第101回 ペットボトル飲料のタイ工場 伊藤努

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第101回 ペットボトル飲料のタイ工場

前回の本欄で若干触れたタイの投資環境視察ミッション同行の際に訪れた進出日系企業の業種はさまざまだったが、比較的身近な会社ということで言えば、飲料用ペットボトルをつくっている日本最大手容器メーカーのタイ子会社があった。バンコクに近いアユタヤ県の工業団地に大きな工場を構え、生産能力は年間1億本あるそうだ。まだ稼働から4年目ということで、100%の生産能力を使っていないが、1億本と言えば、日本国民に1人1本ずつのペットボトルが配れる数だ。

この工場では、日本でも名前のよく知られた銘柄のお茶や紅茶、乳酸飲料、ジュースといった中身も飲料メーカーから取り寄せ、それぞれの飲み物ごとに形状が違うペットボトルに充填している。つまり、容器メーカーはペットボトルを大量生産しているだけでなく、すぐに市場に出荷できる完成品となるまでの工程を担当しているのだ。「これでは飲料メーカーの仕事はあまりないのでは…」という疑問を工場責任者にぶつけると、「飲料メーカーは商品開発とマーケティングが主たる任務で、わたしたちの会社は受託充填もすることでより多くの収入が得られるんですよ」という答えが返ってきた。

工場で製造されたペットボトル飲料

ペットボトルの原料となるプラスチックを処理して、商品ごとに違う形のペットボトルや栓の部分の白いキャップを流れ作業で製造した後、中身を充填するセクションへと移る。ほとんどが自動化されており、従業員は少ない。この工場の自慢は、タイでは最先端のアセプ充填(無菌充填)の技術を実用化していることで、これにより、無菌充填以外では製造できないミルク入り飲料もペットボトルに詰めることが可能になった。

工場内の一角にある、無菌状態の環境で容器をあらかじめ無菌の状態に殺菌する設備を見学させてもらったが、ちょっとでも菌があると、ペットボトルのミルク飲料は時間の経過とともに菌を増殖させてしまう。品質管理に細心の上にも細心の注意がいる工程であることが分かった。

工場見学をしながら、ふた昔ほど前にはこれほどペットボトル飲料が一般に普及するとは誰が想像しただろう。今では、お茶はペットボトルで飲む人が多いだろうが、この製品を開発した担当者も、商品化にはさぞ苦労したのではないか。お茶は熱くして、茶碗で飲むというのが常識だったからだ。

経済の発展とともに、タイの人たちも従来の飲み物に比べ割高なペットボトル飲料を買い求めるようになった。この容器メーカーがタイに進出してきたのも、そうした新興市場の将来性を読んでのことである。グローバル化は「食」の分野でも急速に進んでいる。

 

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