第23回 無関心と敵愾心の共同体 伊藤努

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第23回 無関心と敵愾心の共同体

東南アジア諸国連合(ASEAN)は東南アジアの10カ国を包含する地域協力機構で、タイやインドネシア、フィリピンなど原加盟国の5カ国で結成されてから42年、当時の創設者らの悲願とされた現在の10カ国体制ができ上がってからでもすでに10年の歳月が過ぎた。6年後の2015年には、結びつきがさらに強まる国家連合的な「ASEAN共同体」を発足させる段取りで、ASEANは新たな段階を迎える。

加盟国の間では首脳会議をはじめ、外相や財務相、経済担当相などさまざまな閣僚レベルや高官級の会合が開催され、合わせれば年に200回前後ものASEAN関連の会議があり、政府関係者の交流は深まっている。それに比べると、一般国民レベルでの行き来や交流、接触は少ない。というよりも、筆者の印象では、ASEANの国々は近隣同士なのにもかかわらず、他国の人たちに対する関心が総じて低い。もっと率直に言えば、「ほとんど関心がない」と表現できるかもしれない。

これに対し、同じアジアの大国である日本や中国、あるいは先進国の欧米に対する関心や憧憬の念は高い。身近な例では、ドラえもんやポケモンはタイの子供たちにとっても人気のキャラクターで、バンコクの街角のあちこちでこの種のニッポン出身のアニメ主人公の姿を見ることができる。バンコクを走り回る車の10台に9台は日本車だ。

ヤンゴンの寺院の僧侶

筆者は東南アジア各地に出張した際、親しくなった取材協力者や支局の現地スタッフに隣国の印象や好感度などをよく聞いたが、返ってくる言葉は「あまり関心はない」という素っ気ない回答に加え、「あの国は好きになれない」などと否定的意見が多かったのに初めは驚き、戸惑いを覚えた。近隣国が同じ規模あるいは国力だった場合は、領土を取ったり取られたりの長い歴史があるのが通例なので、互いの国民が敵愾心を持つケースが多い点を割り引いても、否定的な感情が友好ムードを上回っているように思われた。

ハノイ出張時に通訳をしてくれるベトナム人の才女、Mさんは隣国カンボジアのクメール人が嫌いだと公言した。バンコク支局助手でタイ人のA記者は隣国ミャンマーの少数民族であるカレン族には現在の窮状に同情を示しながらも、同じ仏教徒である多数派のビルマ族には好感情を抱いていなかった。中国系が多数派のシンガポール人の知人は、やはり隣国のマレーシア(マレー人、中国系、インド系などの他民族国家)には親近感を持てないと打ち明ける。この種の組み合わせによる「無関心」「差別感情」「敵愾心」は枚挙にいとまがない。

加盟各国の国民同士の無関心に加え、こうした隣国の人々に対する否定的感情が渦巻く中でASEAN共同体ができる。人為的な枠組みづくり先行のこの共同体がどう成熟していくのか、見守りたい。

 

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