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チャイナ・エクスペリエンス

東京・中国映画週間とSF 超大作『流転の地球』など最新作いくつか(下)
2019-11-11. 戸張東夫(ジャーナリスト)
<中国で初めてのSF 超大作映画『流転の地球』>
今年の中国映画週間で筆者が一番期待していたのは『流転の地球』だった。中国の春節(旧正月)に当る2月5日に封切られ、ついで米国、カナダなどの一部で公開されると中国で初めて作られたSF 超大作映画として話題になり、インターネットや新聞でさまざまに論じられていたからである。SF 映画には高度の先端技術が必要だし、膨大な投資が必要なので米国のハリウッド以外には簡単に作ることは出来ないと考えられていたのであろう。


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『流転の地球』より、地球を救うため決死の覚悟を固めた宇宙飛行士。NPO 法人日中映画祭実行委員会提供。
たとえば米有力紙『ニューヨークタイムズ』は(2019年)2月5日Arts 欄一面の二分の一の大きな写真を使って「中国は宇宙探査でも、SF 映画でも一歩遅れていたが、いまや事態は変わろうとしている」といち早く報じた。わが国でも「中国、映画で『宇宙強国』」という見出しで上海特派員が次のように報じている。「中国初の本格SF 映画と称して公開されている『流浪地球(さまよう地球)』(郭帆監督)が大ヒットとなっている。中国人宇宙飛行士が地球の危機を救うという物語が、多くの中国人の愛国心を刺激しているとみられる。中国共産党機関紙・人民日報など官製メディァは称賛の論評を連日掲載し、米国がリードしてきたSF 映画の分野でも、対抗姿勢を示しているようだ。」「興行収入は16日までに35億元(約570億5000万円)を超え、中国で歴代3位となった。」(『読売新聞』2019年2月18日)

<地球を太陽系から離脱させる>
自分の目で観た『流転の地球』はファンタジーとはいえスケールがあまりにも大きいので一瞬息をのんだほどだった。ストーリーはこんな具合である。

太陽が膨張を始め、このままでは地球が太陽に呑み込まれてしまう。地球の科学者たちがこの事実に気づき早速対策を協議、地球を捨てて他の惑星に移住するという案もあったが、結局地球に無数の巨大エンジンを設置し、その推力で地球を太陽系から脱出させることになる。早速準備を始め、地球はナビゲーター役の大型宇宙ステーションを伴い42光年の彼方のケンタウルス座を目指して2500年の長い旅に出たのである。太陽から離れたため地表は凍りつき、人々は地下都市を設けて寒さをしのいだ。その後の地球と人々がどうなったかがこの作品のテーマである。地球は木星と衝突の危機に陥り全世界が力をあわせて地球の方向転換を図る。だがうまくいかずみなが地球の最後を覚悟したが、一人の宇宙飛行士の命を賭けた行動によって危機を回避、地球ロケットは無事に旅を続ける。

青い地球、巨大な木星、NASA の無人宇宙探査機ボイジャー1号が撮影したのであろう木星の土色の大きな醜悪な大赤斑、木星と接近する地球のシルエット。宇宙の神秘を大きな画面で観賞できるのも SF 映画の醍醐味だ。最新の技術を駆使した特撮場面の水準も相当なものでどこへ出しても恥ずかしくない完成度である。初めての本格的な SF 超大作に取り組む制作者たちの意気込みすら感じさせる。

<中国探査機、月の裏側に着陸>
たしかに『流転の地球』はなかなかの力作である。それは認めるとしても全体が暗すぎる。地球が消滅するかどうかという深刻な事態に直面している人たちが主人公だとしてもそんなに緊張しっぱなしではファンも疲れてしまうのではあるまいか。SF 映画とて教育映画ではなくエンターテインメントなのだからユーモアや笑いもあってほしいものだ。もっともこの生真面目なところが中国映画の特徴の一つなのかもしれないのだが。

もう一つ気になったのは登場人物がしばしば口にするが姿を見せない連邦政府だ。この政府はAI (人工知能)や携帯電話などで人々に命令や指示を伝えているようだ。連合政府というから国連安保理常任理事国代表などが集まって政府を構成しているのかとも考えたが、これは中国の映画なのだからもっと中国的な政府ではないかとも思う。中国の政治制度は代行主義といわれる。代行主義とは「エリート集団が人民に代って改革の目標を設定し、人民に政治意識を扶植し、目標達成のために人民を動員するが、人民が自発的に政治に参加する制度的保障を欠く指導体制と指導様式」(山田辰雄慶応大学名誉教授)と定義される。この代行主義にいまの中国のハイテク監視社会が加わると『流転の地球』に描かれたような社会になりそうである。政府が全てを決定し、人々はその命令に従うだけ。決定に参画したり、異議を唱えたりは出来ないようだ。

あるいは中国の映画ファンは我々外国の観客とはまったく異なるメンタリティで『流転の地球』を観ていたのかも知れない。春節を目前に控えた(2019年)1月3日中国の無人月探査機「嫦娥4号」が世界で初めて月の裏側への着陸に成功したのである。月探査では米国とソ連(ロシア)が先行しているが、月の裏側に着陸した国はどこにもない。これが初めてである。宇宙開発の先進国である米ロを制して達成した成果だから誇り高い中国の人たちは喜んだに違いない。そのような気持ちで『流転の地球』を観たのだから、映画と現実が二重写しになり、映画でも現実でも中国が宇宙大国になったと心の中で快哉を叫んでいたのではあるまいか。

月は常に同じ面を地球に向けて回っている。このため地球から直接月の裏側を見ることは出来ないし、地球との直接交信も出来ない。このため中国は昨年(2018年)5月「嫦娥4号」と地球の通信を中継する別の衛星を打ち上げていた。この衛星経由で送られた北京の管制センターの指示で「嫦娥4号」は3日夜搭載していた探査車を分離して月面に降ろし、活動を開始した。「嫦娥4号」が撮影した月の裏側の写真と月面に降りた探査車の写真が公開された。中国の国家宇宙局は今後「嫦娥」6、7、8の三機を相次いで打ち上げる方針だという。