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アジアの一期一会

第48回 インドの悪徳旅行会社で詐欺に遭う(前編)
2020-07-01. 小牟田 哲彦
 インド旅行時に、買い物やホテルの宿泊、交通機関の利用に際して正規、あるいは相場よりはるかに高い金額を吹っ掛けられた、という話は昔から多くの旅人によって語り継がれてきた。どこの国でも同じようなことは起こり得るのだが、インドはその経験者が突出して多いらしい。似たような事例を聞けば「自分は注意しよう」と思うが、それでも引っかかってしまう被害者は後を絶たない。かつて私も、その1人であった。

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ニューデリーの悪徳旅行会社が発行した2等チケット
 ある朝、ニューデリー駅で列車のチケットを購入しようとしていた私に、駅窓口の駅員は、「市中にあるデリー観光開発公団(DTTDC)のツーリストオフィスで購入せよ」と言ってきた。国鉄の職員が紹介する公的機関であれば問題ないだろうと考えた私は、その駅員から紹介された同公団の社員だという小太りの男に案内されて、そのオフィスを訪れた。

 私は、当日夕方の列車の2等チケットを所望した。応対したスタッフは、「今日の列車だと、2等はないが1等なら用意できる。ただ、先にチケット代を払い、チケットの交付は午後まで待つ必要がある」と回答し、該当列車の1等チケットの料金表を示した。「先に金を払うがチケットは後で渡す」という時点で怪しまないといけなかったのだが、今日のチケットがどうしても欲しかった私はそれを了承し、昼に一時離席した以外は、ほぼそのオフィス内に滞在して午後になるのを待った。

 スタッフがどこかへ電話したりチケットを発券する様子は全く見られないままそのオフィス内で数時間が過ぎ、列車の出発時刻の1時間半前になって、スタッフの1人が急にどこからかチケットを取り出し、「これがチケットだ」と言って私に渡した。それは、支払済み料金の半額にあたる2等チケットだった。「このチケットは、我々が特別のコネによりブラックマーケットで入手したものであり、差額はその入手時に使用した」というのが彼らの言い分である。もちろん、そんな説明は事前に一切ない。

 抗議の意思を示す私を、オフィス内にいた男性スタッフ10人ばかりが一斉に取り囲み、速やかにそのチケットを持って退去するよう大声で恫喝された。列車の出発時刻が迫っていたし、多勢に無勢でどうにもならなかった。そのキャンセル待ちチケットで何とか目的の列車に乗れたことが、わずかな救いであった。

 帰国後に調べたところ、このオフィスはDTTDCの名を騙って勝手に営業している私営の旅行会社であった。「国鉄の職員が紹介する公的機関」でも何でもなかったのだ。ニューデリー駅で駅員から紹介された小太りの男が、すでにグルだったのだろう。

 日本円に換算すれば、当該列車の1等と2等のチケットの差額など大したものではない。目的の列車そのものには乗れたことも間違いない。だが、自分を騙したこの私営旅行会社に対して、何もしない日本人を演じたくはなかった。「日本人はこんな少額を詐取されただけで、ここまで反撃するのか?」くらいは、あの男たちに認識させたかった。

 そこで私は帰国後、上記の経緯を詳細に記した英文を、問題の旅行会社の場所をマーキングした地図とともに、東京にあるインド大使館とインド政府観光局に配達証明で郵送した。英文は私の稚拙な英文を、私の体験談と反撃計画を面白がって(?)協力してくれた国際貿易等をしている英語の堪能な日本人とネイティブのアメリカ人に見てもらい、英文としてそれなりに格調ある紳士然とした抗議文に仕立ててもらった。また、ニューデリーにある日本大使館にも、本件被害事実を一旅行者として報告する、という趣旨で国際郵便を送付した。

 客観的には多額の被害とは言い難いし、こんなことで日本の在外公館やインドの公的機関を煩わせるべきだろうか、とも思った。だが、一観光旅行者が遭った詐欺被害に対して、当時の旅行ガイドブックなどはさかんに「きちんと大使館や現地警察に被害事実等を報告すべし。それは今後の外国人旅行者の被害防止にもつながる」などと書いていた。本当に報告したらどんな対応をしてくれるのか、ということは、今後の海外旅行時の参考のために知りたい気持ちもあった。日本大使館にしろ東京のインド関係機関にしろ、被害額僅少な小規模事件として無視されても、その業務上の判断は仕方ないとも思っていた。
(後編につづく)