第47回 反日暴動の教訓生かす日系企業 伊藤努

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第47回 反日暴動の教訓生かす日系企業

最近はほとんど耳にすることはなくなったが、今から10年ほど前までの一時期、ベトナムなど東南アジア各国に進出した韓国系企業の幹部が現地の労働者に暴力を振るう事件が頻発し、地元住民の顰蹙を買っていた。恐らく、本国ではそれほどの地位ではなかったにもかかわらず、進出先の途上国で企業幹部に出世し、傲慢になったわけではなかろうが、部下の従業員に言葉ではうまく説明や説得ができないため、つい手が出てしまったのかもしれない。立場こそ違え、同じ人間として許されることではない。これに対して、進出日系企業の幹部たちにはこの種の悪評はなく、日系企業は好意的に見られていた。

この欄で韓国人の悪口を言うのが本意ではない。実は、地元の労働者や従業員に対する態度、人材育成で評判が良かった日系企業も、それに先立つ20年ほど前までは韓国系企業と同じようなことをして、東南アジア各国の反発を招いた「前科」があった。いわゆるタイなどでの反日暴動だ。田中角栄首相の時代である。市民による街頭での抗議行動のほか、日本製品の不買運動も起こり、当時、まだ学生だった筆者は、メディアの報道を通じて現地が騒然としていたことを思い出す。

日本製品が目立つハノイ市街

もちろん、反日暴動の発生は日系企業の幹部や駐在員の行儀の悪さだけが原因ではないが、当時のアジアでは突出した経済力を持っていた日本がカネに物を言わせるような態度を取ったため、反発を買ったのは間違いない。加えて、日本は第2次大戦の際に、タイなど一部の国を除くアジア各国に進駐したり、統治したりした過去もあり、その反省の記憶も消えない時期に「今度は経済的勝者として振る舞っている」という批判が混じる。

東南アジアでの反日暴動は日本の官民の関係者にとって大きな衝撃となったようで、海外で事業を展開する日系企業はその後、飽くなき利益追求路線から現地の経済発展にも寄与する企業の社会的責任を自覚した行動を取るようになった。反日暴動の大きな教訓である。

タイに進出している日系企業は現在、バンコク日本人商工会議所に加盟する企業だけでも1300社を超える。ここ数年、機会があってそのうちの何社かの工場を訪問し、製造業の現場を視察しているが、取材した日本人の社長さんはいずれも、「中堅のマネジャークラス、若い労働者たちは家族同然」と口をそろえていたことが強く印象に残る。タイに骨を埋める覚悟で現地社会に溶け込もうとしている姿にも好感を持った。お会いした方々は企業戦士ではなく、「日本のサムライ」という言葉がぴったりとくる。

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