このように一帯一路構想をめぐって中国が世界中から袋叩きにあっている時期に映画『戦狼Ⅱ』と『紅海行動』が作られ公開されたのである。
両作品の舞台がアフリカであるのは、すでにご想像のとおりアフリカが一帯一路構想の重点地域の一つだからである。またこれら二作品のなかで中国人が現地の混乱に巻き込まれた中国人同胞を救出するだけでなく、現地の住民もともに救出したり、中国人だとわかると現地軍の態度が友好的になったり、ヒーローの冷鋒がアフリカ人の少年をわが子のように可愛がって面倒をみたり、中国人の医師が現地で流行する伝染病の特効薬を研究したり、これら二つの作品に登場する中国人たちがアフリカのために涙ぐましい努力を重ねるのは、アフリカなどで不法な手段を使ったり、不必要なプロジェクトを押し付けたり、また“借金漬け外交”を展開していると批判されている中国の一帯一路構想のイメージアップを図ろうとしているのに他ならない。これら二つの作品を観て中国とアフリカとの友好的な関係や中国人が現地の人たちからいかに信頼され好感を抱かれているかに皆さんが強い印象を抱いたとすれば、映画を作った目的は十分達成されたことになるわけである。
この二つの作品は前述のように中国から五千海里離れたソマリアに近いアデン湾辺りで海賊に襲われた貨物船を救助し、海賊を撃退するエピソードで幕を開ける。海の青さと広さがとても印象的だった。
中国を遠く離れた海域が舞台になったのは、『紅海行動』が冒頭で説明しているように、2015年イエメンの内戦に巻き込まれた中国人らを中国海軍が軍艦を派遣して救出した実際にあった事件を下敷きにしているからだ。とくに説明はないが『戦狼Ⅱ』にしても事情は同じであろう。だから紅海辺りが舞台になるのは当然かもしれない。だが中国は一帯一路構想を進める過程でミヤンマー、スリランカ、パキスタン、モルディブ、ジプチなどで港湾を整備し“海のシルクロード”をたどり、いまやペルシャ湾、紅海からインド洋を経てマラッカ海峡にいたるシーレーンをわが物とすることに成功した。あまり知られていないが中国は2017年7月ジブチに初めての海外軍事基地を開設した。また米週刊誌『タイム』(2019年1月28日号、「China Focus 」44~45頁)に一帯一路構想によって建設中の中国-モルジブ友好橋の写真が掲載されている。そういう背景があって初めてインド洋の彼方の公海がアクション映画の舞台になったのである。中国から遠く離れたアフリカ辺りで中国人のヒーローが“わが物顔”で暴れまわっているところを見るといまや米国に次ぐ世界第二の超大国となった中国の影響力がこれだけ拡大したのだという誇らしげな姿勢を感じないわけにはいかない。そう感じさせるのがこれら二つの映画の一つのメッセージだと言ってよかろう。
気になるのはこの二つの作品のテーマもストーリーもよく似ている点である。政情不安のアフリカを舞台に、居住国の内乱に巻き込まれたり、ゲリラに襲われたりした現地の中国人住民を救出するというテーマもストーリーの全体の構成もそっくり同じといってよい。そういえばアデン湾辺りの公海で海賊に襲われた貨物船を救助、海賊どもを撃退するという冒頭のエピソードは全く同じである。また各作品を通じて愛国主義を強調し、国威発揚に力を入れるというところも同じである。そんな二本の作品をわずか一年程度の間隔で公開したのだから、同工異曲とか、パクリだなどという批判が出ないほうが不思議なくらいである。これら二作品がずば抜けて面白く、興行成績もよかったからかも知れない。
写真1:「『紅海行動』の一シーン。蛟龍突撃隊の兵士たち。」(写真はいずれもNPO法人日中映画祭実行委員会など提供)
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