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中国、海南島に自由貿易港を作る「方案」を発表−混乱続く香港に代わる“場”目指すのか(下)
2020-06-16. 日暮高則
 そもそも、海南島とはどういうところか。広東省南部の雷州半島がトンキン湾(北部湾)に突き出た先にある島だ。日本の九州をちょっと小振りにした面積の中に約900万人が住み、黎族、苗族、壮族など複数の少数民族が共存する。清朝以前は最果ての流刑地にもなって見向きもされなかった。戦前、日本軍が占領し、大規模な農業開発などを進めた経緯もあったが、敗戦によって国民党軍が接収、大陸の共産軍に対抗する反撃拠点とした。革命歌劇「紅色娘子軍」の舞台になったことでも有名。1950年にその内戦も終わり、中華人民共和国の中に収まった。小平氏が1979年、深圳、珠海、厦門、汕頭を4大経済特区としたが、88年に海南島を5つ目の特区として加えた。同時に、行政形態としては広東省から分離され、海南省という新たな一級行政区となった。

その後、島南部が熱帯に属し風光明媚なことから「東洋のハワイ」などと呼ばれ、観光開発が進められた。特に、ヤシの木があって海岸線がきれいな南部の都市三亜市はリゾートホテルやマンションが立ち並び、国内の富裕層がこぞって遊びに来て、不動産購入を争うところとなった。その観光業と農業が中心の産業構造が続いたため、特区にもかかわらず、それほど工業が発展したわけではない。北部の省都海口市周辺には工場団地が複数造られたが、港湾整備が不十分で、期待した成果は上げられなかった。2019年の海南省のGDP(域内総生産)は5300億元余で、全国GDPの0・5%の占めるに過ぎない。同省人の平均収入も全国平均に比べてかなり低位にある。

 海南島の開発が期待値ほど進んでいないことから、今回、一歩進めて自由貿易港試験区構想が出されたと見られる。6月1日に「海南島の自由貿易港建設に向けた総体方案」が発表された際、習近平国家主席がわざわざコメントを出した。「党中央は国際、国内2つの大局を鑑み、中国の特色ある社会主義を新しく創造し、発展させるために、重大な戦略的決定をした」と述べ、海南島開発に強い期待感を示している。その辺を見ると、プロジェクトは習主席主導であることをうかがわせる。1万4000字にも及ぶ長い文件である「総体方案」によれば、自由貿易港にする対象地域は島全体であり、2025年までに貿易、投資を呼び込むための政策、制度設計を行い、2035年には開放型経済の発展地区とし、今世紀中ごろには国際的に名の通った高レベルの自由貿易港を造り上げるという。

西側ビジネスマンからすれば、香港で最近いろいろな問題が起きたことから、党中央が海南島を香港に代えて大陸へのゲートウェイにしようと画策し、急きょひねり出してきた案ではなかろうかと見るのは自然だ。西側メディアもこぞって「海南島は香港の代替へ」との書き方をしている。だが、海南省を自由貿易港にする構想は、香港の騒動が起きる前、2年前からあったという。国家発展改革委員会の林念修副主任も6月8日の記者発表で「総体方案」の概略を説明、その中で、「海南自由貿易港と香港の位置付けは同じではない。重点的に発展させる産業も違う。互いに補い合って切磋琢磨し、海南島が香港に衝撃を与えることはない」と強調、海南島は香港の代替でないどころか、香港のステータスを脅かすものでもないことを繰り返した。

林念修副主任はまた、「香港、シンガポール、ドバイが現在世界の中で高レベルな自由貿易港の典型だが、建設モデルも制度・政策もそれぞれ別の特徴を持つ。香港は国際金融の中心地であり、航運、貿易の中心地であり、世界の中でもっとも自由な経済システムを持ち、競争力のある地区だ」と指摘。そして海南島自由貿易港については、「世界の著名な自由貿易港の先進的な経験を学んで、国際競争力を持った開放型のシステムを構築していく。貿易や投資のほか、観光業、現代的なサービス業、先端技術の産業も発展させていく」と語った。中国人幹部の演説内容は、概して当たり障りのない表現にとどめ、曖昧模糊の感があるが、この林氏発言は特にそうである。要は、税制、雇用、金融、流通システムなどすべての面で、西側先進地域と同じにしていくと宣言したものであろうか。

また、海南島は香港に比べて面積が広いため、貿易港としての発展に限らず、他産業も並行して進めていくという考え方でもある。「総体方案」によれば、企業誘致のために企業所得税は15%とし、国内共通の25%より10ポイント低くし、先端的な人材を確保するために個人所得税も低く抑える。他地域は累進課税で最高33%程度まで取られるが、ここでは最高15%までにするという。また、国務院財政部の鄒加怡副部長は「島内で買い物した場合の免税額は現在、一人当たり毎年3万元を限度としているが、これを10万元までに増額する。免税対象の商品も現在38品目に限られているが、さらに拡大したい」との考えを明らかにした。海南島を訪れる観光客を意識した減税策の拡大であろうが、証券会社によれば、2019年に一人当たりの購入額は3544元で、3万元の限度額にも到底及んでいないので、現時点では実質的な意味はない感じもする。

国内一般の税制を見ると、増値税、消費税、営業税、企業所得税、外商投資企業及び外国企業所得税など18の税種がある。これは、海外企業から「世界の国際自由貿易港に比べて、税制が複雑で、税目が多すぎる」と評判が悪い。このため、中央政府は海南島を特別扱いし、税制を簡素化して低税率にし、ゼロ関税化することも考えているようだ。だが、そうなれば、海外企業のみならず、多くの国内企業が主たる事業所をここに置くだろう。事実上、国内にバミューダ諸島やケイマン諸島のような「タックスヘイブン」の地域を創設してしまうことなる。もしも中央政府が国内他地域の企業の海南島事務所設置を規制すれば、他地域の反発は高まり、怨嗟の対象になることは避けられない。だが、香港中文大学のバヤン・メルクリオ教授は「すべての企業が海南島に移れるわけがない。行政権限で選択が行われるが、それが政治問題になることもあり得る」と指摘する。

実は、自由貿易港構想は、最初に上海市で試されている。2013年、「自由貿易試験区」というエリアが外高橋、洋山港など沿岸4地区に造られた。そこは保税区で、関税が免除されるほか、人民元と外貨の自由兌換が行われ、外資の金融機関設立も許されるなど西側同様の自由化エリアがデザインされた。その後、上海を真似して国内に18の自由貿易区が造られた。だが、上海に限っても見ても、自由兌換は叶わず、金融サービス業の全面的な開放などは実現していない。これは、経済路線をめぐる党内対立が原因という説がある。試験区構想を打ち出し、主導したのが李克強総理ら共青団系の開明派だが、彼らに対し、社会主義テーゼに固執する保守派もいるという見方である。「諸外国自由港並みの金融開放政策」の実現には程遠い感があり、海外企業の期待を裏切っている。

金融中心か、産業中心かの違いがあるにせよ、上海という先進的な都市を含めて他地域でできないことが、独り海南省で実現できるのか。加えて、海南島は一国二制度という“建前”のある香港と違って、法治より人治を優先する共産党が100%支配する地域である。経済システムはともかく、ビジネス上のトラブルが発生した場合、法秩序は香港並みに貫徹されるのかという点も心配される。中国側が海南島の新しい姿をピーヒャラと鳴り物入りで宣伝しても、これまで中国各地の自由貿易区を見てきた国内外のビジネスマン、企業がそれに調子に合わせて踊り出すのか。それほど簡単ではないように思われる。