「中国の習近平政権には新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を招いた責任がある。事態収拾に向けてあらゆる手段を講じなければならない。」
我が国の有力紙の某月某日付け社説である。言いたくても言い出すのがためらわれるとか、大きな声で言うのははばかられるということがよくあるものだが、中国に正面からストレートに迫るこの社説に快哉を叫んだ読者も少なくないのではなかろうか。
筆者は前回の論評で武漢新型肺炎という表現を使用したが、我が国の新聞報道では新型コロナウイルスという表現を多用しているようだ。世界保健機関(WHO)は2020年2月新型コロナウイルスによる疾病を「COVID-19」と名付けると発表した。
我が国政府による小学校、中学校、高等学校の3月2日から春休みまでの臨時休校(2020年2月27日)、世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルスのパンデミック(感染症の世界的な大流行)宣言(同3月11日)、新型コロナウイルスの感染が広がっている東京、神奈川、大阪、兵庫など7都府県に緊急事態宣言(同4月7日)などに追いかけられ、外出したら密閉空間、密集場所、密接場面を避けろと言われ、そのあとには外出自粛、さらに在宅勤務と連日うつうつと過ごしていると「誰のせいでこんな生活をしなければならないのだ」と大声で叫ばないではいられない、だれもがそんな心境でこの数か月を過ごしてきた。しかもこんな状態が地球規模で世界中に広がっているのである。ロンドン、パリ、ニューヨークなど世界の大都市もほぼ同じような状況なのだ。
2020年4月15日の新聞報道によると新型コロナウイルスの感染者は米国の58万2594人(死者2万3694人)が最も数が多く、次いでスペイン17万99人(同1万8056人)、イタリア15万9516人(同2万465人)などで、感染者の数ではいずれもパンデミックの起点となった中国を遥かに超えている。中国の感染者はこの時点で8万2249人(死者3341人)である。我が国の感染者は8174人(死者162人)。国際通貨基金(IMF)は2020年4月14日の世界経済見通しで「(1929年に発生した)世界大恐慌以来、最悪の景気後退を経験する可能性が非常に高い」と警告しているという。
こうなったのはすべて中国のせいだということで、いま中国は我が国のみならず世界中の人たちから責任を問う声を浴びせられている。
米スタンフォード大学フーバー研究所上級研究員ニーアル・ファーガソン氏は中国の責任を問うべき問題を3つ挙げて次のように述べている。
「ところで中国です。2002年の中国発のSARS(重症急性呼吸器症候群)と同様に今回も野生動物を扱う市場が発生源とみられている。それ自体、恥ずべきことですが、中国当局は初動で有効策を講じないまま感染を拡大させた。世界に告げた時期も遅く、世界に感染を広げた責任は重い。しかも中国共産党政権は外務省報道担当者のツイッターを通じ、ウイルスは米軍が中国に持ち込んだとのデマを流した。」(『読売新聞』2020年4月12日)
ファーガソン氏は1.新型コロナウイルスの発生源が野生動物である2.中国当局は初動で有効策を講じなかったため新型コロナウイルスの感染を世界中に広げた3.ウイルスを中国に持ち込んだのは米軍であるとのデマを流した、などの責任を問うているのである。この三つの問題点は米国では共通の認識になっているようで、トランプ大統領やポンペオ米国務長官らが様々な機会に様々な形で触れている。いくつか紹介しておこう。
ポンペオ米国務長官は2020年3月6日米CBSテレビのインタビューで「武漢コロナウイルス」との表現をあえて使用して、発生地は中国であるとの認識を明確に示した。オブライエン米国家安全保障担当大統領補佐官は3月11日の講演で「(中国湖北省)武漢での発生が隠蔽された」「世界が対応するのに2か月かかってしまった」と述べた。これを報じた記事は「世界的な感染拡大は、中国の初動の遅れによる『人災』の面があるとの認識の表れ」と説明を加えている。(『読売新聞』2020年3月13日)
トランプ米大統領は3月17日のホワイトハウスにおける記者会見で新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶことについて、「中国から発生したのだから、非常に正確な用語だと思う」と述べた。(『読売新聞』3月19日)
トランプ大統領は3月19日の記者会見で、感染が確認された初期に中国が情報開示などに関して適切な対応をとっていれば「感染が発生した場所だけに封じ込めることができていたはずだ」と指摘した。また「世界は非常に大きな代償を支払っている」とも述べた。(『読売新聞』3月22日)
3月25日先進7か国(G7)外相会合がテレビ会議方式で行われたが、共同声明の採択が見送られたのは米国が新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と表記すべきだと主張したことから各国と折り合うことができなかったためという。(『読売新聞』3月26日夕刊)トランプ大統領やポンペオ国務長官が「中国ウイルス」や「武漢ウイルス」という表現にこだわるのは中国が発生源であることを強調したいためである。
ファーガソン氏の「ウイルスは米軍が中国に持ち込んだとのデマを流した」という指摘については後述する。
《チャイナエ クスペリエンス 戸張東夫》前回
《チャイナエ クスペリエンス 戸張東夫》次回
《チャイナエ クスペリエンス 戸張東夫》の記事一覧