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チャイナ・スクランブル

WHOの現地調査でも発生元分からず−中国のワクチン外交成功でも、信頼度は今ひとつ(下)
2021-02-18. 日暮高則
<ワクチン外交の狙い>
 世の中はギブ・アンド・テークで、一定の恩恵を施したら、その見返りを求めるのは自然の成り行き。すなわち、ワクチン提供は外交取引のツールにも使われる。新疆ウイグル自治区のウイグル人は民族的にはトルコに近いため、中国当局の迫害を逃れ海外に逃亡するとトルコに頼ることが多い。これまでエルドアン大統領も「中国のウイグル人弾圧は人類の恥」と述べ、こうした亡命者を保護してきた。地球上に安全地帯があることは新疆のウイグル人を大いに勇気づけたが、逆に、これは中国にとっては忌々しき状況だ。米AP通信社がトルコの野党議員の話として伝えたところによると、北京政府は、2017年にトルコとの間で締結していた「犯罪者の引き渡し条約」を盾に、最近、同国にいる逃亡ウイグル人の引き渡しをエルドアン政権に迫り、この見返りにシノバック製のワクチン提供を申し出たもようだという。

 トルコ国内には現在、ウイグル人が少なくとも5万人居住しているが、多くはトルコ国籍を持っていないので、政権側も“国外追放”しやすい。一方、同国のコロナ感染者は昨年暮れ段階で、一日3万人近くの感染者が出るほど蔓延しており、ワクチンはのどから手が出るほど欲しい。背に腹は代えられず、エルドアン政権は中国側との取引に応じたようだ。野党側は、イスラム同胞への厚情を忘れ、懐に入った窮鳥をも殺してしまうような政権の姿勢に批判的だ。海外のウイグル系団体も「トルコは最早ウイグル人が避難できる天国でなくなった」と失望感を募らせている。中国にとって、トルコは地中海の要衝に位置し、インド洋−地中海の経済ルートを確保する上でも重要な国で、誼みを通じるメリットは計り知れない。

 中国がいの一番にパキスタンへワクチン供与したのは、新疆ウイグル自治区からインド洋に至る山岳ルート・カラコルムハイウエーを共有し、インド洋沿岸に面したグワーダル港の運営権も確保していること。その上、同国は国境紛争をしているインドとも敵対関係にあり、強固な関係を築くことが中国の国益に最大限かなうことが理由だ。また、スリランカでは、南部のハンバントタ港を99年租借し自由に使用しているほか、ミャンマーでは、雲南省からベンガル湾に面したチャウピュー港に至る石油パイプラインに加え鉄道、道路建設を進めている。「一帯一路」構想の上で欠かせないこれらの重要インフラを持つ隣国をつなぎ留めておくには、ワクチンという“プレゼント”は決め手となるはずだ。ハンガリーが中国ワクチンを受け入れたことは、中国にとって、近年反中感情が高まっているEU諸国内の分断が図れる“うまみ”がある。

<西側などの中国ワクチン不信感>
 昨年秋、ブラジル政府は中国製ワクチンの使用を認め、サンパウロ州が早々に提供を受けると決めたのにもかかわらず、ボルソナロ大統領は許可しない考えを示した。大統領はSNS上に「中国製ワクチンには科学的な証明が必要だ」と書き、不信感を露わにした。ワクチンは早急に欲しい、だが、中国製の信頼性も問題、さらには米国との関係にも配慮しなければならないという中南米諸国の複雑な思いが表れた対応だった。中南米に限らず、世界の発展途上国にも同様の悩みが垣間見られる。無償供与される途上国ではほぼ無条件で中国製を採用するが、ワクチン提供が有償とされる国々では、やはり中国製品への信頼度は低く、国ベースの採用にはためらいがあるようだ。

 フランスのマクロン大統領は2月初め、非政府系組織「アトランティック・カウンシル」での講演で、「中国製ワクチンが多くの国に感謝され、ワクチン外交は初歩的には成功している。これは、われわれ西側指導者には恥である」と指摘しながらも、「中国ワクチンの効能は分からない。まだ完全に試験結果が出ていない。これは中長期的に見れば、これらのワクチンが今のウイルスに適合しないとなれば、逆に変種のウイルスを出現させる手助けをしてしまう恐れもある」との懸念を表明した。アストラゼネカ・ワクチンの権利を持つ英国は「中国産アルコール消毒液のメチルアルコール濃度はわずか7%で殺菌力がない」(貿易基準局)「ある消毒液は人に中毒症状を起こさせるものもある」(デーリーメール紙報道)などと消毒液に対して不信感を指摘。消毒液でもこうであるならば、中国製ワクチンなど問題外と言った感じを見せる。EUはアストラゼネカとファイザーに頼る態勢を取っている。

 南米ペルーのカジェタノエレディア大学が発表したところによると、1月26日、治験の中でシノファームのワクチンを接種した人が肺炎を起こして死亡したという。AP通信社がシンガポールの東南アジア研究所の調査結果として伝えたところでは、ASEAN諸国は中国の多大な医療援助を受けながら、「米国と中国のどちらの医療を望むか」と市民に聞いたところ、61・5%が米国の方を選んだという。ラジオ・フリーアジアの報道によれば、中国国内でシノファーム・ワクチンを受けた中国人がトルコやセルビアに出国してきて集団感染した例があり、接種の効果が疑問視された。海外などの治験結果を見て、中国人も国産ワクチンに不安を覚える人が多く、昨年11月、上海市政府が医療関係者にワクチン接種希望の有無を聞いたところ、90・8%の人が拒否したという。

 中国は昨年春、世界的にコロナ感染が拡大した折、マスクが不足している国々に盛んに無償提供を呼び掛けて”善意“を示した。だが、中国マスクの中には粗悪品も見られ、欧州などではその後敬遠された。今回はワクチンを早期に開発、大量生産したことから、これまたワクチンを外交上のツールとして使っている。さすがに先進国は中国ワクチンを使わないが、購入資金がなく、自国生産もできない発展途上国には有難い。ただ、ASEANや中南米諸国の中には、「一帯一路」の経済的なつながりや中国の医療面での援助に感謝しつつも、見返りを求めるワクチン外交の裏の狙いに不信感を持つところも少なくない。