第15回 アジアの地理的範囲は? 伊藤努

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第15回 アジアの地理的範囲は?

一口にアジアと言っても、頭に浮かべる地理的範囲や概念は人によってさまざまだろう。一般的な日本人なら、アジアは一応、インド、あるいはその西に位置するパキスタンくらいまでの地域をイメージするのではないか。そのパキスタンから西方は、アフガニスタンを経てイラン、イラクなど中近東の世界に入っていく。

イスラムの国は、宗教をはじめ、文化や伝統、生活習慣も日本とは大きく違うので、「別の世界」と思うのはある意味でやむを得まい。一方、その北方に位置する旧ソ連構成共和国の中央アジア諸国も、やはり、旧共産主義国でイスラムの国が多いことと相まって、日本人にとっては距離的に遠いと感じる。

しかし、サッカーに関心のある人なら、これまで述べてきた地理的概念とは違い、アジアは中近東の国々も含まれていることに全く疑問を差し挟まないだろう。4年ごとにあるサッカーのワールドカップ(W杯)予選で日本代表チームが当たる国はライバルの韓国や北朝鮮、中国など近隣のアジア諸国のほかに、イランやサウジアラビア、バーレーンといった中東の国々の強豪があり、いわゆる「西アジア」といわれる国々は、純然たるアジアということになる。

では、アジアの西の端はどこか。この問いには、多くの人が答えられるはずだ。トルコの欧州側とアジア側を分けるボスポラス海峡が有名で、海峡の東岸がアジアの西端といわれているからだ。トルコには取材の出張で何度も訪れたことがある。黒海からエーゲ海を経て地中海とをつなぐボスポラス海峡を一望できるトプカップ宮殿に立つと、「眼下の海峡が欧州とアジアを隔てる海の回廊なのか」とちょっとした感慨を覚える。

トルコの国土が地理的に欧州部とアジア部に分かれていることにも影響されているためか、同国の欧州連合(EU)加盟交渉が難航している。トルコは国民の99%がイスラム教徒のお国柄だが、政治に宗教を持ち込まないという政教分離の世俗主義が徹底している。しかし、EUの一部諸国はかつてのオスマン・トルコによるキリスト教世界の支配の歴史もあって、イスラム国家・トルコの加盟には高いハードルを課している。

近年、トルコ政府はEU加盟を悲願とし、「脱亜入欧」を目指している。世界が年々、グローバル化していく中で、「アジアだ」「欧州だ」といった議論はあまり意味をなさないかもしれない。筆者がイスタンブールで会い、仕事を数日間共にしたT君は、イスラム教に全く関心を持っておらず、欧米の最新流行に敏感な、日本や欧州のどこにでもいるような若者だった。T君の話では、自分と同じような若者はトルコでは多いという。人間を基準にして見ると、アジアという地理的領域はゆっくりとした時間の流れで変化し、揺れ動いていると感じる。

 

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