筆者が蛇足と考えるラストの約二分前後には二つのテーマというか、主張が盛り込まれている。一つは南シナ海の領有権の主張である。領有権を侵害するものには容赦しないという強い立場を示したものである。もう一つは中国海軍の強大な装備、圧倒的な海軍力の誇示である。これはクロージングクレジットの横のミニスクリーンで“語られる”。
南シナ海はいまアジアでいつ米中の武力衝突が起こっても不思議ではない危険な海域と化しており中国も難しい対応を迫られている。南シナ海は太平洋の西側に接する海域。北は中国、台湾からフィリピンの西を経て南はマレーシア、インドネシアにかけて広がる。マラッカ海峡を経てインド洋にぬける貴重な通商航路(シーレーン)で、しかも太平洋とインド洋を結ぶ戦略的に重要な海域でもある。それだけに領有権や周辺海域の管轄権をめぐる沿岸諸国の紛争が絶えない。ところが中国は南シナ海ほぼ全域を自国の領海と主張してはばからない。中国と領有権問題を抱えるフィリピンが仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴したところ、同裁判所が2016年7月南シナ海を巡る中国の領有権の主張を否定する判決をくだしたのだが、中国はそれをまったく無視して、数年前に着手した南シナ海南部の多数の島や岩などで形成されたスプラトリー(南沙)諸島の軍事基地化を止めようとしない。このため東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国だけでなく欧米諸国も警戒心を強めている。
★写真あり★
「中国による南シナ海の軍事化と領土拡張は違法で危険だ。多くの国の主権を脅かし、世界の繁栄を危険にさらしている」「米国は、国益上必要な場所はどこでも飛行、航行する。嫌がらせを行っても止めることはできず、決意を強めるだけだ」ペンス米副大統領は昨年11月シンガポールで開かれた東アジア首脳会議でこのように中国を名指しで非難した。
米太平洋軍司令官もまた中国の強引な行動について昨年2月の下院軍事委員会の公聴会で次のように述べている。「(中国は)航空機の収容施設やレーダー施設、滑走路などを含む七つの新基地を造った」「地域での振る舞いから判断すれば、法の支配に基ずく国際秩序を地球規模で崩そうとしている」
ペンス米副大統領の「米国は、国益上必要な場所はいつでも飛行、航行する」との発言どおり米国は中国が軍事拠点化を進める地域周辺を航行することで中国の行為を認めないことを示している。これが米国の言う「航行の自由作戦」だが、昨年9月スプラトリー諸島のガベン礁付近を航行中の米ミサイル駆逐艦に中国海軍の駆逐艦が異常接近した事件も発生、「南シナ海 米中緊張」とわが国の新聞も大きな見出しで報じた(『読売新聞』2018年10月3日)。
米中両国の武力衝突の危険があるのはあるいは台湾周辺海域の方かもしれない。が、この問題はこの辺で止めておこう。要するに南シナ海がこのように危険な海域になってしまったことから中国、あるいは中国海軍としてはこの機会を利用して改めて「南シナ海は中国の領海であり、米国や沿海諸国の侵犯には断固たる態度で臨む。そのための装備近代化を進めている」という宣伝をしたかったのであろう。それについてとやかく言うつもりはない。しかし、この映画のようにテーマと関係のない宣伝をラストの部分にたとえ約二分前後とはいえ付け足すような無神経なことをされてはファンとしても興ざめである。映画は一つの作品であり、独自のメッセージも盛り込まれている。それなりに気を使ってほしい。
筆者としてはこう言いたいだけなのである。
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