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アジアの一期一会

第33回 公用語に選ばれた東ティモールのポルトガル語
2019-04-01. 小牟田 哲彦
 2019年の今、「アジアで最も新しい国は?」と聞かれて、すぐに答えられる日本人はどのくらいいるだろうか。正解は東ティモール。2002年にインドネシアからの独立を果たした21世紀最初の独立国でもあり、「アジアで最も新しい」と言ってもすでに独立から17年が経とうとしている。

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首都のディリ国際空港。搭乗ゲートに掲げられた表示は英語のみ。
 独立前はもちろん、独立後も治安上の不安がしばらく続いたことや、外国人向けリゾートの要素が一通りそろっているバリ島から近すぎることもあってか、あえてこの小国を訪れようとする旅行者は少ない。一日中のんびりとした雰囲気が漂う首都のディリ市内では、インドネシアによる併合時期(1975年〜2002年)よりも前のポルトガル支配時代の影響と、独立前後を中心に世界各国から平和維持活動の一団が来ていた経緯から、各国の料理をレストランで楽しめる。中でも、ポルトガル料理のレベルは高いとされている。

 旧宗主国であるポルトガルの影響は、レストランの料理にとどまらない。その影響の最たるものは言語であろう。21世紀になってから独立したこの新国家は、国民の多くが解するテトゥン語と並んで、あえてポルトガル語を公用語に選んだのだ。同国でポルトガル語を解するのは1975年以前に高等教育を受けた世代にほぼ限られ、人口の5%足らずとされている。

 小国が長期的な発展を見越すのであれば、国民の母語ではない言語を公用語にするなら英語が最適ではないか、と誰もが考えるであろう。これから新しい世代に新しい国内共通語を教育しようとするとき、将来の東ティモールの発展を合理的に考えれば、ポルトガル語ではなく英語を公用語に選んでもおかしくなかったはずだ。だが、建国者たちは合理性よりも大事な何かがあると判断して、あえて四半世紀前の宗主国の言語を自国の公用語に選んだのである。

 もっとも、ポルトガル語圏以外から同国を訪れる外国人旅行者が、東ティモールをポルトガル語圏と認識する機会は少ない。街の中の表示がテトゥン語とポルトガル語であるのは視覚的に認識できるが、外国人旅行者が利用するようなホテルやレストランはどこも英語が通じる。東ティモールの外国人旅行者施設における英語の通用度は、同じポルトガル語圏であるブラジルを上回っているというのが私の経験による直感である。


 ほぼ唯一、私がディリ滞在中にポルトガル語でのやり取りを必要としたのが、タクシーの運転手との交渉である。公共の交通機関がほとんど役に立たず、中距離以上の移動にはタクシーが必須なのだが、年輩の運転手だと英語を解さずポルトガル語で値段交渉をすることになる。数の数え方くらいは誰が相手でも英語で何とかなると思っていたらそうならないので、こちらは、数年前に南米へ行ったときに覚えたスペイン語での数の数え方を思い出した(スペイン語とポルトガル語は相似性が高い)。建国後に一から学校教育を受けた世代がそろそろ社会に出始め、ポルトガル支配時代を知る世代が徐々に少なくなる最近の東ティモールで、さて、私たち外国人旅行者は、どのくらいの範囲でポルトガル語の準備をしておけばいい状態になっているだろうか。