第335回 安保法制に反対する日本の若者 伊藤努

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第335回 安保法制に反対する日本の若者

「今の若者は……」などと上から目線で世代論を語るつもりは毛頭ないが、近年、「無気力」「無関心」が代名詞のようになっていた日本の多くの若者が政治的、社会的問題に目覚め、声を上げるようになってきたのは良いことだ。今年に入ってからの国会での安保法制をめぐる政府・与党の拙速な取り組みや違憲の疑いが濃い法案そのものの強行採決に異を唱え、反対の声を直接訴えるために国会周辺をはじめ各地で抗議行動を繰り広げるなど、若者たちは安保法制反対運動のけん引役にもなった。

1、2年ほど前、台湾では「ヒマワリ運動」、香港では「雨傘革命」と呼ばれた学生や若者の異議申し立ての政治行動が繰り広げられたことを思い出す。台湾、香港の若者たちはそれぞれ、当局の中国接近政策、香港の政治民主化への中国指導部の介入に危機感を深め、決起したのだが、いずれも一定の成果を達成したとしていったん矛を収めた。台湾の場合は議会への乱入・一時占拠、香港では連日の大規模な街頭行動といった具合にデモの方法は違っていたとはいえ、両者の異議申し立ての矛先は大陸中国の指導部の横暴さにあったため、危機感は共有され、政治行動は互いに影響し合っていたように思われる。

台湾、香港での若者の抗議行動がいったん終息した段階で、著名ジャーナリストが昨年後半、伝統ある「霞山会」の定例午餐会でこの問題を取り上げ、東アジアの若者たちが政治的、社会的問題に目を向け、反対の声を上げ、抗議行動に踏み切ったことの意味合いを論じていたのを思い出す。筆者の記憶が確かであれば、講師は、日本では数年前の東日本大震災で多くの若者がボランティアとして被災地に駆けつけ、支援活動に熱心に取り組んでいたことを例に挙げ、政治的問題にも関心を向けるよう期待を寄せていた。

この講演の時点では、安保法制をめぐる議論はまだ本格的に始まっていなかったので、日本の若者が台湾や香港の学生たちのようは抗議行動に打って出ることになるとは予想もつかなかった。しかし、国会周辺での抗議行動に最大で12万人もの老若男女の市民が駆けつけ、「おとなしい」と言われていた女性を含む若者がその中心にいたのは確かだ。

安保法制は、憲法9条をないがしろにするばかりでなく、立憲主義にも背く悪法だといった声から、現行憲法の3つの柱の一つである平和主義に反する、米国の戦争に巻き込まれるリスクが高まるなどと、抗議行動参加者の見方、思いはまざまだが、共通するのはここで反対の声を上げなければ、立憲主義と民主主義が踏みにじられ、権力者による主権者である国民不在の強権政治が横行することに対する危機感だろう。

9月中旬、安保関連法案が参議院本会議で成立した前日の国会周辺での抗議行動の渦の中に筆者の学生時代の友人であるY君がいた。Y君は関東にある私立大学でドイツ文学を教えている学者である。次回は国会周辺でのデモに時間があれば駆けつけた同君の思いを紹介したい。

 

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