海のシルクロードの取材でインドネシアのバンダ海峡を漁船で旅をしていた時のことだ。船酔いに悩まされた2週間の船旅も終わりに近づき、それなりの取材成果も上がっていたのでのんびりと甲板に横たわっていた時のことだ。
子供の叫び声が突然響いたので起き上がると4人の少年が小さなボートに乗って手を振っている。(写真)大人の姿が見えず子供達だけで大丈夫かと心配になった。子供たちの表情は明るく不安げな様子はない。同乗していたインドネシア人の船員によればこの付近に住む海洋民族の子供達だという。
手招きでこちらに何か伝えようとしている。意味が分からないので船員に聞くとコインを海に投げれば拾ってくると合図しているという。あどけない表情にひかれてインドネシア硬貨を海に投げた。あっという間に4人は海に飛び込みしばらくすると海面に浮かび上がってきた。少年の1人が筆者の投げたコインを見せ、もっと投げろと合図した。他の3人はもっと遠くに投げるよう手招きしている。
フリスビーのように空中に浮かせて投げると、コインはさらに遠くに着水した。すると4人はほぼ同時に海中に潜り、今度は別の少年がコインを拾い得意そうに見せている。海中に落ちたコインはかなりの深さまで沈むはずだが何度投げても拾ってくる。
船員は少年たちにとっては地面に落ちたコインを拾うようなものだと笑った。もっと投げろと少年たちは要求をしてくるが手持ちが尽きてしまった。船員は金をドブに捨てているようなものだと苦笑いをしている。
もうコインのご利益はないと悟った少年たちは漁船に近づき乗り込んできた。船員が叱ると海に飛び込み逃げ、すきを見て再び漁船に乗ってくる。漁船と海の間で船員と子供の鬼ごっこが始まった。少年たちは自由自在だ。
遊びに飽きたのか4人は漁船を離れボートに戻った。しばらく海水を掻き出さなかったボートは半分沈んでいる。4人は海中で立ち泳ぎをすると、ボートを空中に持ち上げ、中の海水をこぼし再びボートに乗り込んだ。
少年たちは手を振って別れを告げると船縁をたたきリズムを取りながら歌を唄いボートを漕ぎだし、いつの間にか姿を消した。
マラッカ海峡付近に現れる海洋民族ブギス族の海賊は略奪に失敗し、海に放り出されると何日も泳いでアジトに戻るという話を思い出した。生まれた時から海に親しみ海と共に暮らす海洋民族は陸に住む人間には想像もつかないような水泳力を持っている。
《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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