中国映画『紅海行動』と南シナ海(その1) 戸張東夫

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<中国映画『紅海行動』と南シナ海>

中国映画はエンターテインメントが苦手なのだが、昨年と一昨年公開された戦争アクション映画『戦狼Ⅱ(戦狼 ウルフ・オブ・ウォー)』(呉金監督、2017年)と『紅海行動(オペレーション:レッド・シー)』(林超賢監督、2018年)は中国映画には珍しく面白い作品だった。中国のアクション映画としてはこれまでで最高の出来栄えと言っていいのではあるまいか。前回の論評「中国映画『戦狼Ⅱ』『紅海行動』と一帯一路構想」ではこれらの作品を紹介するとともに、これら二作品には国際世論から疑いの目で見られ、非難されている中国の巨大経済圏構想「一帯一路」のイメージアップを図るという目的が隠されていたという筆者の観方を述べた。

そのときには触れることができなかったのだが、『紅海行動』には一つ気になるところがあり、いまもなお気になっている。気になるところというのはこの映画の終わり方、エンディングである。ラストのシークエンスがまるで取ってつけたようで不自然な感じがしてならないのである。映画は内容に応じてさまざまなエンディングがあるであろうし、これはこれでいいというファンも少なくないかもしれない。考えすぎではないか、思い込みではあるまいかなど筆者のためらいもないわけではない。だがその一方で『紅海行動』の不自然なエンディングは芸術より政治を重視する中国当局の姿勢(政策)や中国で映画を作ることの難しさを訴えているようにも受け取れるのである。そこでここではこの映画のどこがどのように不自然で、また何がその背景なのかについて語ってみたい。

 

<『紅海行動』は混乱に巻き込まれた在外中国人同胞救出のドラマ>

『紅海行動』はアフリカの某友好国で起こったクーデターに巻き込まれた現地滞在の中国人同胞を救出する中国海軍の献身的で勇敢な活動をたっぷり味あわせてくれる。2015年イエメンで内戦が突発したため中国の海軍艦艇が現場に急行して中国人居住者の救出と撤退に当たったが、その実際に起こった事件を元に作った作品という。

中国海軍艦艇がソマリア沖で海賊に襲われた貨物船を救出するため戦っているところに本国から緊急連絡が入った。「アフリカの某友好国でクーデターが発生、反乱軍に現地のテロ組織も加わり国内が混乱し危険な状態に陥った。現地滞在の中国人同胞を救出せよ」という命令だった。 

このため海軍の精鋭で組織した蛟龍突撃隊の八人が出撃、反乱軍とテロ組織が占拠する町に急行し中国人同胞の救出にあたった。戦闘員の数では反乱軍側が圧倒的有利で、多勢に無勢蛟龍突撃隊の八人では手も足も出ない状況だった。このため蛟龍突撃隊はビルからビルへと移動しながら都市ゲリラ的戦闘で対抗した。こうして現地にいた中国人同胞を中国から派遣された艦艇の待つ埠頭に無事撤退させることができた。だがテロ組織との戦闘はてこずり、厳しいものになった。このため八人全員が帰艦することはできず、二人の隊員が犠牲となった。さらにテロ組織がウラニュームの入手を画策していることが明らかになったことから、蛟龍突撃隊の生き残りが命令をまたず独断でテロ組織のウラニューム入手を実力で阻止することに成功した。

オペレーション・レッドシーはこうして二人の犠牲者を出して終わった。艦艇の広い甲板で犠牲となって倒れた隊員二人の追悼式が厳かに挙行される。ソマリア沖でもあろうか紺青の海が果てしなく広がり、ゆったりとうねっている。純白の海軍の制服姿の兵士、乗員約百五十人が十列に整列し、悲痛な面持ちで敬礼をしている。カメラは左に移動し、風に翻る頭上の真紅の中国国旗五星紅旗を画面いっぱいに映し出す。


<取ってつけたような不自然なエンディング>

そこで場面が暗転して再び画面いっぱいに波打つ海が映し出される。亡くなった蛟龍突撃隊の兵士の追悼式が執り行われているソマリア辺りの海だと思ったら、画面の左下に小さな黄色のくっきりした文字が現れた。「中国南海 South China Sea」とある。これはわが国でいうところの南シナ海である。ソマリア沖から遠く離れた南シナ海なのだった。すると画面の奥から真っ白な艦艇が現れた。続いてこの艦艇を追跡しているように数隻の軍艦が映し出される。突然サイレンが鋭く鳴り響き、ラウドスピーカーが怒鳴るように叫びだした。「我々は中国海軍だ ここは中国の領海である 直ちに退去せよ 直ちに退去せよ」。中国語でまず一回、続いて英語で一回こんな警告を叫んだ。その後スクリーンは船団を組むように遊弋する中国艦艇を映し出し、そこで画面は製作者や出演者の名前を紹介するクロージングクレジットに変わる。その左側にミニスクリーンが現れ空母、発進する艦載機、浮上、航行する潜水艦、海洋を進む中国艦隊など十八カットが映し出される。

追悼式の後画面が暗転してからクロージングクレジット横のミニスクリーンの十八カットが終わるまで約2分前後だが、この部分がこの作品のドラマとはまったく無関係で、まるで取ってつけたように不自然だと筆者はいいたいのである。


写真1:「中国人同胞救出に向かう蛟龍突撃隊の兵士たち。『紅海 行動』は中国のアクション映画としては出色だった。」 (クロックワークス提供)


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