第17回 タイ北部の青年海外協力隊 伊藤努

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第17回 タイ北部の青年海外協力隊

かなり以前に欧州に駐在したが、その後、バンコクを拠点に東南アジア各国を取材するようになって欧州在勤時代との違いを実感したのは、日本のさまざまな援助の現場があるということだった。東南アジアの国々は金融・貿易立国のシンガポールを除けば、いずれも途上国なので、この地域では経済大国であるわが国が援助の手を差し伸べる分野、案件はかなりの数に上る。その実働部隊となっているのが現在の国際協力機構(JICA)であり、青年海外協力隊などだ。最近は、パイオニア精神の旺盛な若者だけでなく、会社を退職したシニアボランティアの人たちの海外での活躍も目覚しい。

バンコク特派員時代、タイ国内にある日本の援助現場をできるだけ取材するように心掛けた。日本の技術指導による環境にやさしい廃棄物処理場の建設や、少ない水量を使って発電効率を高める揚水式ダム、タイの人々の新たなタンパク源になる淡水魚の養殖指導などの現場を見て回った。アジアで一足先に近代化に成功した日本は、その後を追おうとする途上国に役立つさまざまな産業・農業技術を持っているのだなと改めて感心した。近年は、省エネなど環境技術に対する評価が高い。

援助現場の視察で忘れられないのは、ミャンマーとの国境に近いタイ北部の少数民族居住地域を中心に活動する青年海外協力隊メンバーの仕事ぶりだ。タイ北部にはモン族、カレン族、リス族、アカ族などの少数民族が民族単位で生活圏を持ち、居住しているが、農業に適さない山岳地帯とあって、平野部に住むタイ族との経済格差は大きなものがある。道路が未整備で自動車も入れないような山岳地域に点在する集落に住む少数民族にとって、産業はもちろんのこと、教育、医療、保健衛生といった分野はまだ「前近代」の段階にとどまり、これを少しでも引き上げるのが協力隊の主な仕事だった。

カレン族の家族

タイ政府も僻地の少数民族に対して、同化政策を含め、手厚い施策を講じているが、取材をしてみて、足りない部分を補うのが男女混成部隊である日本の協力隊の役割と理解した。長野県出身の看護師の女性は、リス族の集落に住み、住民にトイレで用を足すことの大切さを教え、簡便なトイレづくりと保健衛生の指導に余念がなかった。神奈川県出身の測量技師の資格がある男性は、集落周辺の土地測量の方法を村の男たちに教え、土地の有効活用を通じた作物増産を指導していた。

タイ北部では、ほぼ10人規模の青年海外協力隊の活動を統括する拠点、事務所は近くにあるとはいえ、普段は、働いている電気もない集落で寝起きする。地味でいて、決して楽な仕事ではないが、筆者が会った隊員は男女を問わず、現地住民の生活向上につながる支援活動に喜びを見いだしていた。若いときに、海外で支援活動に当たる経験は大きな自信となり、財産となろう。青年海外協力隊のメンバーがこの財産を糧に国内外でさらに飛躍できるよう、日本の関係者もその後の活躍の場の提供などに知恵を絞ってほしい。

 

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