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アジアの一期一会

第20回 シリアの戦場跡でパレスチナを語る公認ガイド
2018-03-01. 小牟田 哲彦
 シリアの戦場跡というと何だか現在進行形で出現しているシリアの国土全体のことのようにも思えるが、以下は現在の内戦状態発生前のシリアでの体験である。

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イスラエル軍に破壊されたという建物(シリア・クネイトラ)
 首都ダマスカスの南西に広がるゴラン高原の東部に、クネイトラという地域がある。1967年の第3次中東戦争と1974年の第4次中東戦争で、シリアとイスラエルの両軍はこの地で激戦を展開。一時はイスラエルがこの地を占領していたが、最終的には撤退。シリアの実効支配下に入った同地は、国連監視下の非武装地帯となった。撤退するイスラエル軍が破壊していったクネイトラを、シリア側は「イスラエルによる残虐行為の記録」であるとして公開していたため、内戦前のシリアでは、我々外国人観光客も所定の手続きを経れば訪問することができた。

 朝8時過ぎにダマスカス市内の内務省クネイトラ事務所を訪ねると、当日の訪問許可証が無料ですぐ発行される。韓国から訪れる板門店より、手続きはよっぽど簡単だ。それを持って街のバスターミナルからミニバスに乗り換えて30分ほど郊外へ走ったところに、クネイトラ地域へ立ち入るための国連の検問所がある。「UN」と大書された看板が緊張感をかきたてる。ここからエリア内へ入ると、途中から英語を話すシリア人ガイドが合流する。有名観光地でよく見られるフリーのガイドではなく、れっきとしたシリア内務省の役人である。

 この日の訪問者は私1人だったのだが、それでもガイドがつけられ、自由行動は許されない。ただし、見学範囲を自動車で巡るか徒歩で歩いてまわるかは選ばせてもらえたので、私は車を降りて、彼と2人でかつての住宅街や市街地だったエリアを歩いた。
 
 現在のクネイトラに住民はいない。歩く道の両側には、イスラエル軍の爆撃で破壊された商店や教会、民家の跡がそのままの状態で青空の下にさらされている。ガイドはそれらを一つひとつていねいに解説し、「イスラエル軍の破壊行為によるものだ」と何度も繰り返す。一方で、遠方に連なる高い丘陵を指差すと、「あの山の向こうはパレスチナだ」と言う。彼が語るこの地の案内の中に、イスラエルという名称は、一般住民の生活圏であったこの地域を無慈悲にも爆撃した残虐な敵軍を指すときにのみ使われ、地名としては一切出てこないのだ。

 シリア人が誰でも英語を話すわけではないし、ましてや彼は、イスラエルを非難し自国の正当性を外国人に主張する役割を担う国営ガイドという立場である。とはいえ、「あの山の向こうに本来あるべきはパレスチナであってイスラエルではない」という認識は、大多数のシリア人が持つ素朴な感覚と思われる。日本の、というより日本語によるテレビや新聞などの報道範囲内にいると、どうしても現在の実効支配者を前提としたイスラエルやパレスチナの地理感覚が醸成されがちだが、それが万国共通の真理ではないことを、彼の言葉の端々から痛感させられることしばしばであった。特別な立場の通訳兼ガイドであっても、実際に会って話せば気づかされることが少なくない、という一例である。