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アジアの今昔・未来

第431回
カザフに残る政治犯収容所跡の博物館(その5)

2017-11-09. 伊藤 努
カザフスタン滞在中の半日を使って、首都アスタナから40キロほどにあるソ連のスターリン時代の政治犯収容所(ラーゲリ)の跡地に建てられた記念博物館を見学した。ソ連時代のカザフスタンの草原には収容所の坩堝(るつぼ)というほど多くのラーゲリが点在していたが、筆者ら一行が訪れたのは、政治犯で捕まった家族、それも妻や娘たちを収容していた特別の施設だった。記念博物館は、かつて「祖国を裏切った者の妻たちのアクモラ収容所」(このロシア語の頭文字を取って「ALZHIR」=アルジールと呼ばれる)があった場所に建てられている。

政治的抑圧による犠牲者の記念博物館「アルジール」は、広大な原野の一角に当時の収容所が復元・展示されている。博物館の敷地にはソ連全土から収容者を連れてきた粗末なつくりの強制連行の列車や、見張り台に立つ歩哨と警備犬の模型が置かれ、建物の中には女性収容者たちの尋問の様子や労働奉仕の部屋などもジオラマで再現。また、多くの著名人を含む囚人の家族の写真や手紙なども展示されており、ガイド嬢の説明を聞きながら館内を回っていると、周囲の密告や裏切りなどによって突然、政治犯の家族の容疑をかけられ、運命が暗転した女性たちのうめき声が今にも聞こえてきそうな錯覚に襲われた。

政治犯の妻の多くは幼子の母親でもあり、子供は3歳になると、強制的にこの施設から別の孤児院に送られ、こうして家族はばらばらにされ、権力をかさに着た収容所当局による「矯正」という名目の過酷な囚人生活を強いられたのだ。中央アジアのカザフスタンでは秋から遅い春が来るまでの季節、激しい吹雪と寒風で零下30度にもなるというのに、収容所には満足な暖房もなく、ここで1万数千人に上る女性らが非業の死を遂げたという。博物館の背後には、犠牲者らの名前を刻んだ黒い壁が囲んでいた。

この記念博物館は、ナザルバエフ大統領のイニシアチブにより、2007年5月31日、「政治的抑圧による犠牲者の制定の日」制定10周年を機に開設されたもので、このような過ちを2度と繰り返してはならないという誓いの意味合いもある。

記念博物館で展示されている歴史資料は、1930年代から50年代初めまでのスターリン時代を中心に、19世紀、さらには1986年までの反政府暴動までのさまざまな政治的抑圧の事例も含まれており、権力者による弾圧や、はなはだしい人権侵害が全体主義時代という限られた時期のものでないことを物語っている。

1991年のソ連崩壊に伴い、新しい共和国として独立したカザフスタンで一貫して政権の座にあるナザルバエフ大統領に対しては、反体制派の存在を許さず、言論の自由にも一定のたがをはめるなど、強権的な指導者といった批判の声も聞かれるが、この国が安定を維持しつつ、さらなる発展を続けるためには旧ソ連時代のような一党独裁を許してはならないと肝に銘じているのではないか。「アルジール」と呼ばれた女性の政治犯収容所跡の記念博物館を見学しながら、歴史の教訓に学ぶことは多いと改めて感じた。