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中国政観?Perspectives on Chinese Politics

第5回 尖閣周辺で行動を活発化する海警
2020-08-03. 加茂具樹
新型コロナウイルスの感染範囲が世界的範囲に拡大した現在、中国海警局の東シナ海海域における行動は、それ以前よりも活発化している。それはなぜか。なぜ今なのか。本稿は、この問いに答える手掛かりを、習近平指導部による自らの外交路線に関する言説に求めてみたい。

もちろん、政治過程を段階的に捉えるpolicy cycleという観点を踏まえれば、中国の対外行動に影響をあたえる要因は多様だと考えるべきである。対外行動は、その政治過程(Agenda SettingからPolicy Formulation、Decision Making、Policy Implementation からPolicy Evaluation に至る各段階)に関与する、すべての行為主体(アクター)間の相互作用の総和である。つまり、このアクター間の相互作用(競争や交渉)としてかたちづくられる国内政治が、国家の(対外)行動(国家の選好)に影響をあたえている。そうした理解にもとづけば、習近平指導部の自らの外交路線に関する言説は、対外行動の一側面だけを説明しているにすぎない。

また「分散的な権威主義(fragmented authoritarianism)」という観点を踏まえれば、中国の対外行動を理解するために、分析の焦点を、Decision Makingに関与するアクター、すなわち指導部だけでなく、その後のPolicy Implementationを担う行為主体にも置くべきだろう。しかし本稿は、分析の一つの試みとして、現在の外交路線に関する指導部(実質的には習近平中央総書記)の言説に注目し、そこに織り込まれているAgenda SettingやDecision Making の過程に影響をあたえ得る指導部の認識構造を検討する。



機ゥ灰蹈粉鏡拡大後に活発化する対外行動

尖閣諸島周辺の領海の直ぐ外側にある接続水域において、中国海警局艦艇の活動が、長期化し、常態化している。7月22日には100日間連続した活動となった これは、2012年9月に日本政府が尖閣三島の所有権を取得して以来、同接続水域内での最も長期に連続した中国公船の活動となった。また沖ノ鳥島の排他的経済水域では、中国の海洋調査船が日本の同意を得ることなく調査活動を実施していた◆これは2011年以来、最長期間の活動であった。指導部は、新型コロナウイルスの感染拡大後に、日本近海における行動を活発化させたようにもみえる。こうした対日行動の変化をうけて、中国の対外行動に対する日本社会の関心は、一層に高まっている。

日本社会が中国への関心と警戒を高めるのは、その日本に向けた行動だけが要因ではない。中国の対外行動は、新型コロナウイルスの感染が世界的範囲に拡大した後、それ以前と比較して積極化(好戦的)している。例えば、新型コロナウイルスが世界的な規模で感染の範囲を拡大したことの責任をめぐる議論において、中国の外交官が中国に感染拡大の原因があると主張する相手を強い表現で非難したことは、多くの注目を集めた。4月に中国が海南省三沙市に行政区として西沙区と南沙区をあらたに設置することを決定したことは、東南アジア諸国との間で領有権を争っている南シナ海における中国の活発な行動の典型と理解されたぁそして6月に全国人民代表大会常務委員会が香港国家安全維持法を制定したことを、香港基本法や1984年の英中共同声明にもとづく中国の国際的なコミットメントと合致しない行動であるとして、日本社会は指導部への批判を強めているァ

現在、指導部は国際情勢の先行きに対する不透明感と不安全感を強めている。習近平は5月末の全人代会議において「感染症の蔓延は、世界の枠組み(「世界格局」)に大きな影響をあたえている。わが国の安全と発展は深刻な影響を受けている。最悪の事態を想定し(「堅持底線思維」)、訓練して戦いに備える取り組みを全面的に強化し、様々な複雑な状況に迅速かつ有効に対処し、国家の主権、安全、発展の利益を断固守り、国家の戦略的、大局的安定を維持しなければならない」と発言していたΑ指導部が、こうして国際情勢の展望に関する不透明感や不安全感を深化させていることと、これと同じ時期に、活発に対外行動を展開するようになったこととの間には、何らかの関係があるのだろうか。



供コ宛鯱線の二つの特徴

現在、指導部は自国の外交路線を「中国の特色ある大国外交(中国語:中国特色大国外交)」と呼んでいる。この表現の初出は、2014年11月28日に開催された中央外事工作会議において、習近平中央総書記がおこなった講話である。習近平は、「中国は自らの特色ある大国外交を持つ必要がある(中国語:中国必須有自己特色的大国外交。英語:China must develop a distinctive diplomatic approach befitting its role as a major country.)」と述べていたА

そして、この表現が共産党の公式の文書において言及されたのは、2017年10月に開催された中国共産党第19回全国代表大会である。この大会で習近平が中央委員会に対しておこなった活動報告に、「中国の特色ある大国外交」という表現が書き込まれていた。こうして、習近平の言葉は共産党の公式の外交路線としての位置をあたえられた─

習近平がおこなった「小康社会全面完成の決戦を進め、新しい時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利を勝ち取ろう」と題する活動報告は、過去5年間の外交を、「全方位外交の配置が踏み込んで進められた。中国の特色ある大国外交を全面的に推進したことで、全方位の重層的で立体的な外交の配置が整い、わが国の発展にとって良好な外部条件がつくり出された(中国語:全方位外交布局深入展開。全面推進中国特色大国外交、形成全方位、多層次、立体化的外交布局、為我国発展営造了良好外部条件。)」と総括した。

この「中国の特色ある大国外交」という外交路線には二つの特徴がある。一つは、この外交路線が掲げる(外交の)目的と内政の目的が緊密に関係していることである。これは「国内と国際という二つの大局を統一的に考える」という言葉で説明されている。共産党は、18回党大会において、共産党と国家の政策目標として「二つの百年」の奮闘目標の実現を掲げた。その後に習近平指導部は、「二つの百年」という奮闘目標を中華民族の偉大な復興という「中国の夢」の実現と表現した。国内の大局とは「中国の夢」の実現である。そして国際の大局とは、「中国の夢」の実現のために必要な、中国の発展にとって良好な外部条件をつくり、中国の発展を促す戦略的チャンス期を維持し、延長することである。良好な外部環境をつくる取り組みのなかに、「一帯一路」の推進、そして「人類運命共同体」の建設が含まれる。

いま一つの特徴は、外交路線には「協調」と「強制」という手段が示されていることである。指導部は、中国の発展にとって良好な外部条件をつくるために、「平和的発展の道を歩む」必要があると確認すると同時に、「決して我々の正統な権益を放棄してはならず、決して国家の核心的利益を犠牲にしてもいけない」と確認していた。その前者が「協調」という手段であり、後者が「強制」という手段である。

例えば指導部は、新型コロウイルスの感染拡大への対処のために国際的な協力体制を構築する必要性(人類衛生健康共同体の構築)を訴えるのと同時に、「一つの中国」原則を掲げて世界保健機関(WHO)の年次大会に台湾がオブザーバーとして出席することに反対している。現在の中国の対外行動に、「協調」の側面と「強制」の側面を見出すことができるのは、その外交路線に協調と強制という、相反する手段が織り込まれているからである。

もちろん、中国の対外行動を理解するために、「国内と国際という二つの大局を統一的に考える」ことに注目する観点、すなわち国家の外交を内政の延長に見出す観点は、なんら新しいものではない。しかし、「大国外交」が内政の目的と深く関連づけられていることと、「大国外交」の手段として「協調」と「強制」が示されていること、との関係については、注目しておく必要がありそうだ。

中国の外交路線は、中国の発展にとって良好な外部条件をつくるという目標を実現するために、協調から強制に至る手段を用意している。指導部は、外交に関する幅の広い、多くの政策選択肢を持っているようにみえる。しかし、外交の目標と内政の目標を「統一的に考える」必要があると認識している指導部が、具体的な対外行動を決定する際、内政の目標の達成度に対する国内世論の評価に強い関心を持つだろう。指導部の判断に対して、国内世論は大きな影響をあたえるはずだ。



掘ス馥發塙餾櫃箸いζ鵑弔梁膓匹鯏一的に考える

共産党18回党大会は、共産党の政策目標として「二つの百年」の奮闘目標の実現を掲げ、現指導部は、これを中華民族の偉大な復興という「中国の夢」の実現と表現した。指導部の外交路線とは、「中国の夢」を実現するために、中国の発展にとって良好な外部条件をつくりあげることである。この路線が掲げる目標を実現するために指導部は、平和的な発展を堅持する(協調)ための外交手段から、必要に応じて、国家の主権、安全、発展の利益を守るための外交の手段(強制)までの幅広い選択肢をもっている、と考えてよい。

では指導部は、協調から強制までの幅を持つ政策選択肢のなかから、どの様に政策を選択するのか。現指導部の判断は、内政の「成績」に左右されるであろう。指導部が掲げる「中国の夢」の実現は容易ではない。指導部は、一人当たりのGDPが高くない中国、地域間の経済格差が大きい中国、多民族国家という中国、貧困削減という困難な政策課題を残している中国と向き合いながら、「中国の夢」を実現させなければならない。「中国の夢」の具体的中身については、誰もが受け入れる政策をセットすることは容易ではない。その結果、指導部が実施する対外政策として選択できる政策の幅は、国内の政策課題の達成状況、ひいては中国の国内世論の評価の大きな影響を受ける。指導部が選択できる政策の幅は、思いのほか狭いのかもしれない。

「中国の夢」の実現を支える重要な要素は経済成長である。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって大きなダメージを受けた内需が依然として回復していないこと、また中国の主要輸出先である欧米諸国の経済が大きな影響を受けていることは、中国の経済成長を促す動力に大きな打撃をあたえている。この懸念は、5月の全人代において李克強総理がおこなった政府活動報告において、雇用問題を重要な政策課題として掲げたことに表れている。「中国の夢」の実現は指導部の支配の正統性にかかわる問題であり、それが困難に直面しているのだとすれば、国内世論の動向には一層に敏感となるだろう。華南地域における水害の深刻化は、指導部の情勢認識に対して、より一層に大きな影響をあたえるだろう。指導部が新型コロナウイルスの感染拡大後の国内情勢に関して、不透明感と不安全感を急速に強めている理由の一つはここにある。

こうした状況下において指導部が、国家の主権、安全、発展の利益にかかる事案に向き合うとき、「協調」的な外交手段を選択するよりも、国内世論に引きずられるように、「強制」的な手段を選択したいという動機に囚われるのではないだろうか。


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 崔羚顱対外強硬鮮明 尖閣周辺に連続100日」『日本経済新聞』2020年7月22日。
◆崔羚馗敢坐ァ沖ノ鳥島付近で異例の長期活動 抗議聞かず」『日本経済新聞』2020年7月17日。7月31日には外務省アジア大洋州局長と中国外交部国境海洋事務局長がテレビ会議を開催し、新型コロナウイルスの感染症拡大が落ち着いた後に、「日中高級事務レベル海洋協議」を開催することを確認した。「日中、対話の重要性確認 尖閣情勢巡りテレビ会議」『日本経済新聞』2020年7月31日。
山口信治「中国の戦う外交官の台頭?」『NDSコメンタリー』第116号、2020年5月20日。http://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary116.pdf
ぬ雲孤関与国務院批准海南省三沙市設立市轄区的公告」『中華人民共和国民生部』(2020年4月18日)http://www.mca.gov.cn/article/xw/tzgg/202004/20200400026955.shtml)
ト稟修梁仂櫃蓮△修梁亞姐堝阿世韻任呂覆ぁ新型コロナウイルスの感染拡大後、「新公民運動」の中心的人物である許志永氏をはじめとする活動家や指導部批判をおこなってきた任志強氏や許章潤清華大学教授が相次いで拘束された。これを日本社会は指導部が社会に対する統制を強化していると理解し、その結果として中国の政治体制に対する違和感を強めている。「中国で著名活動家拘束か 「新公民運動」の許志永氏」『日本経済新聞』2020年2月27日。「中国当局、著名経営者を調査 習指導部のコロナ対応批判」『日本経済新聞』2020年4月8日。古畑康雄「中国で言論人であることの勇気と覚悟 逮捕された許章潤という人物(2020年7月14日)」『現代ビジネス』https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74021?fbclid=IwAR0YmOtViqsSiLtcUh726mzjQGDP9EivO7kIoVbTU0xs5iyYWLn42z1I-aI 。「北京市華遠集団原党委副書記、董事長任志強厳重違紀違法被開除党籍」『新華網』2020年7月24日http://www.xinhuanet.com/legal/2020-07/24/c_1126280188.htm 
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指導部は、共産党建党100年にあたる2021年までに中国国内において小康社会を実現し、国内総生産と都市と農村部住民の所得を2010年比で倍増させ、中華人民共和国建国100年にあたる2049年までに富強で民主、文明、調和をかなえた社会主義現代国家の建設を達成して中等先進国の水準に達させる、という目標を掲げている。
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