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チャイナ・スクランブル

米中貿易戦争、香港の逃亡犯条例改正で、強硬、妥協と北京当局内部に意見対立も(下)
2019-06-24. 日暮高則
あるメディアによれば、貿易戦をめぐる中国指導部内の対立は「すでに暗闘でなく、明明白白のものになっている」という。中国人民大学の党シンクタンク「長江経済ベルト研究院」の葉勝舟研究員は今年6月6日、英紙「フィナンシャル・タイムス」の華文ネットサイトで、「党の宣伝部門が我が国家や人民を苦しい状況に追い込んだ。内にも外にも厳しい姿勢を見せる党中央宣伝部のやり方ではこの先進まない」と書いた。中国誌「財経」も「鎖国を鼓吹するような極端な民族主義者には注意が必要だ」と強調した。一方、光明日報、新華社など党中央宣伝部の直支配下にあるメディアは、対米譲歩を言う人たちに「親米派」「投降派」のレッテルを張り、打倒対象としていることをほのめかしている。党内には依然、こうした対立があるのならば、対米貿易摩擦の落としどころを探るにしてもそう容易なことではない。

香港の逃亡犯条例改正案に関しては、立法会(香港の議会)が審議を始めようとしたため、まず4月28日に13万人規模のデモがあった。そして、6月4日夜の6・4事件30周年追悼集会に続いて、9日、103万人(主催者発表)が参加する大規模デモが行われる事態となった。条例化のもともとのきっかけは、香港の若者が昨年、旅行先の台湾で、連れの女性を殺害し香港に逃げ帰ったため、台湾の警察が身柄の引き渡しを求めたことだった。香港には英国の植民地時代に逃亡犯の返還を認める条例があり、それが主権移行後も維持されてきたが、面白いことに、大陸はじめ中華圏内は引き渡しの対象から外されていた。中国では人権が守られていないことを英国が懸念したためと言われる。

ところが、今年4月、逃亡犯条例の改正案が立法会に提出された。この改正案は、身柄の引き渡し先に中国国内も含むとされているため、香港に逃げてきた反共産党の“政治犯”までもがあたかも汚職事件という別件刑事犯の容疑者の形で、大陸に連れ戻されてしまう恐れが出てきたのだ。実はこれまでも、香港で反共産党の書籍を出していた出版社、書店の社長とか、共産党や習近平主席に都合の悪い情報を海外メディアに漏らしたと言われる中国の富豪が香港滞在中に突然行方不明となり、その後、大陸内で姿を現したことがあった。

当事者は「自由意思で中国に渡った」と述べたが、発言時は当局者に拘束された状態であり、彼らが香港から強制的に大陸に連れてこられたことは疑いない。条例案がないときでさえ、秘密裏に拉致される人が出ていた。改正案が通れば、今度は、大陸への連行は合法化される。香港警察によって”正々堂々“と中国公安当局(警察)に引き渡されることになる。こうした状況が見通せるために、香港市民は恐怖心を持ち、1989年の天安門事件時以来という100万人を超える規模の大デモンストレーションを行ったのだ。香港の人口は700万人余なので、100万人というのは全市民の7人に一人がデモ参加した勘定になる。

6月12日のデモでは、集結した若者の一部は”警官隊“と衝突したが、この警官の鎮圧方法が、2014年秋、主要道路を占拠して行政長官選挙の全民投票を求めた雨傘運動時とは明らかに違っていた。ラジオフリーアジアの情報によると、ある香港の事情通は「鎮圧に出た警官たちは普通語(中国の標準語)を話し、(香港で使われる)広東語は話せない様子だった。デモ隊に対処する仕方も従来の香港警察に見られなかったほど乱暴であった」と説明、大陸の武装警察部隊のような”正規軍“がひそかに香港に入り、当地の警察の制服を着て出動したのではないかとの見方を示した。また彼は「(香港とマカオ、珠海を結ぶ)港珠澳大橋には大陸側の鎮圧部隊員が多数集結して、香港突入に備えていた」とも明かしている。

つまり、中国当局は香港の情勢が気がかりで仕方がなかった。香港にベースがある「中国人権民運情報センター」によれば、香港の大デモがあった6月9日夜、北京の中南海(中国の党・政府機関の所在地)では、徹夜で成り行きを監視し、政治局委員のほとんども夜間勤務に就いていたという。党中央にすれば、事態が香港で収まればまだしも、大陸側に浸透しては一大事との思いがあったのであろう。というのは、この時期、マカオの隣、珠海にある北京師範大学珠海分校の学校閉鎖(2021年学生募集停止、24年授業終了)が決まったことに対し、怒った学生や父母たち数千人が学校の周囲に集結し、6月10日、11日にデモ行進する騒ぎになった。香港のデモ隊が大陸側に押し寄せたり、珠海の学生たちが橋を渡って香港に来たりして香港、中国の騒動が一体化するのをすごく恐れたのだ。

中国当局は当初、香港問題に対しても条例改正案は通すとの強硬姿勢を貫いていた。党機関紙「人民日報」も「暴力で香港を破壊する者に好き勝手はさせない」との評論員論文を掲げて、デモがあっても揺るがない方針を強調していた。ただ、100万人を超すデモの規模の大きさには驚いたようだ。また、世界各国が押しなべて逃亡犯条例改正阻止、デモ隊側の主張を支持する姿勢を見せたのだ。さらに、米国が「条例改正などしたら最恵国待遇の扱いを止め、香港からの製品も大陸と同様の関税にするかも知れない」との脅しをかけてきた。米国が決めれば、他の西側諸国も追随する可能性は大きい。

条例改正案が出された段階で、北京当局の中にも先行きに不安を感じる幹部がいなかったわけではない。香港の時事評論員、李家宝氏によれば、一部の幹部はやはり国内への影響を考えていて、「現在(米国との貿易戦争を受けて)中国国内情勢が非常に不安定である中、香港など中華圏の動きは何でも国内に騒ぎを引き起こす導火線になり得る。中国が国際的にも、国内的にも明らかに立場が不利なのだから、慎重に対処すべきである」との意見を持っていたという。いつも対外的に強硬意見をはく人民日報の姉妹紙「環球時報」の胡錫進総編集長も「香港が内地の普通の都市のようになることは望まない。香港が内地化したら、中国全体の多彩な側面が失われる」と意味深長な文章を掲載していた。香港への対処で、党内にも多様な意見、考え方があることを裏付けた。

香港は金融、物品が自由に出入りできる魅力で繁栄してきた。それが損なわれたら、自由都市・香港の魅力は失せてしまうのだ。党中央高級幹部の子弟たち、いわゆる太子党も金融、不動産、物流などあらゆる分野で香港に企業を持ち、金儲けにいそしんでいる。したがって、彼らも、彼らの父母たちも金の卵を産む鶏(香港)の首を絞める愚かなことは望んでいない。そこで、中南海も強硬策を貫く考え方を変え、香港特別行政区政府に指示して逃亡犯条例改正の延期を決めたと見られる。