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アジアの一期一会

第35回 ブータン招待旅行未遂
2019-06-01. 小牟田 哲彦
 日本のパスポートを持つ観光客が自国に入国しようとするときに、今も入国ビザの事前取得を求められる国は、アジアにはほとんどない。例外として思いつきやすいのは北朝鮮で、事前のビザ取得だけでなく入国から出国まで全行程に国営旅行社のガイドがつく。

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プンツォリンの国境ゲート。手前がブータン、門の先はインド。
 ところが、北朝鮮以外にも、日本人を含む外国人観光客に厳格な事前ビザ取得を義務づけ、しかも原則として自由な国内旅行を許さない国家が今もある。インドと中国に挟まれたヒマラヤ山麓の小国・ブータンだ。国民の「幸福度」が高いとの日本のメディア報道によるイメージからは、北朝鮮のような外国人観光客の自由旅行制限を連想しにくいだろう。

 ブータン南部の国境都市・プンツォリンは、そんな旅行しにくいブータンで唯一、外国人旅行者が事実上自由に立ち入れる街である。インド側の街とは国境ゲートで通じているが、国境通過時にチェックは何もなく、両国民は自由に両国間を往来している。したがって、私たち外国人旅行者もノーチェックでインドからブータン側に入国できる。街の中ではブータン・インド両国のどちらの通貨も使えるが、郵便局から日本へエアメールを出すときはブータンの切手を貼らないといけない。街の郊外に検問所があり、首都ティンプーを含む他の国内都市への移動はそこできちんとチェックしているらしい。

 私は旅行の途中で知り合った日本人旅行者と2人でこの街を訪れ、ブータン料理のレストランで食事をしていた。すると、隣席のブータン人男性が私たちに興味を持って話しかけてきた。ブータン人は日本人と顔かたちが似ているが、ブータンでは民族衣裳の日常生活での着用を国民に義務付けているため、洋服姿でスプーンを使って食事をしていれば(ブータン人はインド人同様、食事は基本的に右手で食べる)、すぐに異邦人とわかる。

 街の食堂での相席者と一期一会のお喋りはよくあることだが、彼らはそのうち、「自分は明日、ティンプーに行くのだが、よかったら一緒に来ないか」と誘ってきた。いや、興味はあるが自分たちは入国ビザを持っていないし……とやんわり辞退したところ、「ブータン人の自分たちが同行していれば大丈夫だ」という。そんな入国の仕方は旅行ガイドブックには書いていないが、「自国民の身元引受人がいる」ことを外国人の入国条件の一つとする国は他にもあるから、あながち非現実的な話というわけでもない。未知の国への好奇心から話を続け、結局、このレストラン前での明朝の集合時刻を互いに決めてその日は別れた。

 果たして翌日、私たちは約束の時刻より少し早く同じレストランを訪れて1時間ほど待ったが、あの民族衣裳姿の男性はついに現れなかった。プンツォリンからティンプー方面へ行く乗合バスはその付近に発着するため、公共交通機関で首都を目指すなら姿を見ることはできるはずだが、探しても見つけることはできなかった。

 出会ったばかりの外国人旅行者を身元引受人として自国に迎えて旅行させる、という話を冷静に振り返れば、一歩間違えれば危険なことにもつながりかねない。ただ、出会ったばかりの現地の人たちから思いがけず一宿一飯の厚意を受けることは、アジアの他の国々でもたびたび経験している。もしあのとき、約束通り男性が現れていたら、私は本当にティンプーまで行っていただろうか、と今でも夢想することがある。