第103回 日本人らしいタイの外交官 伊藤努

第103回 日本人らしいタイの外交官
外国人でありながら、日本語を流暢に操り、気質なども日本人そっくりという友人、知り合いが何人かいる。そのうちの1人がタイ人のクリッサダー・ウェーウィッタヤカランさんだ。このコラムでは、日本人らしい名前の表記で、いつも呼んでいる「クリサダさん」(栗定さん?)とさせていただく。
タイ政府の投資誘致・受け入れ機関であるタイ投資委員会(BOI)の東京事務所で参事官を務め、この春、任期3年の日本勤務を終え、本国に帰任する。40歳で、この春に奥様との間に最初の子供を授かった。
筆者はこの3年ほど、毎年1月にタイの投資環境を視察するミッションに参加し、同国に進出している日系企業の駐在幹部と意見交換したり、工場を見学したりする機会に恵まれたが、このタイ出張取材もクリサダさんのお誘いを受けてのことだ。ミッションの一員として、首都バンコクをはじめタイの地方各地を回るので、移動中のバスの中や、滞在中の食事ではテーブルを一緒に囲むことにもなり、その「人となり」を自然に知ることになった。そんな数々の会話から、タイのことをいろいろと教えていただいた。
ご本人は誰が見ても性格が円満で、頭の切れも鋭く、優秀な外交官そのものに映る。だが、口癖は「タイの田舎者で、周りにいる優秀な上司、先輩、同僚を見ると、自分なんてまだまだですよ」というもので、謙虚な言動もクリサダさんの人柄を物語る。

タイ人のクリッサダー・ウェーウィッタヤカランさん
国内のみならず、世界各地に東京事務所のような出先機関を持つBOIは、日系企業を含め欧米などの先進国から外国企業をタイに誘致する先兵役と言えるが、同国向けの投資で常に上位にランキングされる日本はすこぶる重要なパートナーだ。クリサダさんも日本の専門家としてBOIでキャリアを重ね、3年前に東京勤務となった。
簡単に経歴を紹介したが、人柄のすばらしい点は、常に相手の立場に立って行動することだ。ミッション一行に同行する際は、即座に答えられないような難しい質問があっても、携帯電話と人脈を駆使してたちどころに答えを探しだしてきたり、あるいは昼食を取るレストランも予定を急きょ変更して、タイらしい素朴な店に案内してくれたりと、外国人や客人をもてなす術(すべ)を自然体で身につけていることに感心させられる。
タイ人の性格を表す言葉として、「マイペンライ」(英語の「ノープロブレム」、日本語では「心配ない、気にしないの意」)がよく引き合いに出される。日本での仕事を終え、バンコクのBOI本部で重要なポストに就くクリサダさんのようなお役人が活躍する限り、タイの投資環境も当面は「マイペンライ」精神で楽観できるのではないか。今後ともタイと日本のいろいろな分野での架け橋役を期待したい。「クリサダさん、コップンカップ(ありがとうございました)!!」