第378回 東南アジア建築第一人者との奇跡出会い(上)  直井謙二

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第378回 東南アジア建築第一人者との奇跡出会い(上)

去年の11月ベトナム中部の町、ホイアンを訪ねた。1992年にホイアンを訪ねて以来四半世紀ぶりの訪問だ。この間にホイアンは世界遺産に登録された。街はすっかり整備され、前回は見られなかった大勢の観光客でごった返していた。街ばかりでなく以前は粗末な民家のような博物館が立派なビルに建て替えられていた。

17世紀のホイアンは日本人町が栄え、京都の豪商茶屋家など商人の活躍が目立った。山田長政に代表される戦国武将が戦闘で活躍したタイのアユタヤの日本人町も有名だが、アユタヤでは日本人も政争に巻き込まれ、日本人町は焼き討ちにされ、遺品はほとんど残っていない。しかし、商人が活躍したホイアンはアユタヤの日本人町とは対照的に日本橋の名を冠した橋や当時の貨幣それに日本人の墓が残っている。橋は中国様式で江戸時代の日本橋とは似ても似つかないものだ。(写真)江戸幕府による鎖国で日本人が絶え、後に華僑が架け替えたものと推測されている。

ホイアンを散策中、奇跡のような出会いを思い出した。1990年3月のことだ。ベトナムのハノイ発タイのバンコク行きのベトナム機は順調に飛行を続けていた。その当時、インド・ヒンズーの叙事詩ラーマヤナ物語に関するドキュメンタリー番組の制作にかかわっていて東南アジアの寺院を巡り、ラーマヤナ物語をテーマにした壁面彫刻を探していた。この時もベトナムのダナンでのヒンズー関係の博物館を見た後、タイのワットポー寺院の壁面彫刻を調べるためにバンコクに向かう途中だった。当時としては珍しく、初老の日本人男性が隣席に座っていた。お互いに身分をあかさないまま話が弾んだ。男性が旅をしている理由を聞いてきたので、自らの身分をあかすとともに制作中のドキュメンタリーの内容を説明した。ラーマヤナ物語の内容を視聴者に分かりやすく説明するための壁面彫刻の撮影中であることや、アンコール遺跡なども含めさまざまな東南アジアの遺跡や寺院を訪ねたが、ストーリーを表現するための連続した壁面彫刻が見つからないことも話した。

専門的な内容にもかかわらず、男性は穏やかに頷きながら耳を傾けてくれた。男性は「最近のテレビはいい作品も作るね」と笑みを浮かべながら応えた。そして「ラーマヤナ物語の概要を表す連続した壁面彫刻を撮影したいなら少し遠いがインドネシアのジョグジャカルタにある9世紀のヒンズー寺院、プラバナンに行ってみたらどうか」と語った。
(この項続く)

写真1:ホイアンの日本人橋

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