第316回 果物の王様ドリアンの収穫 直井謙二

第316回 果物の王様ドリアンの収穫
東南アジアの旅の楽しみの一つは果物だ。物流の発達と貿易の自由化で最近は日本にいながらにして珍しい果物を賞味できるが、やはり生産地で食べる果物は一味違う。大方の日本人に好まれるのがマンゴスチンやパパイヤそれにマンゴーといったところだ。
マンゴスチンはどこでも品質は似ているが、素人目にはパパイヤとマンゴーはリンゴとみかんの関係に似ているような気がする。リンゴが信州や青森のように内陸でよく育ち、みかんが静岡や愛媛などの海に近い地域が適している。パパイヤはリンゴのようにタイの内陸部が大きくて味がよく、マンゴーはベトナムやフィリピンなど海に囲まれている地域の物がよいような気がする。
ところでドリアンについては好みが分かれる。ドリアンが好きな人はドリアンこそ果物の王様だと褒めちぎる。ただ高カロリーなことから酒を飲みながら食べることは避けたほうがよいらしい。さらに食べ過ぎると熱が出るとも言われている。ドリアンが好きな人は氷嚢で頭を冷やしながらでも食べるとまことしやかな話を聞いたことがある。
一方で強烈な臭いからドリアンは地獄の果物だと断言する人も少なくないドリアンの持ち込みを禁止しているホテルや航空会社も多い。(写真)臭いが充満し、嫌いな人はいてもたってもいられなくなるからだ。

タイ人の友人が何度もドリアンを勧めてくれたが、筆者も好きになれなかったが、運悪く支局の運転手は大のドリアン好きだった。取材で産地近くを訪れると必ず買い、支局車のトランクに入れて持ち帰る。そのためトランクに入れたテレビカメラなど取材機材に臭いがしみこみ、カメラマンから苦情が出る。
タイ中部の農家でドリアンの収穫を取材したことがある。ドリアンの木はかなり高く、大きくて重く鋭い棘のあるドリアンの実を一つ一つ収穫するのは重労働で時間がかかる。そこで二人一組になって一人が木に登り、一人は地上で大きな「前掛け」を腰に巻き待機する。木に登った農民はドリアンの実を取ると地上に向かって投げる。落ちてきた鋭い棘のあるドリアンを直接手で受け取れば怪我をしてしまう。そこで「前掛け」の先をつまんで広げ、「前掛け」でキャッチするのだ。つまんでいた前掛けの先を静かに離し、実を地上にそっと下ろすと次のドリアンを待ち受ける。二人の呼吸のあった作業が続き、たちまちドリアンの山が出来上がる。この時の取材だけは運転手がドリアンを買うことを抑えることができなかった。
写真1:ドリアン持ち込み禁止のタイのホテル
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