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20回目迎えた東京・中国映画週間 ―提携映画祭にも多数の中国語圏作品 三木孝治郎

20回目迎えた東京・中国映画週間 ―提携映画祭にも多数の中国語圏作品 三木孝治郎

第3回 20回目迎えた東京・中国映画週間―提携映画祭にも多数の中国語圏作品


今年で20年目を迎えた秋の「東京・中国映画週間」が1021日から約1週間、東京の日本橋と有楽町で開催された。06年に日中両国の映画文化交流を深める狙いからスタートし10本程度の作品を一挙上映してきた。今回は節目の年ということで翻訳者とボランティアに対し「これまで支えてくれた皆様に心より感謝します」との言葉とともに感謝状と記念品が贈られた。

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「2025年東京・中国映画週間」のポスター

期間中、香港映画ファンには懐かしい往年の名優アンディ・ラウ(劉徳華)らがキャストに名を連ね中国国内で興行収入6億元(約123億円)を突破した話題作「長安のライチ」(原題「长安的荔枝」)など11本が東京日本橋、有楽町で一挙に上映された。

SNSの在り方に鋭く切り込んだ「悪意」(同「恶意」)やチェン・カイコー(陳凱歌)監督が「狙撃稜線の戦いに焦点を当てた」という「志願軍~存亡をかけた戦い」(「志愿军,为生存而战」)なども注目を集めたが、第10回ゴールドクレイン賞の最優秀作品賞にはシャオ・ヤン(肖央)らが出演した「误杀3」(「誤殺3」)が選ばれた。「誤殺3」の甘剣宇監督は香港で学位を取得しており、今年も中国大陸以外からの映画関係者の活躍も活発だった。

 クロージング作品には注目のチャン・イーシン(张艺兴)が主演した「愛がきこえる」(「MUMU/不说话的爱」)のほか、上海を拠点とする大規模な金融詐欺の首謀者をパリに追う「フォックス・ハント」(「Fox Hunt」、主演トニー・レオン12月日本で公開予定)が上映された。

 NPO法人日中映画祭実行委員会は「映画は文明の相互理解を促す最良の媒介であり、国境を越え、心をつなぐ共通の言語。映画祭を通じて両国文化交流の架け橋となり、より良き未来を築いていけることを、心より願う」と述べ、長年日中の交流活動を支えた関係機関・企業、そして両国の映画愛好者に対して謝意を表明した。

<提携映画祭にも多くの中国語圏作品>

一方で、東京・中国映画週間は同時期に行われる東京国際映画祭(TIFF)の提携しており、そちらでも近年、中国大陸だけでなく中国語圏である香港、シンガポール、台湾から紹介される作品の存在感が拡大している。

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お馴染みとなった野外上映も好天に恵まれた(24年11月、撮影筆者)

今年第38TIFFには台湾の国民的女優グイ・ルンメイ(桂綸鎂)と映画監督ヴィヴィアン・チュウ(文晏)が日本の人気男優斎藤工とともに審査委員として参加。コンペティション部門では日米欧の13作品とともに中国から「春の木(春树)」と「飛行家(飞行家)」の2作品がエントリー。グランプリは『パレスチナ36』に譲ったが、上海出身の「自称泣き虫」王伝君(エリック・ワン、「春の木」)が「静かで控えめな演技で心の内部を伝えることができた」(グイ委員)として満場一致の主演男優賞を獲得した。ちなみに王は2018年の東京中国映画週間で紹介されその後日本でも公開された『薬の神じゃない!』(我不是藥神)にも出演し多彩な活躍を続ける中国の人気俳優。

<映画祭は台湾映画にもフォーカス>

また、今年のTIFFでは台湾映画がフォーカスされ、現在の世界の潮流を知るための「ワールドフォーカス」部門で、大陸からの「ガールズオンワイヤー(想飞的女孩)」シンガポールからの「コピティアムの日々」(Kopitiam Days)など他の中国語圏からの作品とともに注目を集めた。

この特集「台湾電影ルネッサンス2025 ~台湾社会の中の多様性」では、アジア各国・地域と中国人・華僑との密な関係を描いた以下の4作品が紹介された。

1)

「人生は海のように(人生海海)」

イスラム教に改宗した父の遺体をめぐるドタバタ劇が展開

2)

「ダブル・ハピネス(雙囍)」

香港出身の女性と結婚。離婚した両親のために同じホテルで別々に華やかな結婚披露宴を執り行う

3)

「木々の隙間(樹冠羞避)」

タイ人女性パートナーと暮らす女性の母、祖母との間で複雑な感情が交錯

4)

「エイプリル(丟包阿公到我家)」

フィリピンからの出稼ぎ女性と在宅介護される男性の息子とのすれ違い

 

このうち「人生は海のように」はかつて大陸から成功を夢見て命懸けでマレーシアに渡った主人公の祖父を通じて東アジアの華僑たちのルーツを簡潔に紹介する。中国系ゆえマレーシア国内で複雑な宗教事情に翻弄され続け子どもらには隠れた苦労をした父につながる物語とともに、アジアの華僑事情に興味を持つ日本人にとっても興味深い作品となっている。

 オールド中国語学習者である著者が中国の映像に触れる機会はかつて、数えるほどの公会堂での小規模な上映会程度だった。それに比べ近年はこれだけの中国語圏からの作品が盛りだくさんに見ることができる。中国側でも上海で日本映画上映週間が続いており、TIFFのようなより国際的な舞台も活用しながらコロナ禍や政治的な激動の中でも確実な相互文化交流が続いているのは実に嬉しいことだ。

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「人生は海のように(人生海海)」から(©TIFF2025)


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