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ベトナム 生活図譜

第26回 ナムディン、廃墟の教会
2019-04-17. 竹森紘臣
4月16日早朝に入ったパリの観光名所ノートルダム大聖堂の火災についてのニュースには日本でも驚かされたひとが多いのではないだろうか。ノートルダム大聖堂は1886年にハノイ中心部に建設されたハノイ大教会(聖ジョセフ大聖堂)のモデルとなった教会ともいわれており、世界中の人たちにとってはもちろん、ベトナム人、とりわけハノイの方々にも意味のある建物である。18世紀後半から19世紀半ばにかけて、フランスはゴシック・リバイバルと呼ばれるゴシック建築の復興期であったため、同時期にフランス人を中心に建設されたハノイ大聖堂がゴシック様式の建築になったと考えられる。以来、ベトナム中北部の教会建築では広くゴシック様式が用いられてきた。

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Hai Nhuan Church(ナムディン、ベトナム)
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Hai Ly Church(ナムディン、ベトナム)
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Hai Dong Church(ナムディン、ベトナム)
第5回の『キリスト教の伝播と教会建築』でも少しお話したがベトナムにおけるキリスト教は大航海時代の15世紀の終わり頃にベトナム中部から伝来し、キリスト教宣教師による布教活動が開始された。その後、北中部の貧しい農村地帯や一部の少数民族を中心にその教えが広まった。その北部の農村地帯のひとつにナムディン(Nam Dinh)省がある。ナムディン省の人口200万人のうち40万人程度がキリスト教徒といわれている。ナムディンはハノイから車で南に2時間ほどの場所に位置するトンキン湾に面する省である。

ナムディン省の省都であるナムディン市の中心地を抜け田園風景の中を車で走ると、その視界に同時に4、5軒の教会が目に入る。教会以外の建物、住宅がだいたい1、2階建てということもあり余計に目立つのだが、それにしても多くの教会が建てられている。ほとんどが双塔を正面の外観に持ち、祭壇を配置する建物奥の内陣の上にはドームや尖塔が掛けられている。(写真1)内部の礼拝を行う身廊部分にはリブヴォールトと呼ばれるゴシック様式の特徴的な複雑なアーチが掛けられている。

このような教会が数多くあるナムディンでとりわけ有名な教会が海辺にある。現在は廃墟になってしまったHai Ly Churchと呼ばれる教会である。この建物は1940年代にフランス人建築家によって建設されたといわれている。しかし1996年に起こった海岸浸食により教会が放棄されのち、長らく放置され現在のような廃墟になった。満潮になると教会の床に海水が上がってしまうため、年々老朽化が進行していた。ただ数年前から地元のランドマークとして人気になり、現在では周囲を堤防で固めて波による浸食からこの廃墟を守っている。この海岸では今でも漁が行われており、早朝には小さな船が一斉に漁に出かけ、日中から夕方にかけては海水浴客や教会での撮影に訪れた人たちでにぎわっている。(写真2)1996年に起きたこの海岸浸食では付近の海岸線1km程度まで海水に沈んでしまったといわれている。海岸線を走っているとその他にも同様に廃墟になったと思われる教会の遺構に出会う。(写真3)そしてその遺構の向こうには新しい教会が建設されている。

一昨年の冬、ナムディンの有名な古い教会が漏電による火災で全焼してしまった。火災や海岸浸食などの天災に遭い、多くの建物が世界中で失われている。世界文化遺産に登録されている建物など、その文化的な価値によって大きなニュースになる建物もあるが、ひっそりと役割を終えて次のものに建て替わっているものもある。そしてHai Ly Churchのように廃墟のまま新しい価値をもって生き残る建築もあるのは、常に前向きな性格をもつベトナムらしい在り方とも思う。
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ナムディン、ベトナム