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ベトナム 生活図譜

第30回 ベトナム現代建築試論
2019-08-21. 竹森紘臣
 先日ある建築を訪れた。その建築は今から10年ほど前にベトナム南部のビンズオン省につくられたカフェだ。「Wind & Water Cafe」と名付けられたカフェはベトナム人建築家 Vo Trong Nghia(ヴォ・チョン・ギア)氏の設計によるものだ。このカフェは彼の作品の代名詞ともいえる竹を用いた建築で、当初はドーム型のバーと三日月形の半屋外のカフェからなっていたが、現在はドームの部分はすでに取り壊されてしまった。カフェは周囲を人工の池で囲われている。(写真1)細い鉄骨の柱で持ち上げられた屋根はV字型をしており、屋根にぶつかる空気の圧力差を利用して、屋根の下の空気が流れる仕組みとなっている。池の上を吹く風がカフェ部分に運ばれ心地よい環境を作り出している。10年が経過し、材料が劣化したり、オーナーも変わり完成当初には意図しなかったであろう改装が行われたりしているが、10年の歳月で育ったガジュマルや建物や地面にまとわりつく植物のおかげでより居心地がよくなったのではないかと思う。8年前のベトナムというおおらかな時代の計画のため、全体のスペースの使い方が贅沢で現在では生まれにくい条件というのも、この建築をよりサスティナブルなものとしている。

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Wind & Water Cafe(ビンズオン、ベトナム)
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White Palace(ホーチミン市、ベトナム)
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Brick Cave(ドンアイン、ベトナム)
 8年ほど前にベトナムをはじめて訪れる際にベトナムの建築について調べた。当時、日本語または英語で「ベトナム 建築」というキーワードでインターネットで検索すると、現代建築で出てくる結果はほぼ「WNW Cafe」というプロジェクトだった。WNWはWind & Waterの頭文字をとって名付けられたこの物件の名前だ。のちに私がベトナムに渡り、さまざまな建築家に会い、もちろんNghia氏以外にも素晴らしい活動をしている建築家たちに出会うことになる。その当時に海外で、またはベトナム国内でもベトナム人の現代建築家として著名だったのはNghia氏であろう。その意味で彼がベトナム国内の若手建築家に与えた影響は大きい。ここ3、4年でベトナムの建築メディアは非常に盛んで、国内外の多くの建築作品をベトナム語で伝えているが、当時はそのようなメディアは皆無であった。その当時に海外の賞やネットメディアで次々と自作を発表していく彼のスタイルは新しく、ベトナム人の建築学生の多くはネット経由でNghia氏から大きな影響を受けていた。また現代建築と呼べるものを実際に見に行ける環境ができたのも大きい。今でこそ多くの若者が海外に旅行ができるようになったが、それもここ数年のことだからだ。Nghia氏は日本との関りも大きい。高専から日本に留学し、大学院まで日本で建築を学んだ。彼の事務所には多くの若手日本人建築士がパートナーとして働いており、彼らの中には事務所を辞めベトナムに残り、みずから事務所を開設している人たちも多い。アジアの他の国々とはちがって、ベトナムでは戸建て住宅の設計の仕事がおおく、日本の設計需要との親和性も高い。このカフェもそうだが比較的規模の小さな建築物件の仕事が多かったのも、若手の日本人建築士たちと一緒に活躍できた要因かもしれない。

 このカフェがつくられたころからベトナムは急速な経済発展を遂げている。建築家に要求される建物は小さなカフェや住宅にとどまらず、リゾートホテルや結婚式場など多岐にわたり、規模も大きくなっていった。ここ数年でつくられた建築メディアにNghia氏前後の世代の建築家が次々と取り上げられ、ベトナムの建築学生に大きな影響を与えた。国内だけでなく海外にも発表され、いろんな国の建築メディアがベトナム建築の特集を組んでいる。海外のインターネットサイトのアワードで受賞する建築家もでてきた。そんな中で学生や若い建築家に人気があるA21 Architectという建築家がいる。最近完成した結婚式場は外観のほとんどが穴のあいた白いスチールパネルで覆われている。(写真2)日本ではバブル時代に既視感のあるような建物であるが、ベトナム建築では大きなチャレンジである。彼らはすでにいくつかのイベントホールなどの経験もあり、プランニングもそつがない。ただWind & Waterの時代に比べると多分に商業的で物質的にもプログラム的にも10年後の姿を想像するのは難しい。
 
 一方でラディカルな建築の素材や存在を追及する建築家もいる。ハノイで活動するH&P Architectは土を固めて壁をつくる版築や地場の材料を使ってベトナムの建築を追及している。(写真3)ベトナムでは今、建築家は人気の職業のひとつだ。たくさんの若手の建築家が自分の好きな方向に向かって研鑽を積んでおり、彼らの作品は今までの常識を外れたものもあり驚かされることも多い。一方でネットメディアの影響で写真映えするようなデザインを目指す傾向も強く、張りぼて感がいないめないものも多い。狂乱の時代に刹那に消えていくような建物が多いが、個人的には10年でも20年でもベトナムに残り、新しい街を作り出すような建築が現代のベトナム人建築家が生み出してくれるのを日々楽しみにしている。
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Wind & Water Cafe(ビンズオン、ベトナム)