topics & News to Home
霞山会とは
月刊『東亜』
講演会・シンポジウム
中国への研究留学
日本への研究留学
東亜学院中国語学校
東亜学院日本語学校
日中交流
霞山会館
交通案内
各種お申し込みForm

■中国マクロ経済分析
 慶應義塾大学駒形研究会

■霞山学生会
■リンク集
■サイトマップ
一般財団法人霞山会
東京都港区赤坂2-17-47
赤坂霞山ビル
TEL.03-5575-6301
FAX.03-5575-6306

中国政観?Perspectives on Chinese Politics

第1回 強制と協調が並存する中国外交
2020-05-22. 加茂 具樹
いま中国は、自らの外交を「中国の特色ある大国外交」と定義し、大国意識を明確に示している。大国とは世界の平和の問題に影響力をあたえる力をもつ国家であり、そうした力をもつ発展途上国の大国であると中国は自認している。 

この中国外交には強制と協調の相反する概念が並存している。日本は、こうした中国に極めて間近な距離で向き合っている。

強制の外交とは、自らの利益を相手に受け入れさせようとする行動である。5月8日、中国海警局の船舶が尖閣諸島の領海に侵入し、操業していた日本の漁船を追尾した。付近では海上保安庁の巡視船が警備活動をしていたことから、同海域は緊張した。

尖閣諸島周辺海域をはじめ、日本周辺の空域や海域、さらには南シナ海や台湾海峡における中国の行動からは、主権と安全をめぐる問題において、自らの利益を相手に強制しようとする意志を読み取ることができる。中国の公船が、日本の漁船を尖閣諸島領海域で追跡、監視したのは今回が初めてではない。中国の近隣諸国が新型コロナウイルス感染症への対応に苦慮するなかで、中国の強制の行動は増大しているとの指摘すらある。

しかし、現実の中国の行動には、強制の対極にある協調という概念も見ることができる。5月8日の事案に関して日本政府は中国側に厳重抗議した。これに対して中国政府は自らの行動の正当性を主張し、日本側の妨害行為の再発防止と「魚釣島(尖閣諸島の中国側の呼称)問題において「新たな騒ぎを起こさない」よう「厳粛な申し入れ」を行った。これと同時に中国政府は、新型コロナ感染症問題を契機として両国の友好協力関係を発展させる必要があるとも発言していた。互いに手を携えて感染症対策に取り組み、健全な日中関係の推進をはかろうというメッセージを、中国は様々な媒体をつうじて日本に発信している。

もちろん日本が、強制と協調が並存する中国の対外行動に接するのは、今回がはじめてではない。

現指導部が発足して間もない2013年10月、周辺外交活動座談会と題する会議が開催された。この会議は、周辺諸国との関係を深め、友好関係を確かなものにして、相互利益につながる協力を推進させてゆくべき、という方針を確認した。しかし、この1ヶ月後の11月、中国国防部は「東シナ海防空識別区」を設置したと発表した。当該空域を飛行する飛行機に対して中国国防部の定める規則にしたがわなくてはならない、と要求したのである。

2018年10月、安倍晋三首相は中国を訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行った。この会談で習近平は、日中間で「建設的な安保関係をつくる(構建建設性的双辺安全関係)」ことを提案したと『人民日報』が報じている。この表現は、その後も同年12月末に中国外交部報道官の定例記者会見でも言及されていた。国交正常化以降、中国側が「建設性的双辺安全関係」という言葉を使ったのは初めてであり、どの様な思惑でこの言葉を提起したのかは明らかではない。しかし、この安倍首相の訪中を契機とするように、尖閣諸島周辺の領海に中国の公船が侵入する回数と隻数は減少し、2018年12月には領海侵入隻数はゼロになった。月別統計で「ゼロ」になったのは、2012年9月以来、初めてのことであった。ところが、2019年1月には、一転して、侵入隻数が急増した。。

中国が、強制と協調の行動を選択するそれぞれの理由の説明は、それほど難しくない。

なぜ中国は日本に対して強制の行動を選択するのか。例えば、新型コロナウイルス感染症への対応に全力を注いでいる日本の関心の間隙を縫うように、既成事実を積み上げようとしているからだ、という説明ができるかもしれない。あるいは、新型コロナウイルス感染症の蔓延拡大によって中国経済は失速し、深刻化する就業問題に対する国内の関心をそらすためである、という説明もできよう。また、5月8日の中国海警局の行動は通常の行動の一環にすぎず、指導部が強制の行動を選択したわけではない、との説明も可能である。  

なぜ中国は日本に対して協調の行動を選択するのか。不安定化する対米関係とバランスを取るために安定した近隣諸国との外交関係を必要としているから、という説明ができるかもしれない。2014年11月、日中両国政府のあいだで「日中関係の改善に向けた話し合い」が実現して以来、中国政府は一貫して対日関係の改善を欲していた。その一つの成果として、習国家主席の日本訪問の実現を中国側は期待していた。新型コロナウイルス感染症問題が深刻化していた今年1月、習近平国家主席が国交成立70年を迎えたミャンマーを訪問した理由も、中国は近隣諸国との関係の安定を重視しているからである。

また、日本に対して感染症対策で協力しようと訴えるのは、習近平外交の中心概念である「人類運命共同体」の構築を感染症対策の一環として実現させるためだ、という説明もある。習近平外交の核である「一帯一路」イニシアチブや、「人類運命共同体」の構築を実装するうえで、日本は欠けていたパズルのピースであった。そうした意味において、対日関係の改善は現指導部にとっての重要な政治課題であった。

では、なぜ中国外交には、強制と協調という、相反する行動が並存するのだろうか。

それは、中国指導部、そして習近平が掲げる政治目標が多様だから、という仮説的な説明ができるかもしれない。「中国の特色ある大国外交」、すなわち習近平外交が掲げる政治目標とは、「国内の大局」と「国際の大局」という「二つの大局」の統一と調和を図ることである。

「国内の大局」とは国内政治としての要求であり、中華民族の偉大な復興という「中国の夢」を実現することである。「国際の大局」とは対外関係における要求である。それは、「中国の夢」の実現に不可欠な、改革と発展と安定にとって必要となる良好な国際環境をつくりあげ、同時に、国家の主権と安全と発展の利益を守り、世界の平和と安定を守り、共同の発展を守る、ことである。これを素直に読めば、「国際の大局」という政治目標を実現するために、中国外交には、平和な国際環境の構築という協調の行動とともに、自らの利益を相手に強制する行動が埋め込まれていることがわかる。

このとき、状況に応じて、強制と協調の行動を選択し、選択した方向に指導部内の合意を形成して、中国外交を動かす核心的役割を担うのが習近平である。強制と協調の選択に矛盾が大きく見える場合、習近平が合意形成の役割を発揮できていないことになる。習近平の政治的権威、習近平指導部の政治的基盤の実態が問われる。

しかし、政策決定、すなわち政策の選択を、政治過程という段階的に捉える考え方で理解するのであれば、中国指導部や習近平の選択だけが中国外交を形づくる要因ではないことは明らかである。中国政治のダイナミズムを理解するためには、その政治過程の各段階(政策課題の設定、政策形成、政策決定、政策実施、政策評価)に働く力学を理解する必要がある。中国外交を理解するためには、国内のどの様な行為主体(アクター)が、なぜ、そしてどの様な動機によって政治過程に影響をあたえているのかという、中国の対外行動に影響をあたえる国内要因、すなわち中国政治を理解する必要がある。

本コラムは、こうした問題意識を踏まえて中国政治の展望(perspective)を示してゆきたい。