2年ほど前の本欄に「世界に羽ばたく後輩の元女性記者」のタイトルで、国際ニュース報道に従事する記者の仕事に終止符を打ち、米大学院への留学を経て国際機関の職員に転身した職場の後輩女性記者の新たな門出を紹介した。そのときの拙稿ではAさんと仮名で記したが、最近の朝日新聞のGLOBE版(毎月1回、日曜日に別刷りで発行されている国際情報版)にAさん、こと淡路愛(あわじ・あい)君が「南スーダンで和平を見守る」の見出しで寄稿していた。
寄稿文の肩書は「赤十字国際委員会(ICRC)フィールド要員」となっており、文章にはICRCの記章付き制服をまとい、装備用リュックを背負い、無線機を手にした彼女の近影も添えられていた。文章の末尾には、簡単な経歴が付記されており、「時事通信社外信部記者、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員などを経て2014年からICRCでフィールド要員」となっていた。
「フィールド要員」という肩書、仕事は恥ずかしながら、国際ニュース報道歴40年の筆者が初めて知った言葉だったが、淡路君の仕事紹介の文章を読むと、「傷ついた人々を敵味方なく救う」をモットーとする赤十字運動を始めたICRC(本部スイス・ジュネーブ)が世界中の紛争地で、武力紛争の影響を受けている人々を国際人道法によって保護したり、支援したりするために最前線で活動している職員ということが分かった。紛争地での活動は文字通り、命懸けの任務の連続だろう。
今回の寄稿文とは別に、GLOBEのウェブ版に寄せた4回のコラムでは、日本の自衛隊も国連平和維持活動(PKO)任務で展開中の南スーダンで、政府軍と反政府勢力の支配地域をまたいで食料を届ける話や、戦争で離ればなれになった家族の絆を衛星電話でつなぐ活動などを紹介している。
何事にも全力を尽くすタイプの淡路君がICRCに採用され、最初の赴任地フィリピンに向かう前に、元職場の有志でちょっとした壮行会を都内で開いたことを思い出す。その後、本人とのやりとりは途絶えたものの、東南アジアでの駐在を終えてから南スーダンに異動したことは風の便りでは耳にしていた。忙しさにかまけていたことも一因だが、日本の新聞で同君の活躍ぶりを詳しく知り、うれしくなった。
早速、朝日新聞に寄稿した文章を読み、凛々しい眼差しの淡路君の写真を見た感想を同君のメールに送ったところ、以下のような返信があった。
「伊藤様
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
グローブの記事についてはお恥ずかしい限りです(自分のことを書くのは慣れていないもので)。ワシントン時代の知り合いの朝日新聞特派員がグローブ副編集長だったこともあり、日本ではあまり知られてないICRCのことを読者に知ってもらう絶好のチャンスと思ってウェブ版に原稿を書き始めたのですが、厳しい守秘義務が科されているために書けないことも多く、広報の承認を通さないといけなかったり、スパイの疑いをかけられたりとか、記者時代とはかなり勝手が違います。
私の方は南スーダンでの勤務も11カ月となり、2月いっぱいで任務を終えて帰国する予定です。次はどこの任地になるのかまだ決まっていませんが。(中略)
今年も伊藤さんのご健勝をお祈りいたします。久しぶりにお目にかかってお話を伺えたらうれしいです。
南スーダンにて 淡路拝」
異国のアフリカの紛争地でめったにない経験を積んでいる後輩と東京で近々再会するのが楽しみだ。