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華北の「外国」建築をあるく

第15回 ザハによる巨大開発:銀河SOHO
2015-12-28. 東福大輔
二環路は北京の旧街区部分を縁取っている道であるが、その道沿いのひときわ目立つ建物が「銀河SOHO(インハーSOHO/Galaxy SOHO)」である。設計者は、先日、政府によって白紙撤回された新国 立競技場の設計で日本でも名を知られることになったザハ・ハディド。報道でも散々喧伝されたので知っている人も多いかもしれないが、彼女は「アンビルトの女王」と呼ばれていた。「アンビルト」とは「実現されない」という意味で、建築家という職業にとっては不名誉な称号である。彼女が独立して設計事務所を構えたのは1980年だが、90年代半ばにさしかかるまで、彼女の作品は技術的、あるいはコスト的な理由で建てられることはなかった。

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局面が繋がりあう外観
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建物の狭間の空間は「キャニオン」と呼ばれる動線となっている
中でも有名なのが、1983年に行われた「香港ピーク」のコンペ案である。このコンペは、香港を見渡すヴィクトリア・ピークの上のクラブの設計を競うもので、破片のような物体が飛び交うような案を提出した彼女が勝利したが、数日後に施主が倒産したために建設されなかった。ディベロッパーである施主は審査会にも参加していたが、とうてい実現不可能なザハの案について意見を求められると、窓の外の自分のランボルギーニを指さして「格好いいもの」を所望したという。後から考えてみると、施主は自分が破産することを既に知っていて、半ばヤケクソにザハ案を推したともとれるが、それはともかく、この勝利のニュースが彼女を建築界のスターダムに押し上げたのである。

技術が彼女の構想に追いつき、そのデザインが次々と実現されるようになったのは2000年以降である。これには、複雑な形状の構造を解析できるコンピューターの発達が大きいが、この銀河SOHOで注目されるのは、ジオメトリ、すなわち幾何学の解決に使われたコンピューターの存在だ。

その方法の解説を試みてみよう。この建物の外壁は、ほぼすべてが2次曲面でデザインされている。すなわち、直線を動かして作れる曲面ではない。これだと、工業製品として供給される金属パネルの加工は困難を極める。パネルを一方向に曲げるだけでは不十分で、シワが寄らないように二方向に曲げなければならないからである。ただ、パネル自体は建物の大きさに対しては小さいものなので、大部分のパネルは一次曲面、すなわち一方向に曲げただけのパネルで作る事ができる。どの部分を一次曲面のパネルで作ることができ、どの部分を二次曲面としなければならないか。その検討に、コンピューターが活躍しているのである。

この物件をやるまでは、彼女は国家を代表するような文化施設を多くやってきた。あまりにもコストが膨らんで建物全体を縮小したものもあったくらいである。だがしかし、これはコストに厳しいディベロッパーが施主の開発物件だ。コンピューターの力を最大限に援用しつつ、肥大しがちな建設費を抑え込んでいると言えるだろう。

彼女の案は、曲面がうねるようなカタチに目を奪われがちだが、なぜそれが世界中のコンペを勝っているかというと、求められる条件がうまく解かれているからともいえる。新国立競技場の設計案が問題になっているとき、「古臭いデザイン」というような批判があったが、このようなカタチは彼女がオリジナルなので少し的外れだろう。むしろ、国内に彼女やそのフォロワーのデザインが一つも実現していないことで、日本の建築技術が世界に遅れをとっているのではないかという不安がぬぐえない。実際、新国立競技場のザハ事務所の担当者は、この銀河SOHOのそれと同じだったという。どのように経済的かつ技術的な与件をクリアーして実現するか、もう知りえないのは残念なことである。
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<銀河SOHO>北京市朝陽区。地下鉄2号線「朝陽門」駅下車、徒歩5分