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第376回 中国マネーの影響も懸念、堕落したタイの寺  直井謙二

第376回 中国マネーの影響も懸念、堕落したタイの寺  直井謙二

第376回 中国マネーの影響も懸念、堕落したタイの寺

タイ中部のカンチャナブリにある寺でトラを飼育していることはすでに書いた。(第58回 トラを飼うタイの寺)漢方薬の原料となる成長したトラが密猟され、親を失った子供のトラを寺が育てているといういわば美談だ。寺院の建立は1990年で、数年後に飼育が始まった。筆者が取材したのは2001年で飼育開始から数年経っていたが、トラのほかに保護された多数の動物と僧侶だけの静かな寺だった。トラは7頭で毎日の托鉢で寄進される食料は20人ほどの僧侶だけでは消費できないため、トラの飼育には問題ないと住職は話していた。

タイの寺では誰でも無料で僧侶と寝食を共にできる。筆者も取材の後、僧侶と食事を共にした。(写真)その後、寺を訪れる機会はなかったが、寺のウェブサイトで生きたトラと並んで写真が撮れることを売り物にした観光で大勢の客が押し寄せていることは知っていた。
金銭に触れないはずの上座部仏教の寺が入場料まで取るようになったことに多少の違和感を持っていたが、トラも増え住民からの寄進だけでは養いきれずやむを得ないのかと思っていた。

ところが6月、生まれたばかりのトラ40頭の死体がこの寺の冷蔵庫から見つかり摘発されたとの朝日新聞の記事を読み愕然とした。わずか7頭だったトラが15年間で140頭とほぼ20倍に増え、野生動物保護の国際NGOなどが虐待や違法取引の疑惑を指摘、寺にトラの引き渡しを求めていたという。
寺は引き渡しを拒否していたが裁判所が移動許可をだし5月末に近隣の動物保護区への移動が始まったと記事は伝えていた。

さらに別の報道では僧侶が高価で売れるトラの皮をもって逃走を図ったという。密猟によって親を失う子供のトラは後を絶たないが、15年で20倍にトラが増えたのは寺が繁殖させた可能性もある。死産やうまく成長しなかった子供のトラを埋葬せず商品にしようとしたのではないだろうか。タイの地方の僧侶だけでアングラビジネスを展開できるとは到底考えられない。漢方薬として高値で売れるトラを巡り、密猟者や中国マフィアが絡んでいた疑念が浮かび上がる。

2013年4月、フィリピンのスルー諸島で10トンものセンザンコウの冷凍肉を積んだ中国の密漁船が見つかり中国人船員が逮捕されたこともすでに書いたが、(第214回 中国マネーが招く絶滅危惧種の危機)センザンコウもトラも漢方薬の材料として高値で取引されているのだ。タイの寺のケースも中国の陰がちらついている。

写真1:寺のウェブサイトで生きたトラと並んで写真が撮れることを売り物にした観光で大勢の客が押し寄せている

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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