第253回 プノンペンと有楽町ガード下のギョーザ 伊藤努

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第253回 プノンペンと有楽町ガード下のギョーザ

東京都心の銀座に隣接する有楽町のガード下近くにある大衆向きの中華料理店を時々利用している。メニューにはラーメン、タンメン、ギョーザ、野菜炒め、焼き豚といった典型的な中華ラーメン店の品々が並ぶが、どれも昔ながらの懐かしい味と手ごろな値段によって、常連客も多い。

最近、この中華ラーメン店の近くにある老舗の有名ホテルでのパーティーに出席した後、小腹がすいているということで知人2人を誘って、久しぶりに暖簾をくぐった。ちょうど夕食時ということで、旅行客とおぼしき外国人グループや勤め人らしきおじさん連中で小さな店は混んでいたが、ちょうどテーブルが一つ空き、待たずに注文を出すことができた。

知人の2人には、ホテルからの道すがら、麺類やギョーザなどが昔ながらの味でおいしいこと、いつも店が込み合っていることなどを説明して、出てきた注文の品々に対する感想を聞くのを楽しみにした。

その直前のホテルのパーティーでは、赤ワインにチーズ、ハムといった軽食をとっていたのだが、ビジネスマンとして海外勤務経験が豊富な年配のHさんも、会社の先輩のYさんも「おいしい、おいしい」と言っては、テーブルの上のギョーザや野菜炒め、焼き豚などに次々と箸を出していたのはうれしかった。一応、二次会の店を推薦し、案内した身としては、「荷を降ろした」という心境となる。

ギョーザと言えば、十数年前にカンボジアでの武力衝突騒ぎの取材でプノンペンに長期出張した折、華僑の一族が経営する小さな店構えの中華料理店で食べたギョーザがとても美味しく、仕事の後に記者仲間と日参したことを思い出し、2人にも話した。周辺にある他の店と味がまるで違うのである。うまい味に仕上げる秘訣が何かあったのだろう。

ちょうどそのとき、食事を終えて勘定を払っている中年男性に同席のYさんが気づき、「Kさんではありませんか」と声を掛けた。民放テレビで情報番組のコメンテーターをしているK氏に間違いなく、Yさんは「どうしてまた、ここに?」と尋ねた。「この店の中華料理が好きで、よく来るんですよ」という答えが返ってきたが、このK氏も筆者ら3人と同様、近くのホテルでのパーティーからの寄り道組だった。それも奇縁だろう。

「やはり、来る途中に言った通りですよね」と、筆者の個人的な店自慢が改めて立証できたような事態の展開を喜んだ。

プノンペンのあのギョーザは取材の思い出とともに終生忘れないだろうが、有楽町ガード近くのこの店のギョーザの味もいつまでも記憶に残りそうだ。

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