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アジアの今昔・未来

第420回
若王子さん誘拐事件から30年(下)

2017-08-22. 直井謙二
若王子さん誘拐事件から20年ほどたった頃に再び現場を訪れてみた。さすがにフィリピンも大きく様変わりしていた。何度も取材した誘拐現場のサトウキビ畑は道路が整備され工場が建っていた。(写真)若王子氏が救助を求めた日系ホテルの支配人を始め多くの目撃者はすでに他界していた。主犯格とされていたフィリピン人のマフィアの男はまだ服役していたが多くを語ろうとしなかった。筆者の記憶も含め全てが時の流れに押し流されたようだ。

ただ記憶が鮮明に残っていることがある。マスコミ各社に何回か届いた脅迫文が一度筆者宛にも届いたことだ。脅迫文は毎回各社のマニラ支局宛に送られたが、当時筆者の所属するテレビ局には支局がなかった。民間の放送局が支局を開設に乗り出したのはマルコス政権が倒された1986年のピープルパワー革命をきっかけにフィリピンが急に注目された後だった。筆者の所属するテレビ局もマニラ支局開設に向け計画の段階だった。

脅迫文は共同通信と朝日新聞の支局それに筆者の泊まるホテルの部屋宛だった。共同通信のN支局長の呼びかけで3社がそれぞれの脅迫文を持ち寄って検討会が開かれた。中指のない若王子氏の手形とタイプで打った脅迫文、それに若王子氏の肉声テープで同じ中身だった。ただ脅迫文のインクの濃さは共同、朝日、筆者宛の順に薄くなっていた。

犯人グループは3枚の紙の間に2枚のカーボン紙を挟み込みまとめてタイプライターで脅迫文を打ったと見られる。投函先の消印を比較すると共同と朝日は犯行現場のカンルーバンだが、筆者宛の脅迫文の投函先はホテルの裏にある中央郵便局からだった。支局がないことから筆者が宿泊していることを確認した後、ホテルの近くの中央郵便局で投函したと推測される。筆者の取材活動の中でどこかで犯人グループと接触した可能性も出てきた。

共同のN支局長が急に色めき立ち「いつごろからマニラ取材しているか」「宿泊はいつも同じ宿か」「取材活動の範囲は」など筆者を取材し始めた。取材するのは慣れていても取材されるとなると焦る。

間もなく本社から電話が入った。「君のことについて書いた共同の配信が来たぞ」。本社のデスクは脅迫文も共同の配信もいいネタになると上機嫌だ。だがどこで犯人グループと接触したのか、誰が筆者の部屋番号を調べたのかなど皆目見当がつかなかった。恐怖が襲い、1か月以上夜の外出を控えたことは今でも忘れられない経験だ。