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チャイナ・スクランブル

芸能人いじめ、芸能界の統制は文化大革命の再来か−「共同富裕」が目的?権力闘争説も(下)
2021-09-14. 日暮高則
<党中央の意向示す通知>
8月26日から27日にかけて、有名女優、歌手、人気司会者などタレント、スターを狙い撃ちにした一連の”事件“は当局が芸能界の大粛正を図った動きであることは間違いない。27日に国家広播電影電視(ラジオ・テレビ・映画)総局から出された「さらに一段とスターファンクラブの乱れた現象を正すことに関する通知」は、趙薇、鄭爽、範氷氷、呉亦凡などの名前を列挙し、彼、彼女らが出演している作品をネットで提供しないよう求めるとともに、出演者リストからも名前を消すよう命じている。同日の党機関紙「人民日報」も評論員論文を掲げ、「いったん法律や道徳上のレッドラインにぶつかると、芸能界はすぐにデッドラインまで行ってしまう」と芸能界の危うさを批判している。

党中央紀律検査委も8月31日、「芸能界の乱れた状況の背後にある資本の輪環を断つ」という文章を発表、「資本の無秩序な拡大は止むことなく、芸能界にも及んでおり、一般大衆が耐え切れないところまで壟断している。資本の過度の拡大が経済社会の発展に強く影響を与えたら、人民を中心に据えるべき発展の軌道から大きく離れて行ってしまう」と、芸能人たちが多額の報酬を得て、膨大な資金を貯め込んでいることに注目し、注意喚起した。そして、芸能人らの資金運用について、|羚颪瞭耽Г△觴匆饉腟舛糧展方向を逸脱してはならない、国家の経済や人民の生活まで介入してはならない、9餡箸陵益を損ねてはならない、づ泙了愼嚇な幹部の腐敗を招いてはならない、ド堙な政治的な利益を求めてはならない−の5点の注意点を挙げた。

広播電影電視総局は8月27日の通知でも指摘するように、スターのファンクラブにも強い警戒心を示している。同総局は9月2日にも「芳しくないファンクラブ文化を排除し、総娯楽化を排除し、スターの高額報酬を排除し、ただ流すだけの番組制作、アイドルを輩出するだけの番組を排除しなければならない」との文章を提示。新華社も同日、スターのファンクラブが示す異常な形態に警告を発した。元EXOの呉亦凡さんは今、中国国内を活動の場としているが、世界に5000万人のファンがいるという。ファンクラブにはスターを熱愛し、その人の掛け声一つで何でも従う人たちが結集しているため、この集団が将来異常な力を持ち、共産党支配の体制に災いを及ぼすこともあり得ると党中央は恐れているのであろう。

党中央宣伝部も9月2日、芸能界を粛正しなければならないという通知を出した。それによると、芸能界の問題として、ギャラが高すぎる、表裏の契約が存在する、脱税がある、ファンが過度にスターを真似ようとする異常な現象が見られる、政治性が高くなく、法律、道徳観念もあまりない−ことなどを指摘。この是正のために、.ぅ妊ロギー性(政治性)を強める、∪直年のアイドルファンクラブへの参加、ネット上での支援を止めさせる、K,鯣箸掘道徳性のない芸能人は処罰する、ぅ侫.鵐ラブ、プロダクションを厳しく管理し、スターに金融商品やゲーム類の宣伝をさせない、ゥ丱薀┘謄ー番組を精査し、未成年者の参加番組を絞る、Ε優奪半紊覗郎酳を流通させて不当な利益を得ること、様々なランキング表示、ファンクラブ後援会のアカウント作りは厳重に監査しなければならない−という6点の粛正点を打ち出している。

8月27日に、名だたる左翼作家の李光満氏の「今一つの深刻な変革が進行中」と題したコラムが多くの共産党系サイトに転電された際、世界中のメディアは驚いた。コラムで「資本家集団を人民大衆の方向に戻すべきで、それによって共同富裕を実現しなくてはならない」と訴えたからだ。中国の高齢知識人は、かつての「四人組」の一人姚文元氏が書き、その後の文革の引き金となった「海瑞罷官を評す」論文を想起し、「文革が再来するではないか」と恐怖心を募らせた。このため、いつもは対外的に中国の強硬姿勢を伝える「環球時報」の胡錫進総編集は9月2日の「ウェイボー」の中で、「李光満氏の文章は著しい間違いで、誤解を招く」と書き、党指導部内で大きな方針転換があったことを否定した。だが、党の文化面を管理する“元締め”の宣伝部が同じ日に出した通知は、方針転換を明確にしており、胡錫進氏の面子はつぶされた形となった。

<なぜ芸能界の統制が必要なのか>
党中央がなぜ芸能界の統制に乗り出したのか。習近平主席はこの8月、すべての国民が豊かになるという「共同富裕」の考え方を打ち出した。来年秋の第20回党大会で最高権力者の椅子に座り続けるには、老百姓(一般大衆)の圧倒的な支持を得る必要があると思ったからであろう。人民網によれば、中国で今、1000万元以上の個人資産を持つ富裕層は262万人におり、年末には300万人に達する見込みだという。その一方で、李克強総理が昨年の全人代で「月収1000元以下の人たちはまだ国内に6億人いる」と指摘したように、いまだに多くの人が貧困生活にあえいでいる。中国は近年、ジニ係数(富の集中度データ)を明らかにしていないが、明らかに貧富格差が広がっている。

このため、習近平主席は、今やるべきことは大多数の貧困大衆の底上げを図ることだとし、その意思を明確に示すために、逆にトップ富裕層をたたくことが必要だと認識したもようである。昨年来始まったIT企業のアリババ集団の馬雲氏やテンセント控股の馬化騰(ポニー・マー)会長やビッグな不動産企業オーナーらのビジネスへの監視、資産のチェックはそういう背景がある。富豪経済人の中でも一番に標的になったのが馬雲氏だ。その馬氏の周辺には、海外にまで活動範囲を広げ、高額報酬を得て蓄財している芸能人が群がってきて、不労所得を得ようとしている。そういう芸能人に警告を発するためにも、趙薇夫妻や高暁松氏をスケープゴートにしたのではなかろうか。

前述のように、人気ある著名な芸能人、スターには、ファンクラブが存在し、SNSアカウントを通じて密接な関係を築いている。となると、スターはSNSを通じて多くのファンに影響を及ぼし得る立場にある。党中央にとっては、党組織以外で組織的な活動が展開される状況を嫌う。1990年代末の気功集団「法輪功」の弾圧や、21世紀に入ってからのキリスト教などへの干渉、チベット自治区でのチベット仏教(ラマ教)、新疆ウイグル自治区でのイスラム教の規制などもそうした中で行われてきた。スターのファン組織は一次的には政治性がないものの、場合によっては政治集団に利用される可能性もないわけではない。そこで、芸能人への粛正を奇貨として組織をつぶしにかかったのであろう。

習近平指導部が芸能人への統制を進めたもう一つの理由は権力闘争との絡みもあると言われる。芸能人にとっては全国に映像を流す中央電視台のテレビ出演が重要だが、その生殺与奪の権利を握っていたのが国務院文化部、同テレビ局幹部であった曽慶准氏だ。江沢民主席時代に、江氏の腹心として国家副主席を務めた曽慶紅氏の実弟で、2人の両親も有名な古参共産党員だ。つまり、曽慶准氏の力の源泉は実兄や太子党(紅2代グループ)にあり、さらには江主席のファミリーにも通じている。芸能人をIT関連企業やそのオーナーの富豪たち、さらには江ファミリーにつなげたのは曽慶准氏ではなかろうか。趙薇夫妻や高暁松氏らも曽氏を通して馬雲氏と知り合ったに違いない。ただ、趙薇さんの夫黄有龍氏は、江沢民元主席が可愛がっていた女性幹部、黄麗満深圳市元書記の甥御であるとの説もある。そうであれば、趙薇夫妻は江ファミリーに直接縁を持っていたことになる。

江主席の孫江志成氏は現在、香港をベースに投資会社「博裕資本」を運営しているが、アリババ系の金融集団「アント・グループ」などに投資し、巨額の利益を得ている。馬雲氏は江ファミリーと深いつながりがある。習主席はこうした党中央指導部の元幹部をバックにした利益集団に不快感を持っていたことは間違いなく、昨年来、ことさら馬氏とアリババ集団を締め上げているのは、江ファミリーの影響力を弱める狙いもあったと思われる。