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アジアの一期一会

第45回 イスラム圏旅行者の飲酒事情
2020-04-01. 小牟田 哲彦
 酒を日常的に嗜む者がイスラム圏を旅行しようとするとき、現地での酒の入手をどのように考えるのか。酒が手放せなければイスラム圏を旅行しなければいいだけなのだが、実際には、イスラム圏といっても国によって酒に対する姿勢はさまざまで、旅行者が酒を飲めるケースはそれなりにある。

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ドーハのレストランで注文したランチ。アルコールはメニューになくお茶で食した。
 中東諸国では、社会規範として飲酒が基本的にNGとされるケースが多い。それらの国々では、私たち外国人観光客でも大っぴらに酒を飲むのは難しい。とはいえ、イランで仲良くなった男性は「密造酒を飲んでいる」とはっきり言っていたし、パキスタンでも密造ワインを飲んだという日本人旅行者に会ったことがある。ただし、当然ながら密造酒は品質が公的に保障されていないので、飲んだ後で体調を崩しても文句が言えない。言葉が通じない外国でそれは避けたいところだろう。

 ちなみにパキスタンでは、イスラム教徒の飲酒は法令で禁じられているが、非イスラム教徒の国民や外国人が酒を購入すること自体は認められている。国内に、英領インド時代に設立された老舗のビールメーカーまである。

 多民族、多宗教が混在している地域で酒を飲みたくなったら、中華系のレストランへ行くのが常道とされる。たとえば、マレーシアではマレー人、インド人、華人が異なる言語、文化を保ちつつ共存しており、市中のレストランも経営者の民族によってメニューが異なる。暑さしのぎに冷えたビールを飲みたければ、中華系の食堂へ行くのが基本だ。これはマレーシアに限らず、世界中どこへ行っても中国人が経営する中華レストランでは食のタブーが少ない。

 その中国国内にもイスラム教徒はいる。新疆ウイグル自治区のカシュガルでウイグル人経営の小さな食堂に入ったとき、同行の日本人旅行者が愛想のよい店の主人に「ビールはないの?」と小さな声で尋ねたところ、主人は従業員に金を渡して、どこか(たぶん漢民族経営の商店)から瓶ビールを買ってこさせた。それをそのまま私たちに渡したうえで、「これはテーブルの上に置くのではなく、足元に瓶を置いて隠しながら飲むように」と言った。対応が慣れていたので、そういう外国人旅行者がときどきいるのかもしれない。

 もっとも、他のウイグル人の食堂へ行ったときは、店の奥にある個室扱いのスペースで地元客相手に酒が提供されていた様子を見た。そのことを、市中で仲良くなった別のウイグル人と食事をしながら話してみたところ、彼は苦笑いしながら「酒は公然と飲むのではなく、親しい仲間同士だけで飲むのが一般的」と解説してくれた。

 ということは、「お近づきの印に一杯」ということはないわけである。確かに、イスラム教国を旅して現地の人と仲良くなり、一緒に食事をしたりお茶を飲んだりしたことは何度もあるが、しょせんは行きずりの旅人である私と初対面でいきなり酒を酌み交わしたイスラム教徒はいない。酒を飲むこと自体よりも、酒を飲みながら生まれる会話を楽しむほうに主眼を置いているのであれば、イスラム圏の旅行中に地元の人と酒を飲む機会を得るのは、なかなかにハードルが高い。