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第337回 安保法制反対デモに参加した大学教師の友人 伊藤努

第337回 安保法制反対デモに参加した大学教師の友人 伊藤努

第337回 安保法制反対デモに参加した大学教師の友人

前回の本稿では安倍政権が推進した安全保障法制に反対する国会周辺での抗議行動に参加する友人の大学のドイツ語教師、Y君を紹介したが、たまたま集団的自衛権を行使できるようにする安保関連法案が参議院本会議で成立する前日の夕方、昔の母校キャンパスに近い東京・下町の居酒屋でY君を含む4人の級友と旧交を温めた。大阪に単身赴任中の商社マン、T君の東京出張に合わせて会おうということで、数日前の集まりの連絡だったため、いつもの十数人の同じ学科の常連組が4人となってしまったが、参加者が少なかった分、濃密な議論ができた。

Y君は久しぶりの再会となった早々、安保法制の国会審議や安倍首相ら閣僚の答弁について不満、反発を口にした後、矛先をメディアの報道ぶりについてもあれこれと批判してきた。筆者がメディアに属する人間ということで、意見を求める意味合いもあったようだが、安保関連法案の国会審議を時々、放送しないNHKに対して、抗議の電話をかけたり、民放の報道番組でピント外れのコメントをする専門家の起用に疑問を呈するため、テレビ局にも電話するなどしたということを本人の口から聞き、政治意識が高く、行動力もあるのだなと妙に感心してしまった。ちなみに同君の専門はドイツの民話が基になっている「グリム童話」の研究である。

それはともかく、国会周辺で行われた安保法制の強行採決に抗議するデモや集会に、都合がつくときは顔を出したのは、明らかに憲法違反の「悪法」が成立しようというときに傍観することはできないからだと話していた。安保関連法案に反対の声を上げる大勢の市民の思いを集会に参加することで体感したいとも語っていた。やはり、現場にいれば、新聞やテレビの報道で知るのとは違う実体験の強さを得られるはずだ。

Y君が特に怒りをあらわにしたのは、民放の別の報道番組で、記者出身の著名な政治評論家が同席していた学生の抗議グループのリーダーの意見に対して、「青臭い素人の考え」といったニュアンスを込めてあしらうような、たしなめるようなコメントをしたことだ。筆者自身はその番組を見ていないため、友人のY君の説明をそのまま聞き取るだけだが、政治評論家の日頃の言動をよく知るだけに、「さもありなん」と内心思ったのは確かである。

政治家、とりわけ権力を持つ政権与党の政治家や中央政界を長く取材してきた政治記者、そのOBたちの一部に、市民の抗議行動やデモ、集会を軽視し、時には政治的レッテルを張って参加者をおとしめるような言動が散見される。この夏に飛び出した安倍チルドレンとされた自民党の若手政治家のツイッターでの稚拙なデモ批判発言はその典型だ。

東京電力の福島第一原発の過酷事故を受けて一時は全面ストップした日本各地の原発の稼働再開に反対する運動や、安保関連法の廃案を求める若者や市民の抗議行動は今後とも続くだろう。国会を取り囲む大規模なデモは、日米安保条約の改定に反対した1960年(昭和35年)以来のことだが、それぞれの時の首相が岸信介、その孫の安倍晋三の両氏だったことは歴史の皮肉だろうか。日本の民主主義を考える上で今後の教訓にしたいものだ。

 

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