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チャイナ・スクランブル

中国でまたまた子供に悲劇、偽ワクチン事件起きる‐構造的な問題で修復不能か(下)
2018-08-15. 日暮高則
中国のワクチン製造業の総生産高は2016年時に155億人民元で、企業の利益率は高い。中国紅十字会の幹部は「ワクチン接種は暴利の事業である。利益率は8割に達するのではないか」などと話している。長春長生の粗利益率はA株株式市場の中でも91%とトップクラスであり、純益は5億6000万元以上あるとされる。このため、長春長生の高俊芳董事長に江蘇延申の韓剛君、深圳康泰の杜偉民の2人を加えた私企業の3老板は「ワクチン界の三巨頭」と呼ばれ、全国的に著名な経済人、資産家として名が通っていた。特に、高俊芳董事長は中国富豪番付の371位におり、総資産額は67億元に上るという。ある報道では、高女史は、1990年代当時吉林省書記をしていた張徳江前全人代常務委員長と懇意にしていて、張氏が彼女の企業設立、発展を支援したとも伝えられる。

もともとワクチンを造っていたのは国家管理の「生物製剤研究所」という機関。それが民営化されることになり、目端が利いた小企業家が役人と結託してその権益を買い取ったのだ。中国では、子供が小学校に入る前に一定のワクチン接種を義務付けられており、黙っていても相当量の需要があるため、儲かる事業であることは目に見えていた。また、企業側が検査を担当する国の役人や、地方では病院のほか、疾病予防管理センター、保健所などの職員らにも賄賂を贈り関係を密にしていることも、事業の安泰につながった。狂犬病の摂取1回当たり72元だが、このうち20元はこうした関係者にバックペイされているという。長春長生では業務推進服務費として年間4億4000万元も使っているが、この中身はバックペイや賄賂の金だと見られている。

では、製造企業はなぜ不適合な接種ワクチンを造り続けてきたのか。一つには監督体制が甘いことがある。この事業の構造的な問題として、疾病予防管理センターは本来、第三者的な目で製品の安全性や薬品価格の妥当性などをチェックする立場なのだが、その半面、彼ら自体が一括的に企業から接種に至る販売、流通ルートを握る”業者“にもなっている。儲けを意識するあまり、検査機構の役目を果たしていない。審判員が選手を兼ねる、極端な言い方をすれば、泥棒に警察官の役目を負わせているようなものだ。だから、企業側もいい加減な生産体制で、不完全な製品を出すことに躊躇しない。また、こうした薬害問題を世間に訴えるべきマスメディアも中国では機能しない。彼らは地方党委員会宣伝部の監督下にあり、「世間を騒がすような」薬害報道は許されない。たとえ問題化しても、地方政府と宣伝部がすぐに“事態収拾”に動く。もちろん、企業側の賄賂は宣伝部門にも行き渡っているからだ。

ただ、あくまで反抗的なメディアもあった。2007年、100人以上の児童が死傷した山西省偽ワクチン事件について、「中国経済時報」紙の敏腕特ダネ記者である王克勤氏が2010年、自身の調査によって薬害の事実を伝える記事を執筆、掲載した。その中で「ワクチン企業と地方政府役人の結託があった」と大胆に切り込んだため、地方党委員会・政府の逆鱗に触れ、王記者と記事掲載を許可した同紙の包月陽総編集(編集局長)は解職に追いやられた。王記者はこの時、「山西省の問題をうやむやにすると、やがて山東省や他の地域でも同じ問題が出るだろう」と、臭いものにふたをしてしまった当局に警告を発した。事実は、彼の言う通りで、長春長生ワクチンの主な出荷先である山東省はじめ河北省など18の省でワクチン薬害が発生している。李克強総理は今回、「速やかに徹底解明せよ」と指示しているが、これまでの企業と当局側のなれ合い対応を見ていると心許ない。

偽ワクチン問題は独り中国国内にとどまらず、世界のメディアが報道したことによって国外にも広まった。その結果、インド、北朝鮮、カンボジア、エジプトなど中国ワクチン輸入の各国は、対応を急いでいる。インド政府は8月初め、長春長生など偽ワクチン製造が言われている中国メーカーからの輸入を禁止する措置を取った。インドでは、狂犬病の被害が多発、毎年2万人程度が死亡していると言われる。このため、長春長生の狂犬病ワクチンは貴重な輸入品で、広く使用されてきた。今回の事件報道でもすぐに回収とはならないが、医務当局は「関係資料を取り寄せ、それを見て市中からの回収措置を取りたい」と話している。北朝鮮では、「中国の薬品はすべて偽物ではないか」と薬品全体に対する猜疑心が生まれ、購入を控える動きが出ているという。同国にとって、医薬品は国連の制裁対象にならない貴重な輸入品である。

中国の庶民も国内のワクチン接種を不安視し、7月に報道があって以降、親子で香港に出て、同地で接種を受ける人が激増している。これは、メラニン粉ミルク問題が起きた時に、中国人が香港はじめ世界各国に飛んで、まともな粉ミルクを買い漁ったのと同じ現象。2013年、香港では粉ミルク購入制限令が発せられ、大陸の成人一人が24時間以内に1・8キロを超える粉ミルクを持って国境を越えてはならないという規制を設けた。今回も大陸の子供たちが大量に来訪、ワクチン接種を受けると、香港人の分がなくなってしまうとの危機感から、香港衛生署は「すべての児童医院で、香港人以外のワクチン接種可能数を毎月120人以内にする」との制限令を出した。香港が制限すれば、富裕層を中心に日本やオーストラリアなど周辺国にも押し寄せるかも知れない。中国の食品害、薬害はこれからも続き、そのたびに周辺国もその影響を受けそうだ。