topics & News to Home
霞山会とは
月刊『東亜』
講演会・シンポジウム
中国への研究留学
日本への研究留学
東亜学院中国語学校
東亜学院日本語学校
日中交流
霞山会館
交通案内
各種お申し込みForm

■中国マクロ経済分析
 慶應義塾大学駒形研究会

■霞山学生会
■リンク集
■サイトマップ
一般財団法人霞山会
東京都港区赤坂2-17-47
赤坂霞山ビル
TEL.03-5575-6301
FAX.03-5575-6306

チャイナ・スクランブル

アリババ系金融企業アント・グループの上場中止指示は、民営企業全体への圧力か(下)
2020-11-16. 日暮高則
米ウォールストリート・ジャーナル紙などによると、金融当局の圧力だけでなく、習近平国家主席自らが上場中止を指示したのだという。マー氏は10月24日の会合あいさつで、「執政能力を高めよという習主席の言葉は、正当な監督管理の下で健全で持続可能な発展を図るという意味で、監督管理によって発展を損なうことではない」などと習主席の言葉を引用する形で金融当局を批判した。最高指導者の言葉を借りて担当部門やその幹部を批判するのは中国の論争での常套手段であり、マー氏もその手を使った。だが、結果は裏目に出た。それは習主席に苦い記憶があったためだ。2015年に中国株式は急騰、暴落というジェットコースター状態となったが、この仕掛け人は江沢民元国家主席、曽慶紅副主席らの旧上海閥であるとの認識を習主席は持っており、「二度と金融に手出しさせない」との思いを強めているのだという。ということは、マー氏の強気な発言の裏に権力闘争の臭いをかいだのかも知れない。

ボイス・オブ・アメリカによれば、金融方面のキャリアが長い王岐山国家副主席は10月24日のオンライン方式による金融サミット開幕あいさつで、「金融サービスは実体経済を離れてはならない。金融業は安全性、流動性、収益性の三原則を守らなくてはならないが、この中でも安全性がいつも一番大事だ」と指摘したあと、「中国金融にシステマチックなリスクは存在しない」と主張したマー氏の発言に言及し、「それは習近平主席の見方でないし、党中央の考え方とも一致していない」と述べた。王氏は最近、習主席との関係が悪くなっていると言われながらも、しっかりと習主席の指示に沿った発言に終始した。これを受けて、財経観測筋は「習主席は近い将来、マー氏は許さないという態度を示すことになるだろう」と、何らの具体的な“懲罰行動”に出ることを見通していた。

当局によるマー氏やアントへの強硬な態度が単に金融方面での管理強化を意味しているだけなのか、それともすべての民間事業分野の企業に対する締め付けを意味しているものなのか。それが問題だが、近年の中国の動きとして民間企業の競争を止めさせ、国有企業への集中を図る傾向が見られることは事実だ。すなわち「国進民退」の流れである。ある華文ニュースサイトによれば、台湾シンクタンクのアナリスト、張国城氏は「中国政治も経済も国進民退に向かっているので、ジャック・マー氏の良き日々はもう終わった。彼の企業は影響力が大きくなり過ぎて、当局の不安を呼んだ。マー氏は経営の神様に見られ、ビジネス上のアイドルになったことで、党中央も抑えきれないような感じを持ったのだろう」との見方を示した。

汪洋全国政協会議主席(党中央政治局常務委員)も9月16日、北京で開催の民営企業統一戦線工作会議で、「経済人はその事業の成功が自身の努力によるばかりでなく、時期や事業内容、偉大な党のお陰であることを知る必要がある。党と特色ある社会主義に対する政治的認識を高めなければならない。民間経済人も終始政治的な立場の分かる人であるべきだ」と語った。この発言もマー氏に対する”警告“であったと華文ニュースサイトは見ている。アリババに限れば、傘下の中国動画配信サービス大手「優酷土豆」の元総裁、楊偉東氏(44)が2018年12月、職権を利用して855万元の賄賂を受けていた容疑で公安当局に拘束されていたが、杭州市の地区法院がアントの上場中止に合わせたようにこの11月初め、楊氏に懲役7年の刑を言い渡した。中国では、公務員だけでなく、民間企業の役職員でも贈収賄罪は適用されるので、この判決は民間企業経営者には大いなるブラフとなったはずだ。

銀行保険監督管理委員会と人民銀行は11月2日、「ネット上での少額貸し出し業務の暫定管理規定」草案を示した。ここでは、「登録資本金10億元以下の企業は一級行政区をまたいでネット上で少額の貸し出し業務をしてはならない」と、ネット金融に縛りをかけることが検討されている。さらに、国家市場監督管理総局は11月10日、「プラットフォームの経済領域における独占禁止行為の指針」の草案を発表、ネット通販企業の独占的な商業行為を規制した。アリババは昨年、巨大なネット通販のシェアを背景に、ある家電メーカーに対し「アリババと取引したければ、ライバル企業との取引は止めるように」と迫ったことがあったという。これは明らかに独占禁止法に抵触する行為であるため、ガリバー企業が出展取引先に不当な圧力をかけさせないよう詳細規定を設けたものだ。今、当局はあの手この手で民間企業に対し圧力を掛け、事業発展の空間を狭めている。

ジャック・マー氏はこうした党の圧力を薄々感じてきたせいか、昨年9月、アリババの会長職を降り、今年9月30日には「教育事業など新しい分野で頑張りたい」と同社取締役からも退いて、引退の雰囲気を醸し出している。だが、株は大量に保有しているし、尊敬する部下も多いことから、同社内で彼の影響力が衰えるわけではない。そこで、当局はアントの上場を阻止することで再度マー氏に圧力をかけたのであろう。上場中止”事件“でアリババ株は暴落し、マー氏は一夜にして30億米ドルの損失を被ったという。党中央がアリババをやり玉に挙げて攻勢を仕掛けてくるのは、民営企業全体への見せしめでもあるのだろう。だが、これでは確実に民間の活力を奪っていく。中国は民営企業に圧力をかけて、結局金の卵を産むニワトリを殺してしまう恐れがないとは言えない。