第109回 中国メディア東京特派員、S記者の抱負 伊藤努

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第109回 中国メディア東京特派員、S記者の抱負

先日、都内であった香港経済団体の昼食会に呼ばれ、日本に赴任したばかりの中国メディアの東京特派員のS記者と知り合った。日本語が非常に上手なので、どこで勉強したのかと聞くと、北京にある有名大学の日本語学科を卒業し、新聞記者になったそうだ。

筆者自身、海外の何カ所かで特派員生活を送ったので経験があるが、赴任早々は気分も高揚し、取材先の開拓で毎日、初対面の人に会うので、今は非常に新鮮な日々に違いない。30歳前後と若いS記者も多くのことに関心があるようで、周りにいた日本人の記者仲間とさまざまな話題を取り上げ、座が盛り上がった。はつらつとした話しぶりに好感を持った。

一通りお互いの素性や仕事を紹介し合った頃合いを見計らって、S特派員に日本ではどんなテーマを取材したいかと聞いてみた。東京支局の任務として、日本の政治、経済、社会、文化、生活といった具合に取材対象は多岐にわたるが、「将来の中国社会のために、日本のさまざまな経験を学び、それを本国の読者に伝えたい」と抱負を語った。

津波で住宅地に打ち上げられた漁船(岩手県宮古市330日)        朝雲新聞社HPから転載

記者の先輩として、「なるほど!」と感嘆した。見るからに礼儀ただしく、謙虚な印象を与えるS記者らしい返事だと思った。「具体的にはどのような日本の経験?」と尋ねると、日本における少子高齢化をはじめ、都市と地方の格差、過疎の象徴とも言える限界集落、公害対策といった環境問題などをたちどころに列挙した。何でも、これらの問題は中国でもすでに社会問題になっているものがあるほか、将来、日本の後を追う形で深刻化する可能性が高く、その解決策の手掛かりを日本での取材を通じてつかみ、読者に伝えたいと付け加えた。

昨年夏に中日友好協会の招きで中国を訪問した折、政府系の社会科学院日本研究所の研究者の方々と日中両国の国民感情に大きな影響を与えるメディアの役割について長時間意見を交換した。その際に双方で一致したのは、それぞれのメディアが相手国のことを報道するに当たっては、両国政府の対立や政治、経済といった硬派のテーマを大きく取り上げるのではなく、一般国民の生活ぶりや国内にあるさまざまな問題を多くの情報を盛り込んで伝えることの大切さだった。

S特派員が日本の国内各地に足を延ばし、わが国が抱える問題をその目と耳で取材し、本国の読者にぜひとも実像として伝えてほしいものだ。東日本大震災の災害報道は東京特派員としての最初の大仕事になったはずだ。

 

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