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チャイナ・スクランブル

豪華絢爛の建国70周年記念パレードで、習近平国家主席の権威は確立したのか(下)
2019-10-18. 日暮高則
この時期、香港では相変わらず騒乱が続いていたため、党中央は建国記念日の祝賀行事に差し障りがないよう極めて気を遣っていた。地方政府に対しては、「10・1は準戦時体制で臨む。人権活動家、宗教家らを徹底的にマークし、外出を阻止せよ」との指示を出したという。北京では、少し前から、姓名、身分、身分証、携帯番号の人物確認されない限り、公衆便所を使用させなかったという。日本でも国際的なビッグイベントがある時に、駅やトイレのゴミ箱を撤去するのと似ている。パレード前夜の夜8時以降、長安街近くの住宅では道路に面した8階以上の建物の窓にシャドーカーテンを掛けるよう求められた。さらに、当日朝には居住者は階下に集められ、パレード終了後に帰宅を許されたという。1日前後、大病院では入退院させないし、手術もするなとの指示もあったという。この理由は今一つ分かりにくいが、要は不測の事態を防ぐという意味であろうか。

それでも、不測の事態は起きた。陝西省の省都西安市臨潼区では、巨大な人造花で飾られた「中華人民共和国成立79周年」の看板が失火で燃えてしまう“事故”が起きた。火気のないところだから、放火の可能性が高い。香港では、学生たちが黒い服を着てデモ行進、北京の建国慶祝ムードに反発する姿勢を明確にした。海外では、バルト3国リトアニアの首都ビルニュスで、中国大使館が慶祝で花火を打ち上げようとしたところ、市長に拒否された。その理由は「事前申請がなかった」とのことだったが、同国はもともと社会主義国ソ連に属し、抑圧されてきた過去を持つ国だから、共産党を讃えるような行為は違法なのだ。国会議員の中には「共産主義国家は強権主義で、多くの人命と自由を奪ってきた。それを祝うとは」と露骨に不快感を示した人もいたという。

建国70周年イベントを機に、退役軍人、兵士も不穏な動きを見せた。10月1日の夜6時に全国26の都市の特定の場所に集まるようネットで招集が掛けられたのだ。もちろん、これは年金引き上げ、待遇改善の示威行動に結び付ける狙いがある。全国に退役軍人は5700万人以上いると言われ、さらにその数は毎年数十万人規模で増え続けている。かなりの圧力団体であり、実際に彼らが集合したら、大きな騒動になっていただろう。だが、そのような情報は入っていない。招集にネットを使ったため、公安警察が事前に察知、阻止に動いたことは間違いない。

不測の事態は党内から起こり得る恐れもある。米中貿易戦争、香港騒乱を巡って、習主席の方針に反対する勢力がいることが明らかになっているからだ。米の華文ニュース「博訊網」によれば、パレードの翌日、共産党の機関誌「求是」は、習主席が2018年1月に、新任の中央委員、各省部長(閣僚)の指導幹部向け学習会で行った内部講話を敢えて発表、「祸起萧墙(内輪もめ)を防げ」と強調した。「祸起萧墙」とは論語の「季氏」出典の言葉だが、この時期にしては意味深長な内容である。習氏はこの中で、「どのようにやれば試練に耐えうるか。それはすなわち思い切って自己革命することであり、刃を内部に向けることであり、骨を削って治療することであり、腕を切り落とすことである。そして内輪もめを防ぐ」と述べ、過激な荒療治の必要性を訴えた。

習主席がこの講話をしたのは昨年1月5日で、前年10月の第19回党大会で総書記を再任され、直後の3月に重要な全人代を控えていた時期。この全人代では、自らの”永久政権“も視野に入れ、2期10年という国家主席の任期を撤廃する憲法改正を行った。それだけ、比較的党内基盤の確立に自信をみなぎらせていた時でもあった。だが、その後にトランプ大統領によって貿易戦争を仕掛けられ、香港では逃亡犯条例の改正案を巡っての騒乱が起きた。この2つの問題を受けて党内で対立が生じ、かなり反習の動きがくすぶってきている。1年半前の内部講話を今さらながら持ち出してきたのは、党内に対立があることを対外的に明らかにし、再度権力闘争にまい進する姿勢を示したものであろう。

証券監督管理委員会の劉士余元主席が10月4日、党中央規律検査委員会から行政職ランクを4ランク下げられ、党の監察処分を受けることが明らかになった。それは、2017年の第19回党大会時のグループ討議で、「党内には薄熙来、周永康、令計画、徐才厚、郭伯雄、孫政才の6人組がいて党の権力を奪おうとした」という”党内の機密情報“を暴露したというのが理由だった。薄熙来元重慶市書記が2012年の第18回党大会前に、徒党を組み、陰謀を巡らし、習主席からの奪権を企てたという話は香港などで広く流布され、だれでも知っている公然の秘密。だから、劉氏は、既報のごとく話してしまったのだが、実はまだ公にされていないものであったため、処分対象になった。習主席が2年前のささやかな“事件”での処分を明らかにしたのは、党内の反対派には厳罰で臨む意思を明確にしたかったに違いない。

習近平主席は、10月13日、訪問先のネパールでシャルマ・オリ首相と会談した際にも「どのような人であれ、どのような土地であれ、分裂行動を取るなら、粉々に粉砕されるだけだ。だれであれ中国を分裂させる勢力と結託するなら、中国人民から愚かな妄想だと見られるだけだ」と語った。外国首脳との会談では異例の激しい発言だ。それだけ中国党内の抗争が激しさを増し、習氏は追い詰められている状況なのかも知れない。10月1日の建国記念日パレードで、天安門上に居並んだ新旧指導部は表面的には努めて平静さを保っていたが、それぞれの胸の内には、虚々実々の思いが巡っていたことであろう。