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チャイナ・エクスペリエンス

中国は海洋大国を目指す? (下)
2020-07-06. 戸張東夫(ジャーナリスト)
<中国は南シナ海でもデモンストレーション活動展開>
さて本題に戻って南シナ海における中国の活発な活動を見てみよう。

中国やベトナムなどが領有権を争う南シナ海のパラセル諸島海域でこの(2020年)4月と6月中国船が操業中のベトナム漁船に体当たりして漁船を破損させたり、沈没させたりする事件が起こった。新聞報道によると、4月2日中国海警局の公船の体当たりを受けたベトナム漁船が沈没した。乗組員は無事だった。海に投げ出された乗組員の救助に向かった漁船の僚船2隻も中国船に一時拿捕された。ベトナム政府は「中国は主権を侵害した」との声明を発表し、再発防止や漁船の補償を求めた。一方、中国海警局の報道官は3日、漁船がパラセル諸島海域に違法に侵入したとし、去るように警告した公船に「危険な動きを繰り返した」と主張した。(『読売新聞』2020.4.5)

この事件に対して米国務省は事件4日後声明を発表、各国が新型コロナウイルスへの対応に追われていることを念頭に「他国の動揺や弱みを利用して南シナ海での違法な領有権主張を拡大することをやめるよう求める」と名指しせずに中国を非難、「深刻な懸念」を表明した。だが中国は声明が出された4日後、声明に挑戦するかのように同じ海域で、同じような事件を起こした。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の中には中国と領有権を争う国もあり、そうした国々は南シナ海における中国の傍若無人の振る舞いに反感を抱いている。中でもベトナムは反中国の急先鋒だ。それだけにしばしば衝突することになる。だが中国の活動が活発化するに伴い各国の対応も厳しくなり、南シナ海における中国の違法行為に歯止めをかけることが最近のASEAN諸国の大きな課題になっている。

<中国海軍が東進してハワイ沖で訓練>
一方強大な軍事大国になった中国はいまやASEANの中小国には目もくれずアジア太平洋地域では物足りないとでもいうように太平洋を東進し、随所で訓練、デモンストレーション、調査など様々な名目で軍事力を誇示しながら行動範囲を広げている。例えばこの(2020年)2月中国海軍の最新鋭のミサイル駆逐艦など数隻が米軍基地のあるハワイ沖まで遠征して初めての訓練を実施したという。「太平洋での作戦範囲を拡げる狙いとみられる」という。(『読売新聞』2020.3.29)また今年(2020年)6月18日に中国の潜水艦が鹿児島、奄美大島周辺の日本の接続水域内を潜ったまま航行するというケースも報じられている。中国はいま空母2隻を保有している。すでに運用されている「遼寧」に加え、昨年(2019年)12月に就役した初の国産空母「山東」である。この空母の訓練や航行には大きなデモンストレーション効果があるので、ニュースとしてしばしば報じられる。

「中国空母 南シナ海訓練」という見出しで次のように報じる。「中国国営新華社通信によると、中国海軍の報道官は(2020年)4月13日、空母『遼寧』が西太平洋などを経て、南シナ海に至る訓練を実施したと発表した。米軍の原子力空母で新型コロナウイルスの感染が拡大し、抑止力低下の懸念が広がるなか、中国空母の存在感を見せつける狙いがあったとみられる。」(『読売新聞』2020.4.14)こんな具合である。

<中国が南シナ海に行政区を新設して管理強化>
中国のこの時期の南シナ海における行動で周辺諸国だけでなく国際的にも最も注目されたのは中国が南シナ海に新たな行政区を設けてスプラトリー諸島とパラセル諸島の一部を一方的に自国の行政機構に組みこんでしまったことではあるまいか。

中国政府が(2020年)4月18日に発表した。南シナ海の島々を管理する現存の海南省三沙市の下部機構として南沙区(区人民政府所在地、ファイアリー・クロス礁)と西沙区(区人民政府所在地、ウッディー島)を新たに設け、それぞれにスプラトリー諸島とパラセル諸島を管理させるという。

スプラトリー諸島は南シナ海南部に位置し、岩礁、砂州など海洋で自然に形成された地形の集合体で環礁を形成している。中国のほか台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイなどが全域や部分の領有権を主張し、居住民のいるところもあるという。ところが中国がスプラトリー諸島全域の領有権を主張し、岩礁を埋め立てて滑走路や格納庫、港湾などの軍事施設を建設するなど軍事拠点化を進めていた。またパラセル諸島は、スプラトリー諸島の北西といったらいいのか、中国、ベトナム寄りに位置する。五十近いサンゴ礁の島と岩礁からなっており、全域を中国が実効支配している。ここでも軍事基地化が進んでいるが、ベトナムと台湾が領有権を主張している。

このように領有権紛争が未解決な島々を自国の行政機構に組みこんでしまったのだから、乱暴な話である。ポンペオ米国務長官は(2020年)4月23日ASEAN外相とテレビ会談を行った中で「米国は、中国の横暴に強く反対する」と非難した。周辺諸国としては、中国がこうして既成事実を積み重ねて領有権の独占を図ろうとしているととらえ、危機感を持って中国に強く抗議しているのである。

<中国の活動の背後に感じたもの>
各国が新型コロナウイルス対策に追われている隙を突いたように中国がアジア太平洋海域で活発に動き始めたというので、中国の動きを具体的に確かめてみようというのがこの論考の目的なのだが、同海域で広く展開される中国の活動を見ていると、背後に何か共通点のようなもの、共通の戦略というほど緊密ではないのだが、何かこう強い意志といったらいいであろうか、そのようなものを強く感じるのである。中国の公船や軍艦、空軍機による尖閣諸島や台湾に対するデモンストレーションを取り上げてみても共通の戦略が潜んでいるとは思えない。たとえば台湾に圧力をかけるときには台湾の政治情勢などに応じてそれなりのルールに基づいて実施するのであって、尖閣諸島への公船送り込みとは無関係であろう。またこれらのデモンストレーション行動と、中国の船がベトナム漁船に体当たりしたケースをならべてみてもとくに共通点は見当たらないのだが、どこかでつながっている感じを禁じ得ないのである。この印象は筆者がここで取り上げなかった中国が国家安全維持法を施行して香港管理を強化したり(2020年7月1日)、海南省全域を自由貿易港にする計画を発表したり(2020年6月1日)したことにも感じられる。

アジア太平洋地域における中国の様々な活動の背後に筆者が見ていたものはいったい何だったのであろう。中国がついに海洋大国になったという強い印象というか、中国がいよいよ太平洋に進出するぞという気迫のようなものといったらいいかもしれない。中国大陸の太平洋沿岸が津波ように盛り上がり、太平洋を凄まじい勢いで東進するイメージが映画のように眼前に浮かび上がる。アジア太平洋地域における中国の様々な活動の背後にこんなイメージを筆者は見ていたのである。

<中国の「A2AD」戦略も変わる?>
中国の海洋戦略(対米戦略)は「A2AD」戦略といわれる。「A2」というのは「Anti Access(接近阻止)」、「AD」は「Area Denial (領域拒否)」のそれぞれ訳語である。伊豆諸島からグアムに至るラインを「第2列島線」と呼び、この内側で米軍の作戦行動や増援を阻み、さらに我が国の南西諸島からフィリッピンに至るラインを「第1列島線」として、その内側に米軍を侵入させないという二段構えになっているといわれる。だが海洋大国となった中国はこのような防衛的な、受け身の戦略をいつまでも順守するとは限らない。対応する側にも柔軟さが求められよう。