南半球に位置するオーストラリアはいつかは訪ねてみたい外国の一つだが、毎年1回、同国には行かなくても、この国の伝統料理やビール、ワインなどを楽しむことができるのはうれしい。桜が満開となる季節の4月初め、都心に近い豪州大使公邸と庭園で開催される大使主催のガーデン・パーティーにお呼ばれされるからだ。
今年も桜がほぼ満開の4月の某日、招待状を手にいそいそと会場の豪州大使公邸を訪ねた。開始時間前だというのに、小高い丘の上にある戦国時代から数百年の歴史を持つという屋敷跡の広い芝生の庭園には内外の招待客がすでに詰め掛けており、会場にいた方々も毎年恒例の野外パーティーを心待ちにしていたことがうかがえた。
豪州大使公邸と庭園の桜
庭園の入り口でセキュリティー・チェックを受け、飲み物のビール(ワイン、ソフトドリンクも可)を受け取ると、会場の右手から時計の反対回りで、寿司バー、ローストビーフ、コールド・ディッシュ(冷製料理)、オージー・ビーフ&ラム、ホット・ディッシュ(温製料理)、バーベキュー、チーズ、デザート・フルーツなどの食べ物、デザートを乗せたテーブルが並んでおり、ごちそうばかりで、つい目移りがしてしまう。
豪州の地元料理が中心なので、まずオージー・ビーフとラムの焼いた肉を堪能した後、豪州産サーモンのテーブルに向かった。ピンク色のサーモンの隣りに白い魚の切り身のようなものがあったので、担当者に聞くと、「ワニ」(英語でクロコダイル)とのことで、思わず賞味することにした。味の印象は白身の魚で、教えてもらわなければ、ワニの切り身だとは絶対に分からない。面白い経験だった。
会場で食べ物を物色していると、後ろから声を掛けられた。同業他社の先輩ジャーナリストで、以前、シンガポール特派員としてアジアに駐在していた折、豪州も守備範囲だったそうだ。そのときの出張取材時に現在のブルース・ミラー駐日大使とも知り合いになった由で、かねて尊敬している先輩女性ジャーナリストは「旧知の大使から呼ばれたのよ」と教えてくれた。筆者は大使館の広報担当者が招待してくれたので、こんなところにも記者としての力関係が反映されているかもしれない。
オーストラリア大使館
他社の先輩記者だったTさんと互いに近況報告のような話をしていると、「もうカンガルーのお肉は食べた?」と聞かれた。豪州と動物のカンガルーは切っても切れない関係だが、まさか、この愛らしい動物が食材となっていることは知らなかった。生まれて初めて食することになったカンガルー肉は、前述の冷製料理のテーブルにあり、胡麻味噌風味のしゃぶしゃぶサラダとして味わった。これも、事前に教えてもらわなければ、食材を言い当てることは不可能に思われた。
ちょっと驚いたことに、大使公邸の会場には重さが40キロほどのマグロ一匹がテーブルの上に置かれ、日本の水産会社派遣の料理人によるまるまると太ったマグロの解体ショーが行われた。料理されたのは南太平洋産のミナミマグロで、れっきとした豪州特産の魚類の一つだったのである。大きなマグロは1時間足らずできれいに解体され、数百人の参会者の胃袋に見事収まったのだった。