中央アジアを横断して東西を結ぶ古代交通路「シルクロード」が2014年6月、世界文化遺産登録を決めた。古代ローマと中国を結ぶシルクロードは、ローマからは金や宝石類が中国からはシルクなどがラクダの背に乗せられてはるばると行き交った。物資ばかりではなく仏教の経典を求め、中国の法顕や玄奘など求法僧が命がけでインドを目指しタクラマカン砂漠を渡った。玄奘はその後『西遊記』となってアジアの物語になったが、無論孫悟空などの同行はなく一人旅だったと推測されている。
古代シルクロードの旅は命がけだった。5世紀初めに取経の旅に出た法顕はタクラマカン砂漠を「上に飛ぶ鳥なく下に走る獣無し、ただ死人の白骨を持って標識となすのみ」と表現した。悪鬼のような砂嵐が襲えばキャラバンは行く手を見失い即死を意味した。累々たる屍がシルクロードの道標だったようだ。80年代の末、シルクロードの要衝と言われる楼蘭を取材したときヤルダンが続く茫漠たる砂漠を前に法顕の言葉が頭をよぎったことを憶えている。(写真)求法僧は中央アジアに点在する西域の国々の支援を得てインドへ到着することが出来た。西域の国々の王も仏教に興味を持っていて積極的に支援したようだ。一方、カザフスタンやキルギスと共同でシルクロードを世界遺産に推奨した中国の習近平政権は「シルクロード経済ベルト構想」を提唱している。
中国の狙いの一つは豊富な中央アジアの天然資源で経済発展の礎にする「資源ロード」だ。
すでにカシュガルをはじめとしてインフラや高層ビルの開発が急ピッチで進んでいるという。高速道路が走り、天候に左右されず安全にシルクロードを旅することが出来る。しかし、現代のシルクロードでは漢民族とウイグル族の衝突が絶えず、異民族同士が助け合った古代シルクロードとは様相が異なる。習近平主席が今年4月、初めて新疆ウイグル地区を視察した直後、大規模な爆弾テロが起きたのをはじめ漢民族に反発するウイグル族による爆弾テロや放火が続き死傷者が絶えない。
80年代末にウルムチを訪れたときはあまり漢民族を見なかったが、開発が進んだ現在は大勢の漢民族が入植し経済利権を巡って衝突するニュースが後を絶たない。人々の共通の脅威である厳しい自然が克服され、異民族同士が助け合う必要がなくなり、同時にふれあいもなくなったようだ。文化や交流がなく、経済と対立だけの「資源ロード」になってしまわないかが気になるところだ。
写真1:鳥獣の姿が見えないタクラマカン砂漠
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