安倍内閣の政策の目玉の一つは女性の社会進出と労働力の活用だ。男性優先の労働市場では経済の活性化に限界があることはたしかだが、なかなか企業に潜む岩盤を突き破るのは難しそうだ。
一方、東南アジアでは様々な形で女性が社会進出している。ILO国際労働機関の女性管理職比率についての報告によるとフィリピンは世界ランキング4位の47%で日本の11%をはるかに引き離しおよそ半分が女性管理職、まさに男女平等だといえる。改めてマニラ駐在時を思い出すと確かに女性管理職は多かった。
タイは女性管理職20%、それでも日本の倍だ。東南アジアでは経済格差が大きく、一般のサラリーマンでもお手伝いさんを雇えるなど女性の職場進出がしやすい環境が整っている。加えて日本ほど性別を意識しない土壌がある。今年の初めタイの憲法起草委員会が第3の性つまり性同一性障害の権利を認めることに同意した。実現すれば、タイの憲法で同性愛の権利が初めて明記されることになるという。タイでは性による差別はほとんどないし家という概念も希薄だ。人を呼ぶとき名で呼び、姓を使うことはほとんどない。姓を聞くとなぜそんなことを聞くのかと怪訝な顔をする人さえいる。性同一障害への対応も手術を受け本格的の性を変える人からその日の気分で服装や髪形それに化粧を変える程度の人まで様々だ。職業にも表れていてタイの美容院で働く美容師も女装した男性が多い。(写真)
東南アジアの多くの国で家庭のイニシアチブを取るのは女性だ。タイでは「メーバーン」と呼ばれ、家庭経済から子供の将来まで母親が権限を持っている家庭が多い。美容院で働く男性が多いのは主婦の権限と信頼へのあこがれが影響しているのかもしれない。但し、タイの人口の10%ほどを占める華僑の家庭では立場が逆転する。儒教の影響を受けた中国から渡ってきた華僑は男性社会を維持しているようだ。
ベトナムを除く多くの東南アジアの国々は儒教の影響を受けていない。妻の実家に婿入りするケースも多く、かつては通い夫のような制度もあったと言われる。家庭や社会をしっかり守るのは女性という伝統が根付いている。
日本でも最近は性の垣根が低くなり家の概念が薄れてきたが、夫婦別姓や同性愛への理解は進んでいない。一方、儒教が伝わる前の日本では女性が家を守り通い夫のような制度もあったようだ。
写真1:タイの美容院で働く美容師も女装した男性が多い。
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