日本が高齢化社会を迎えたからか、あるいは経済・社会の成熟化のためか、「猛烈な」と表現できそうなペットブームが続いている。もちろん、昔から身近に飼い犬や飼い猫、小鳥などのペットを可愛がっている人はたくさんいたが、もともと日本産ではない愛玩用の小さな犬たちに自分の子供に対するように声を掛けながら散歩をしているお年寄りたちの姿を見ると、そうした光景は昔は見られなかったものだ。
通勤で自宅から最寄り駅までの道すがら、犬との早朝散歩の近所の人を見るたびにそんなことを思ったりすることが多い。そんな折、飼い猫の日常を漫画と文章で描いてきた札幌市の主婦、はた・さきこ(本名・田中祥子)さん(75)の絵本エッセイを手にする機会があった。
書名は「チャトやお呼びですか? ~猫といつまでも~」で、タイトルからも分かるように、茶トラのわがまま猫「チャト」が主人公の日々の生活ぶりや、はたさんら家族との触れ合いの様子を8コマ漫画と短い文章で紹介している。大人の絵本といった趣きで、大手出版社の小学館から最近出版された絵本の帯表紙には、「口コミで私家版4000部を完売した絵本エッセイ。ぜったい見逃せない最強猫本」とうたっている。
愛猫家の皆さんをはじめ、絵本に興味のある方々には、中身は実際に手に取っていただき、読んでからのお楽しみだが、札幌に在住の主婦がもともとは猫好きの友人向けに送っていた8コマ漫画の手作り作品が東京の出版社から本として発行される経緯も一風変わっている。はたさんの作品の数々が周囲の愛猫家の間で評判になり、同じ北海道の小樽で猫の飼い主を探すミニ新聞を発行する同年齢の女性、高橋明子さんの目に留まって冊子の形で発行したところ、何と自費出版本4000部が完売されてしまったというのだ。
このことが、「猫の島」で知られる宮城県の田代島を訪れた高橋さんから、島にいた、やはり猫好きの男性を通じて東京の出版社の編集者に評判が伝わり、立派な絵本エッセイとして出版に至った。札幌という地方から始まった猫好き人間の共感の輪が全国の愛猫家に向けて発信されたようでもある。どのように受け止められるか、興味深い。
知り合いの小学館の担当編集者は、はたさんの全国デビュー作品について「猫好きには、愛らしくも悠然とまたは毅然として猫の『すてきさ』を届けたい。猫派や猫との生活をしていない方にも、人と動物―それぞれありのままに命が触れ合いながら過ごす日常に、心癒されるのではないでしょうか」と話している。
人間に犬好き、猫好きのタイプがあるとすれば、筆者は子供時代に雑種のメス犬「コロ」を飼っていたこともあって、今も犬の方が身近に感じるが、はたさんの水性ボールペンと色鉛筆で優しく描かれた「チャト」の日常を追体験してみて、猫好きの深い思いもよく理解できた。ぜひ、ご一読を。