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アジアの一期一会

第39回 マレー半島の豪華急行を支えるクルーたち
2019-10-01. 小牟田 哲彦
 2013年10月からJR九州が運行している豪華クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」は、デビュー以来6年を経た今なお、その人気は全く衰えず、高額な乗車チケットを入手しにくい状況が続いている。列車に乗ること自体を楽しむこうした豪華クルーズトレインは、ヨーロッパではオリエント急行(現在は「ヴェニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」。略称は「VSOE」)が知られているが、実は「ななつ星 in 九州」に先立つこと20年も前から、“東南アジアのオリエント急行”として世界中から観光客が乗りに来る豪華列車が、マレー半島を走り続けている。

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ピアノの生演奏が流れるE&Oのバー・カー。夜の営業時間は「最後のお客様が退席するまで」
 その名は「イースタン&オリエンタル・エクスプレス」(略称は「E&O」)。シンガポールからマレーシア西海岸の路線を経てタイのバンコクまで、ヨーロッパでオリエント急行を運行する会社がE&O専用の豪華客車を仕立てて結んでいる。最も安い寝台個室でも2泊3日の乗車で1人50万円近くかかることから、乗車するのは主に外国の富裕層である。

 この豪華列車の車内サービスを支えるために、運転士や車掌など運行に直接携わる鉄道員とは別に、客車内にE&O専属クルーが大勢乗務している。乗客数に応じて客車数が変動するので、クルーの人数もそれに伴い変わる。私が乗車したときは乗客が列車全体でいつもよりやや少ない42名だったが、これを迎えるE&O専属クルーは食堂車の厨房スタッフなども含めて総勢35名というから、相当に手厚いおもてなし態勢だった。

 各客車には担当スチュワードが乗務していて、寝台個室からボタンを押せばいつでも来てくれる。ランチとディナーは食堂車で供されるが、朝食時と午後のティータイムには彼らが個室まで食べ物や飲み物を運んできてくれる。個室内の清掃や夜のベッドメイキングも、こちらが不在の間に済ませてくれる。

 彼らクルーの大半はタイ人で、外国人向け5つ星ホテルなどの勤務経験が豊富な者などが採用されている。ただ、狭くて揺れる列車の中でもホテルと同じように勤務できるとは限らないため、着任前に全区間を一度実際に乗車させて、列車クルーとしての適性を見ているという。

 クルーは乗務中、旅客用の寝台個室とは別の乗務員用寝台に居住している。ゆったりした旅客用個室ではなく、ほぼ寝るためだけの、3段式の狭い寝台個室だ。ここで寝泊まりしながら、夢見心地の豪華旅行を楽しむ私たち旅客に終始笑顔で接してくれる彼らの仕事はなかなか大変だろうと想像するが、クルーの離職率は低いとのこと。

 彼らをまとめる列車長に女性がいるのは、ヨーロッパの本家にはない、E&Oならではの特徴だ。戦前の豪華列車の伝統を引き継ぐVSOEのクルーは男性のみだからである。私が乗車したE&Oの列車長はスイス出身の女性だったが、遠くアジアまで来て列車クルーをしている理由を尋ねたところ、「E&Oなら私もオリエント急行に乗務できるから」とはっきり答えた。

 列車長として全クルーを統率する彼女は、昼は鉄道員の制服でトランシーバーを片手に客車内を歩き、夜はドレスに着替えてピアノの生演奏が流れるバー・カーで乗客をもてなす。E&O車内限定のオリジナルカクテルを傾け、彼女や他のクルーの話を聞きながら、私は「日本にもこういう列車があればいいのにな」と羨ましく思った。「ななつ星 in 九州」が登場したのは、それから3年後のことである。