恒大集団のデフォルト危機契機に中国、不動産税を本格導入へ-今秋、住宅需要は下火に(下) 日暮高則

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恒大集団のデフォルト危機契機に中国、不動産税を本格導入へ-今秋、住宅需要は下火に(下)



<恒大など大手企業のデフォルト危機>

恒大集団は、河南省出身のオーナー許家印氏が1990年代、政府の住宅政策の転換からいち早く不動産業に目を付け、1996年に設立した企業である。2000年代に入って全国で住宅建設を進め、2020年末時点で、国内211の都市で711カ所の不動産プロジェクトを展開する。これらの投入資金は社債、自社系列企業の理財商品「恒大財富」で賄ってきた。住宅建設を進めるたびに、それを担保に新たな資金を借り入れ、次のプロジェクトに投入、事業を拡大してきた。負債残高は金融情報サービス会社「リフィニティブ」によると、今年9月初め時点で266億米ドルだという。ただ、他の情報では、負債額は3050億ドルという膨大な額に達しているとの説もある。負債の大きさから、昨年秋時点ですでに経営悪化がささやかれていた。それが、今年秋、社債、「理財商品」の償還期限を迎えて危機が現実のものとなった。

 恒大集団は、9月23日に期限を迎えた人民元建ての債券については2億3200万元の利払いを実施し、いわゆる「手形のジャンプ」を図った。また、10月22日が期限となるドル建て債については、8350万米ドルの利払いを実行した。さらに10月23日、29日が最終期限となっていたドル建て債についても1億3100万ドルの利払いも行った。これらの資金は、デフォルトによる不動産業界全体への打撃、さらには今後の外債調達への影響を恐れて、中央政府が国有銀行に指示し、手当てしたと言われる。ただ、近い将来償還期限を迎える債券はまだ数多い。22年には77億ドル、23年には85億ドルの返済が迫られており、中央政府がどういう対応を取るかが注目される。

 恒大危機が引き金になって他の不動産企業の債務にも関心が集まった。陽光城地産、中国奥園集団、佳兆業集団(カイサグループ)、世茂集団なども債務償還時期が迫り、厳しい状態に置かれている。佳兆業を例に取れば、傘下企業の「錦恒財富」が発行した理財商品128億元分が11月4日までに償還できず、引き延ばし策に出た。だが、市場は機敏に反応し、香港取引所に上場されている佳兆業健康、佳兆業美好、佳兆業資本という傘下企業3社が取引停止に追い込まれた。佳兆業は全国95都市で建設プロジェクトを展開しており、その資産価値は6140億元と言われる。償還が迫られている債券処理のため、こうした資産は売却せざるを得ない。現在、華潤置地などの国有中央企業に転売するための話し合いが進められているという。佳兆業は恒大に次いで海外債務も多い。デベロッパーの中では、同社が来年償還期限を迎える外債を一番多く持っていると言われる。

 中央政府は、不動産業の衰退は経済全体に与える影響が大きいとして、当面、金融機関の支援を支持する方向に傾いたもようだ。ロイター通信によれば、中国政府直属のシンクタンク「国務院発展研究センター」は11月8日、多くの不動産企業と銀行を面談させる会議を深圳で開催したという。銀行側は中信、建設、平安、中鉄信託などの銀行が集まり、不動産企業が資金繰りの窮状を訴え、支援を仰いだ。佳兆業幹部は「現金の流動性が極端に悪くなっているので、国有企業に建設プロジェクトを買ってもらうか、戦略投資者になってもらいたい。とにかく民間企業に資金を流してほしい」と訴えた。世界最大のデベロッパーという万科集団の幹部は「われわれの財務状況は依然安定している。だが、同時に中央政府の不動産政策も穏当であってほしい」と語り、金融機関の恣意的な窓口規制などさせないよう求めた。

<不動産税の本格導入の成否>

2000年代に入り、富裕層が蓄財のため複数物件を保有し、過熱気味になった不動産市場の抑制策として検討されたのが不動産税(固定資産税)だ。2011年には上海と重慶で試験的に導入された。しかし、2都市の税制度の内容は“遠慮がち”であってせいか、その後も住宅価格の高値状態は続いた。習近平国家主席は2017年の全人代で「住宅は住むもので、投機の対象にしてはならない」と警告。今年3月の全人代で公表された第14次五カ年計画では「今後5年以内に不動産税を立法化する」方針が盛り込まれた。さらに習主席は、今年8月の党中央財経委員会で、「共同富裕の思想をしっかりと根付かせるためには、高収入者に対する規範と調整を図る必要がある。積極的、穏当な不動産税導入を立法化し、試行工作を十分に行うべきだ」と早期の導入を訴えた。これを受け、全人代常務委員会は10月23日、国務院が一定地区で不動産税の本格試行開始を求める決議をした。

 現在試行している上海、重慶を見ると、徴税対象は土地でなく、住宅に限っている。上海では住居用以外に所有される二軒目以上の住宅、つまり蓄財などのために持つ物件が対象だ。税額は家賃を基準にして算定しているもようだ。重慶では、集合住宅でなく一戸建ての高級住宅が対象。その結果、両都市と徴税対象はかなり制限されたものになっている。上海市税務局が発表した統計によれば、今年上半期、同市の総税収は1兆元を超えたが、この中で不動産税収入は約105億元。税収全体から見れば、1%程度の“貢献”に過ぎない。

 全人代サイドが目論む不動産税の内容はいまだ判然としないが、米系華人メディアの報道などによれば、徴収対象になるのは居住用、非居住用すべての家屋とその家屋を持つ土地。つまり、ほぼすべての家屋や土地に税金を掛ける。ただし、都市のみで農村は除外される。徴収期間は5年間。当面、全国から10都市を選び、試験的に実施するという。今年5月に開かれた国務院の「第一回不動産税座談会」に上海、重慶、深圳、杭州、蘇州、済南6都市の住宅関係責任者が招集されたことからすると、試行実施都市は、継続の上海、重慶のほか、新たに深圳、杭州、蘇州、済南の4都市が加わることは間違いない。残りの4都市も含めて10都市すべてが年内に公表されるというが、住宅価格が高い大都市になる可能性が高い。税率は米国の実践例を参考にすれば、不動産価格の1%程度になるのではないかと言われている。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルによれば、習主席が「共同富裕」実現の有効手段として不動産税の普遍的な導入に意欲を持ち、それを打ち出した時、党内からは「社会の安定上問題だ」として強い反対の声が上がった。一説には、代表して反対意見を開陳したのは政治局常務委員の韓正副総理だったという。確かに、固定資産税はGDPで大きな比重を占める業種を衰退させ、経済全体にマイナスの影響を与えることは避けられない。このため、習主席はもともと30都市での試行を主張していたが、反対の声を受け入れ10都市の試行に同意せざるを得なくなったという。党内からはまた、税率の程度、優遇、免税の対象などについてもさまざまな要求が出て、事実上骨抜きを図るような方向の意見が多かったと言われる。党幹部の中にも複数の物件を所有している者がいるからだ。

 2都市で試行中の不動産税はあくまで住宅、家屋が対象だが、今後導入を計画しているのは土地までも徴収対象に含めるという。中国では土地は国のものであり、住民はあくまで使用権を享受しているに過ぎない。という観点に立つと、土地まで対象にするのはおかしいのではないかとの意見も出ている。さらに、経済全体を考えた場合、多数の住宅を持つ富裕層が不動産税の納付に耐え切れず、物件を投げ売りすると、不動産市況が悪化してしまう。「不動産本位制」ではないが、不動産が一定の価値を持ち、それをベースに新たな価値創造が生まれることを考えれば、富裕層、すなわちさまざまな事業の成功者たちのマインドを大きく損なう恐れがある。不動産税の導入は「共同富裕」への足掛かりとなる半面、経済の発展を阻害する諸刃の剣でもある。

 

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