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連載:アジアの停車場

アジアの停車場〔20〕
バクー駅(アゼルバイジャン)……新興産油国の筆頭駅で見た0系

2009-11-01. 小牟田哲彦
 旧ソ連から分離・独立したカスピ海沿岸の産油国アゼルバイジャンは、鉄道の創設もまた石油がらみであった。帝政ロシアの支配下にあった1880年にバクーとその周辺のいくつかの油田とを結ぶ路線が敷設されたのが、現在のアゼルバイジャン国内における最初の鉄道と言われている。1883年にはバクーからトビリシ(現・グルジア)まで石油を輸送する目的で長距離鉄道が開通している。アゼルバイジャンに社会主義政権が誕生してソビエト連邦に参加した後の1926年には、バクーを起点として早々に電化が実施された。現在のバクー駅舎は高層ビルになっているが、その隣にあるモスク風の瀟洒な旧駅舎も1926年の完成だ。

バクー駅舎。頂上の駅名の下に
0系新幹線のイラストが掲げられている
 だが、ソ連邦内における重要拠点駅となっていたバクー駅は、ソ連崩壊による独立後はアゼルバイジャン鉄道の本拠地としてまさに国内筆頭駅となったにもかかわらず、輸送量は貨客ともに激減した。長く続いたモスクワ中心の輸送構造が変化したこと、しかもそのモスクワへ通じる路線がチェチェン共和国内での紛争により断絶してしまったこと、さらにナゴルノ・カラバフを巡る隣国アルメニアとの領土紛争など、さまざまな地政学的問題が重なったためである。

 現在のバクー駅には数少ない長距離列車とバクー近郊を走る電車が発着しているが、近郊電車も区間によっては一日10本以下の路線もあり、列車の発着がない昼間の時間帯には広々としたヨーロッパ風の櫛形ホームに人影がないことも。地下通路で結ばれている高層ビルになっている駅舎の1階には長距離列車の切符売場や売店があるため、人の姿は絶えないものの、日中でも薄暗いことも手伝ってか、どことなく全体的に薄汚れていてくすんだ雰囲気がある。

 おまけにバクー駅構内では、警官が外国人観光客を見つけると、言いがかりに近い理由をつけ、放免のための賄賂として金品を要求する事件が頻発しているという。旅行案内書でも「アゼルバイジャンは、末端警官や役人の腐敗がコーカサス3カ国(アゼルバイジャン、グルジア、アルメニアの旧ソ連各国)で最もひどいから要注意」と断言されているほどだ。用もないのに駅構内をうろうろ観察していて腐敗警官に呼び止められると、何の落ち度もなくても厄介なことになりかねない。私も駅舎の中を歩くときは警官の目に留まらないようにしていた。自分が悪者であるかのような気にさせられてしまい、居心地の良い空間ではない。

 それでも、個性のない高層ビルのバクー駅内外を歩いていたら、見覚えのあるものを見つけた。その高層ビルの頂上に掲げられた「バクー駅」の巨大看板の真下に、日本の初代新幹線0系(2008年11月で山陽新幹線から完全引退)と思われる電車のイラストが描かれているのだ。旧ソ連では、高速列車の象徴としてなぜか0系新幹線の図柄が採用されているケースが多く、私自身はアゼルバイジャン以外にリトアニアや樺太、ウラジオストクで見たことがある。1990年代半ばには、年1回発行される旧ソ連圏全域の鉄道時刻表の表紙に色違いの0系が登場したこともあった。日本から遠く離れ、日本人にはまだまだ馴染みの薄いこの新興国で見慣れた形のイラストを見たときは、悪徳警官の目を気にしながら歩く緊張感がちょっとだけ緩んだ。