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アジアの今昔・未来

第501回
家族連れでにぎわう重慶のスマート産業博覧会

2019-12-04. 伊藤 努
世界2位の経済大国となった中国では近年、最先端の情報通信技術(ICT)を使ったさまざまなデジタル関連製品や電子商取引(Eコマース)が都市を中心に急速に普及し、パソコンと同様の機能がある多機能携帯電話(スマートフォン)やスマホを使ったキャッシュレス決済、インターネット通販などのサービスの利用頻度は日本とは比べものにならないほど多いのではないか。日進月歩のデジタル技術とは反対の昔ながらのアナログ技術に郷愁を感じるタイプの筆者などは、中国で日々進化する最先端のIT(情報技術)社会では「到底生きていけない」ようにも感じる(「生きたくない」というのが本音だが……)。SF小説にでも出てくるような未来社会を先取りする中国のデジタル社会をけん引するのが、「スマート産業」と呼ばれる人工知能(AI)やビッグデータ、顔認証などの最新技術をさまざまに応用した一群の先端的研究・開発・製造部門だ。

日本では、「賢い」を意味する英語の「スマート」を冠したスマート産業という専門用語はまだ広く行きわたっていないが、この分野で先行する中国ではこの言い方がすでに一般的になっているようだ。中国語では「智能産業」と表記する。

今回紹介する重慶中心部の高台にある会議場兼多目的施設で開催されていた中国の第2回国際スマート産業博覧会には、学校の夏休みの終わりの時期ということもあって、子ども連れの家族や若者グループの来場者が多数訪れていた。ビッグデータなどを活用した自治体の行政サービスの効率化を図る大きな液晶画面のブースや乗用車に搭載するさまざまなAI関連装置の機能を説明するブース、中国有力銀行が導入を始めた子どもキャラクターの接客ロボットを相手にした会話のやりとりといった人気のブースに大きな人だかりができていた。広い博覧会会場のあちこちには、中国産業界が先行する次世代通信規格「5G」の基地局アンテナを示す標識塔が立っており、広大なホールに多数ある出展ブースでの超高速通信のやりとりにも役立っているのだろう。

先端産業の博覧会あるいは見本市ということで、会場を視察する前には、大手IT企業の関係者やビジネスマン、専門家、外国人バイヤーの商談が行われているのだろうと想像していたが、一見してそうと分かる企業関係者やエンジニアといったいわゆる業界人はほとんどおらず、乳幼児を含めた子ども連れの家族や若者グループで会場がにぎわっていたのには驚いた。もちろん、業界関係者が商談や契約交渉などを行うスペースは大きな会場内のどこかに設けられているのだろうが、多種多様なサービス向けごとに仕分けされて設置されている出展企業のブースはどこも、スマート産業分野の先端技術製品とは縁遠いと思われる重慶市民など地元の一般来場者ばかりだった。博覧会会場を案内してくれた重慶市の人民対外友好協会担当者になぜ家族連れなどが多いのかと理由を聞くと、主催団体に名前を連ねる重慶市人民政府が来場者を集める目的もあって、入場料をタダにしているほか、会場までの送迎用大型バスの運賃も無料にしていると「内幕」を話してくれた。

おカネをかけずに、近未来に登場する先端的なデジタル製品などをふんだんに目にしたり、直接触れたりすることもできるのであれば、博覧会は娯楽あるいは一種のレジャーとして格好の一大イベントであり、多くの市民が続々と詰め掛けていたのもうなずける。

地元紙は、有力銀行が導入を始めた接客用の子どもロボットとの会話に目を輝かす少女の写真を付けて、「習主席が中国のスマート産業見本市の開幕を祝賀」という見出しの大きな記事を掲載していた。この愛らしい掲載写真が物語るように、国際スマート産業博覧会のテーマの一つが「スマート(賢いの意)な先端技術が生活を豊かに彩る」といううたい文句にあるとするなら、多くの中国人来場者にとっては、会場のあちこちで見聞できたさまざまなデジタル機器製品がいずれ身近な日常生活の便利なツール(道具)となることが体感できたのではないか。地元紙によると、今年の博覧会には世界28の国・地域から843の企業が出展したといい、博覧会の誘致が追い風となって、重慶がIT産業の一大集積地になりつつあるそうだ。

筆者は一昨年の2017年はインターネット産業関連の新興企業を積極的に誘致して地元経済の発展や雇用拡大の起爆剤としていた中国浙江省桐郷市の烏鎮、昨年(2018年)はビッグデータの総合試験区展示センターを設立してやはり先端的な情報通信技術産業のさらなる発展を目指すという貴州省の州都・貴陽をそれぞれ訪れ、中央政府がテコ入れを図っていた国家級プロジェクトを視察したが、重慶のスマート産業博覧会の年次開催も同様の取り組みであることが分かった。重慶はかつては鉄鋼や工作機械の製造といった長大重厚産業の一大拠点として知られていたが、そうした伝統的産業が衰退する中、将来のさらなる発展をにらんで、スマート産業という新たな価値ある鉱脈を掘り当てたようだ。