前回に続き、報道写真家、中村梧郎さん(70)のことを取り上げたい。
ベトナム戦争終結の翌年の1976年、統一ベトナム取材の企画を立てて北から南までを車で取材したカメラマンの中村さんは同国最南端のカマウ岬で、周辺のジャングルがすべて枯れている光景を偶然目にした。森が枯れている風景など、戦争写真としては迫力がないと思いつつも、この土地では生まれてくる子供が障害を持っていることを知り、驚愕する。ベトナム戦争での枯れ葉剤被害を初めて世界に伝える特大スクープとなった。
米軍が散布した枯れ葉剤の被害を目の当たりにしたため、とことん追及するハラを決めた中村さんがその後、ベトナムを訪れた回数は50回近く、取材した被害者は延べ数百人に上る。枯れ葉剤に含まれる有毒物質ダイオキシンと障害を持った赤ちゃんとの因果関係は素人の目にも明らかだが、米政府も化学メーカーも人体に有害であることを知りながら、事実を隠し続けた。
「目的達成のため、当面の利益のため、権力はうそをつくものだ。メディアが暴かない限り、事実は隠され続ける」--。ジャーナリストの中村氏が長年の取材を通じ、骨身に染みて知った真実の言葉に違いない。
自宅書斎で資料調査などに忙しい中村梧郎氏