topics & News to Home
霞山会とは
月刊『東亜』
講演会・シンポジウム
中国への研究留学
日本への研究留学
東亜学院中国語学校
東亜学院日本語学校
日中交流
霞山会館
交通案内
各種お申し込みForm

■中国マクロ経済分析
 慶應義塾大学駒形研究会

■霞山学生会
■リンク集
■サイトマップ
一般財団法人霞山会
東京都港区赤坂2-17-47
赤坂霞山ビル
TEL.03-5575-6301
FAX.03-5575-6306

チャイナ・スクランブル

アリババ集団への当局締め付け続く、IT企業あるいは肥大化民営企業全体まで及ぶのか(下)
2021-04-16. 日暮高則
<アリババの摘発と罰金>
 国家市場監督管理総局による今回の罰金処分は、アリババ集団も覚悟していたもようである。というのは、昨年、アリババが仕掛けたある買収案件に対し、同総局は12月14日、反壟断法違反の疑いがあるとして、摘発していたからだ。さらに、クリスマスイブの24日には、同容疑で杭州のアリババ本社などを家宅捜索した。ネット通販サイト「淘宝網(タオパオ)」などを持っているアリババは、この市場でガリバー的な立場にあることから、出品企業に対し、ライバル関係にある同業他社への出品を控えるよう圧力をかけていたと言われ、これが反壟断法違反の根拠となった。

 総局が提示した罰金額は182億元余という巨額で、アリババ集団の2019年国内売上額の4%に相当するという。だが、同社はあくまで神妙な対応で、微博などSNSを通じ、「本日、われわれは市場監督管理総局の行政処罰決定書を受け取った。われわれはこの処罰を真摯に受け止め、断固服従する。今後、われわれは法に則って経営を行い、法令順守のシステム構築を一段と進め、創造的発展を図りながら、社会的な責任を果たしていく」との優等生的な声明を発表した。張勇会長兼CEOは4月12日に記者会見を開き、巨額の罰金額について、「事業への深刻な影響を与えるものではない」とやや強気の見解を示した。さらに、当局の処分に対処するため、通販サイトの出店条件を緩和し、取引業者のコスト削減に取り組む、出品企業を支援する−などの改善策も明らかにしたという。

 張勇氏の発言は、自社の取引業者や株主を動揺させたくないという観点のほかに、同業他社、いや民営企業全体に迷惑をかけたくないとの思いから発せられたものであろう。香港メディアによれば、この罰金額について、清華大学国家戦略研究院の劉旭研究員は「これはアリババが巨大企業であるために、シンボリックに巨額な罰金になったもので、他のIT企業への影響はそれほどないのでは」と話す。ただ、香港大学中国法研究センターの張湖月主任は「アリババへの制裁は科学技術系の大型企業に向けた強烈なシグナルとなった。今後、同じ過ちをさせないとのメッセージとなった」と一罰百戒的は意味合いがあったことを強調、「科技系大型企業は今後、後ろ指をさされないように社内に法律の専門家を用意するほか、万一の罰金に備えて資金を留保するのではないか」などとも話している。

<アリババが攻撃される理由>
 そもそもアント・グループがなぜ当局から集中砲火を浴びたのか。米紙「ウォールストリート・ジャーナル」は12人以上の党・政府幹部、顧問らを取材し、2月16日、その内容の記事を掲載した。それによれば、当局は、馬雲氏が問題発言をする昨年10月以前からすでにアント・グループへの調査を始めていた。そこで分かったのは、アントの株主の中に江沢民元国家主席の孫である江志成氏や、江沢民時代の元政治局常務委員兼全国政協会議主席である賈慶林氏の娘婿、李伯潭氏ら太子党(紅二代)が含まれていたことだという。江志成氏は江元主席の長男江綿恒氏の一人っ子で、米ハーバード大学を卒業したあと、香港に私募基金投資会社「博裕資本」を設立し、運営しているビジネスマンだ。つまり、アントは江沢民元主席や「上海閥」系幹部の子弟が多く支援しているのである。

 博裕のアントへの投資はかなり巧妙。中国では海外企業が国内企業へ投資するには制限があるため、博裕はまず上海に投資を業務とする子会社を設立し、その子会社が私募基金投資企業「北京京管投資中心」に投資し、その「投資中心」がアントに投資する形を取った。博裕はアントの親会社アリババの5%の株式を握ったため、アリババがニューヨーク市場に上場した際にはかなりの利益を手にしたと言われる。アリババはもともと江沢民政権時代に馬雲氏が創業した企業であり、江氏や上海閥のバックアップを受けたため、彼らとのつながりは深い。江沢民家族や江系幹部は博裕−アリババのラインでかなりの恩恵を受けていたものと思われる。習近平主席は上海閥が跳梁跋扈するのを嫌がっており、資金源を断つ意味からアリババやアントを攻撃対象にしたようにも見受けられる。

<同業他社や創業企業への締め付け>
 中国当局は巨大化するIT企業全体への締め付けを狙っていたようで、摘発はアリババ集団に限らない。国家市場監督管理総局は3月12日、テンセントや検索エンジン「バイドゥ(百度)」、タクシー配車アプリを運営する企業「滴滴出行」などIT関連12社に対し、過去の買収や投資案件で違反があったとして罰金処分を下した。ちなみに、滴滴出行にはソフトバンクグループ(SB)から3億米ドルが出資されたと報じられている。SBはかつて草創期のアリババ集団に20億円を投資し、その価値を14年後に4000倍に膨らませた過去があり、滴滴出行に新たな夢を見たのかも知れない。滴滴出行は、許可なく合弁企業を設立したとして、傘下企業に50万元の罰金が科された。テンセントは、検索エンジン「捜狗」の買収や子会社同士の統合案件で当局から反壟断法違反の容疑が掛けられた。

 IT関係企業に限らず、大企業オーナーとなった起業家にも、中国当局の厳しい監視の目が向けられている。民営企業家の親睦会的組織「泰山会」が1月下旬、解散宣言した。同会は聯想集団(レノボ)の創始者柳傳志氏を会長、四通集団董事長の段永基氏を理事長に1993年に発足した個人参加のグループで、会員としては、アリババ集団の馬雲氏のほか、万通集団の馮侖氏、泛海集団の盧志強氏、復星集団の郭広昌氏、百度集団の李彦宏氏ら富豪の創業オーナー企業家が名を連ねている。彼らは金融、物流、ハイテクなど多方面でビジネスを展開しており、この会合での情報交換を通じて新たなチャンスをつかもうとしていたと見られる。彼らの富を合計すると、2兆人民元以上と言われ、提携して動くと大きな影響力を発揮する可能性がある。

 当局にとっては、彼らが金儲けを目的とした交流だけに終始すれば問題ないが、馬雲氏が政府批判発言をしたように、経済や対外関係で政府の政策に疑義の念を抱き、口を挟んでくると厄介なことになる。大富豪たちがあるいは大きな資金を投入し、反党的勢力を結集する恐れがないとも言えない。そこで、当局は彼らの会合の場自体も奪ってしまったのだ。前述した「杭州湖畔大学」でも“危険な場”が醸成されることが考えられるので、圧力をかけ、廃校の方向に持ち込もうとした。中国の経済活動は今、「国進民退」の方向にあり、IT企業への締め付けが肥大化した民営企業全体に及ぶことは十分に考えられる。

 香港情報によれば、党中央宣伝部は、この4月、アリババ集団に対し、香港で英字紙「サウスチャイナ・モーニングポスト」を発行する傘下企業の株式を手放すよう指示したという。馬雲氏がマスメディアを掌握していることに不快感を持っている証左だ。さらに、アント・グループが中央銀行(人民銀行)の監視下に置かれるよう金融持ち株会社に移行させられるとの情報もある。アントの中にある個人や組織の信用度を調査する信用評価システム部門「芝麻信用(セサミ・クレジット)」の分離も要請されているとも言われる。アリババは巨大企業であるだけに見せしめ的な集中攻撃は続くようだ。