第271回 鬼のマンション管理組合理事長 伊藤努

第271回 鬼のマンション管理組合理事長
筆者はマンションとは言えないような築数十年の集合住宅に住んでいるが、60世帯余りの入居者なので、数年に一度は任期2年の管理組合理事会の役員の仕事が回ってくる。東京近郊の多摩ニュータウンの居住者が入居から半世紀以上もたち、高齢化が目立っているとのニュースに接するが、わが集合住宅の入居者もごたぶんに漏れず高齢者が増えている。
そんなこともあり、以前に増して管理組合の役員になる間隔が短くなっているが、そこは大事な仕事だと言い聞かせて引き受ける羽目となる。役員と言っても、管理組合トップの理事長と平の理事・監事では責任の重さが段違いに異なるが、最近、1年の任期を終えて退任したA前理事長は久しぶりの豪腕理事長だった。
既に70歳の年齢だが、若々しいファッションセンスもあって、10歳は若く見える。ご本人に直接聞いたことはないが、元商社マンで、英語が堪能なので、月に1回の理事会を司会するときはその口からはやたらに英語の単語、短い文章が発せられる。英語が苦手な高齢の理事もいるのだから、そこまで英単語を連発しなくてもいいのではと感じたことがしばしばだった。
職業人としても大変優秀だったことが会議進行のさばき方やコンセンサスの落としところのもっていき方からもうかがえる。連絡手段としての理事会メンバーやマンション管理会社の担当者あてのメール送付が極めて頻繁で、のんびりした性格や仕事ぶりの理事長が何代にもわたったこともあり(7年ほど前に筆者も理事長を1年務め、10年に一度の大規模修繕の仕事を何とかこなした)、月に1度の理事会での話し合いも随分と密度が濃くなった。
本来は、年間数百万円の委託費用を払っている管理会社任せにせずに、マンションが抱えるさまざまな問題を入居者の代表で構成する理事会が主体的に取り組む重要性を改めて教えてもらう機会となったが、この敏腕理事長の格好の標的となったのが、管理会社でわがマンションを担当する支店長や若い従業員だった。
理事会では、管理会社の仕事ぶりに対する管理組合理事長の叱責や批判が繰り返され、年に数百万円払っているだけの価値あるサービスが提供されているかが何度もヤリ玉に挙げられた。担当社員の若いT君はいつも、理事長の叱責が正しいだけに、満足な反論ができず、いつも善処を約束するだけだったが、客観的に見ても、やはり管理会社の仕事ぶりに専門家としての能力が欠けていることがうかがえた。
いつも叱責を受けるばかりのT君は理事会終了後に落胆の様子を隠せないようだったが、マンション管理会社の正社員として生きていくためには、この程度の試練は乗り越えなくてはならないだろう。元敏腕商社マンの前理事長の指摘を謙虚に受け止め、T君にはその道のプロとしての腕上げに是非とも取り組んでほしい。老朽化しつつある多くのマンションがさまざまな問題を抱え、管理会社の仕事もこれからますます難しくなっていくに違いない。