第124回 人と共生するタイ・ロッブリのサル 直井謙二

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第124回 人と共生するタイ・ロッブリのサル

去年の夏から秋にかけて、静岡県に噛みつきサルが現れ、ニュースになった。警察官や市の職員が追い回すが、サルはなかなか捕まらなかった。秋も終わり頃になって御用となり、一件落着したが、再び檻を破って脱走した。再び、噛みつかれる被害が心配されたが、間もなく取り押さえられた。

噛みつきサルは動物園の人気をさらい、来園者が増えたが、動物園の狭い檻と来園者に見つめられるストレスから脱毛症になり、背中の毛がなくなってしまった。動物園では治療のためサルの見学を中止したことから、期待された今年のゴールデンウイークも思うように来園者が増えなかったという。

タイ中部の軍の街、ロッブリにはおよそ1000匹のサルが住みつき、人間と共生している。(写真) サルは街の中を自由に歩き回り、ロッブリのシンボルであるプラーンサム・ヨット寺院などで観光客に餌をねだる。

寺院は13世紀に建てられたクメール様式の寺院で、境内には仏像が点在している。人に追い掛けられることもなく、仲間も大勢いるので、サルはのんびりしている。

行儀の悪いサルは仏像の頭に上って昼寝をしたりしている。観光客からもらった瓶ジュースを足と手を使って上手に飲んだり、車のサイドミラーに写る自分の姿を不思議そうに眺めながら遊んでいる。

観光客のためのベンチに足を広げ、寝そべっている姿を見ると、サルの街に人間が住まわせてもらっているのではないかと錯覚を起こす。

ロッブリにサルが住みついたのは70年ほど前、軍人が餌を与え、数が増え始めた。2000年前にボール・ミキが書いたと言われるインドの叙事詩、ラーマーヤナ物語に登場するサル、ハヌマーンは超能力を発揮する超能力サルであることは、本コラムの第106回「孫悟空はどこから来たか」で書いた。

超能力でどんな困難にも立ち向かい、主人に忠誠を誓うハヌマーンは戦いの神とされている。インド文化の影響が色濃いタイでもサルは軍神として崇められ、基地の中にはハヌマーン像があり、2人の軍人が常にハヌマーン像を警護している。

サルは観光客を呼び寄せることから、ロッブリでは年に1度感謝祭が開かれ、サルに特別なごちそうがふるまわれる。とはいっても、サルは店の商品を失敬するし、部屋の中に入っていたずらもする。

路上で焼きバナナを売っているおばさんは毎日のようにバナナを盗まれるが、「餌が足りないのでしょう」と微笑んでいる。タイ人のおおらかさがサルと人間の共生を可能にしている。

写真1:子供とサルの世話

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