第427回 エネルギーがテーマのアスタナ万博(その3) 伊藤努

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第427回 エネルギーがテーマのアスタナ万博(その3)

カザフスタンの首都アスタナは同国の独立から5年後の1997年、南東部にある旧首都アルマトイから遷都した新興都市だ。人口は90万人弱と、長くこの国の政治・文化の中心地だったアルマトイの170万人に比べ少ないが、成長著しいカザフスタンの新たな玄関口として、計画的な都市づくりが行われた結果、市内には威容を誇る公共建築物や高層ビル群が立ち並び、活気に満ちている。市内を走る幹線道路は片側3車線、4車線と余裕を持って造られており、筆者ら一行が訪ねた8月はまだアスタナ国際博覧会(万博)が開催中だったこともあって、市内の至る所に万博の開催をPRするカラフルな旗などがたなびき、普段よりは多い外国人観光客の姿と併せ、国際色に富んだ印象を受けた。

さて、そのアスタナ万博だが、6月10日から9月10日までの3カ月間にわたって開かれ、中央アジアの地で初めての万博招致とあって、カザフスタンの国威発揚に一役買ったようだ。4年に一度、世界の主要都市で開かれる万博は、その時々の世界の経済・社会動向などもにらんで人類的課題の大きなテーマを掲げ、出展する各国はホスト国が選んだ博覧会の統一テーマに沿って展示に工夫をこらす仕組みだ。

アスタナ万博のテーマは「未来のエネルギー」で、日本を含め出展する各国はそれぞれ知恵を絞って、国の経済発展や人々の生活に欠かせないエネルギーの活用法や石炭・石油といった化石エネルギーに取って代わると期待される再生エネルギーなどの将来像を探っていた。


中央アジア初カザフスタンの首都でアスタナ万博


日本は万博会場に「日本館」というパビリオンを設置し、テーマは「スマートミックス ウイズ テクノロジー=オールジャパンの経験と挑戦」だった。英語とカタカナが多くて若干難しいスローガンだが、簡単に言えば、「多様なエネルギー源を生かし、活用しながら使うことを通じて、安全性や環境配慮を確保しながら、低コストで安定的なエネルギー供給を実現することがいかに重要か」ということを会場内の3つのゾーンを使って展示し、発信していた。斬新な映像で紹介される各ゾーンの説明は英語と日本語に加えて、カザフ語でも視聴できるようになっており、来場者が最も多い地元カザフ人の好評を博していた。

ホスト国のカザフスタンは、100ヘクタール以上の広い会場の中央に高さ96メートル、8階の巨大なパビリオンを造営し、「未来のアスタナ」と銘打った最上階の8階展示ブースから順に階下に降りながら、各フロアごとに展示されているエネルギー関係のさまざまなテーマを観覧していく形式だ。最上階にはパビリオンの最下部まで見下ろすことができるガラス製の橋があり、渡るときに下を見ると、思わず足がすくむ。

かつて2度にわたる石油ショックに見舞われ、地球のエネルギー資源の有限性にいち早く気づいたわが国はその後、一貫して省エネやエネルギーの効率的利用に取り組んできたが、カザフスタンは石油や天然ガスの産出国で省エネ意識が低いためか、首都アスタナは夜のとばりが下りると、市内の高層ビルや街路はさまざまな電飾でカラフルな光線が織りなす別世界に変貌する。

国際博覧会は省エネの在り方の追求も大きなテーマだったはずが、アスタナ市内にある多くのビルや橋などが原色の照明でライトアップされ、電気は使い放題という生活ぶりを見ると、万博の目標とカザフスタンの現実には相当の開きがあるとの印象を受けた。

アスタナ万博日本館

 

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