入社した。

中国では、2010年から12年にかけてCIAのエージェント、協力者18−20人が次々に死亡、行方不明になったりして、中国内の諜報ネットワークがずたずたになる事態が起きた。ニューヨーク・タイムズ紙は、外国の諜報活動を摘発する中国側当局によって12人以上が殺害されたり、監禁されたりしている可能性もあると報じた。CIAは、局内から情報が漏れたことを疑い、2010年から調査を開始。その結果、李振成氏がタバコ会社調査員として再三中国を訪れているうちに篭絡され、CIAの機密情報を流しているのではないかと怪しみ、2012年から本格的に身辺調査に入った。

李氏が2012年に米国に戻り、ハワイ、バージニア州のホテルに滞在した時に、FBIが秘密裡に彼の荷物をチェックしたところ、2冊のノートが見つかった。その中には、CIA職員が中国国内でエージェント、協力者に会った際のメモ、さらにはエージェントらの名前、電話番号も書かれてあったという。FBIは、李氏が中国側の工作員になったとの疑いを持ったが、今年まで逮捕しなかった。それは、いわゆる“泳がせ捜査”で決定的な証拠をつかむためだった。中国に情報提供する米側エージェントがほかにいて、李氏がその人間と接触するかどうか、さらには在米の中国工作員と連絡を取り合うかどうかなどを監視していたようだ。

CIA職員が海外機関に情報提供したケースとしては、1980年代のオルドリッチ・エイムズ事件が有名。同氏はCIAに入局したあと、ロシア語を解することでソ連情報の収集に当たった。その過程で、ソ連にいるCIAのエージェントやそのネットワークを熟知していたが、巨額の報酬につられて自らソ連KGB〈国家保安委員会〉への情報提供者となった。エイムズ氏の情報によって、ソ連のCIA協力者全員が逮捕され、その多くが死刑になったという。同氏の二重スパイ行為は約9年間にわたっていたが、ソ連崩壊後もすぐにばれなかったために、1994年にFBIに逮捕された時にはCIAの中でも高位のポストに就いていた。

李振成氏の容疑内容が事実であるならば、このエイムズ事件に匹敵する衝撃的な事件である。ただ、これまでのところ、李氏の立件に向けて明らかな証拠はない。6年間の泳がせ捜査のほか、本人に対しても再三直接に訊問しているが、それにもかかわらず、中国スパイ網の摘発との関連がつかめていないもようだ。李氏本人も「自分には何の過失もない」と容疑を認めていないという。このため、今回逮捕に踏み切ったことにも、捜査当局内で異論があったとも言われている。