中国は危機収拾の責任果たせ(中) 戸張東夫

<残念な中国の初期対応の遅れ>
ファーガソン氏が指摘した三つの問題のうち、2番目の「中国当局は初動で有効策を講じなかったため新型コロナウイルスの感染を世界中に広げた」ことが最も重大なものだと筆者は考えている。もし当時中国が国民の生命と安全を最優先させて新型コロナウイルスに取り組んでいたら、武漢だけで感染を抑えられないにしても、中国国内で何とか感染拡大をストップさせることができたに違いないと考えるものである。
これは以前にも指摘したことだが、武漢市の保健当局から原因不明の肺炎患者について報告があったのが2019年12月8日だった。だが中国政府は事態をすぐには発表しなかった。国民に知らせなかったということである。中国は同12月8日世界保健機関(WHO)の駐中国代表処にこの原因不明の患者について報告したという。だがなぜか国民に知らせることはなかった。中国当局が習近平さんの重要指示を伝える形で新型コロナウイルス拡大の事実を国民に初めて公表したのは2020年1月20日であった。武漢から初めての感染例の報告を受けてからすでに40日以上経過していたのである。
対応が遅れただけならまだ許されようが、その間に何をしていたのか、事態を悪化させないように水面下で努力していたのならまだしも、すべてを医療現場に任せたばかりか、危険な状況を様々な方法で国民に知らせようとした医師たちを処罰するようなことをやっていたのである。なぜ事態をもっと早く国民に語らなかったのか。なぜなのだ。
今年の中国の春節(旧正月)は1月25日に当たる。このため大晦日の24日から30日まで大型連休となる。この連休前後に帰省や旅行で延べ約30億人が移動するのだという。せめてこの大型連休前に新型コロナウイルスの危険性を国民に周知させ、非常事態宣言を出したり、外出自粛を徹底したり、外出した時には密閉空間、密集場所、密接場面を避けさせるなどしていれば状況はかなり違っていたと愚考している。
<ウイルスを中国に持ち込んだのは米軍?>
ここでファーガソン氏が3番目に指摘した「ウイルスを中国に持ち込んだのは米軍であるとのデマを流した」という“罪状”について触れておこう。
中国外務省の趙立堅副報道局長が2020年3月12日自分のツイッターで新コロナウイルスは「米軍が武漢に持ち込んだ可能性がある」と語ったことである。翌13日の定例記者会見には趙氏が出席しなかったため米国のメディアなどが趙氏の同僚である耿爽副報道局長に趙発言の根拠や政府を代表した見解かどうかを問いただした。すると耿氏は質問には直接答えず、「武漢ウイルス」と呼ぶ米政府高官らを非難した上で「ウイルスの発生源については、中国は科学的かつ専門的な意見が必要と考える」と従来の主張を繰り返したという。(『読売新聞』2020年』3月14日北京電)この発言に対して米国のスティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)が駐米中国大使を国務省に呼び出して抗議したと報じられた。趙発言がデマであるかどうかは何とも言えないが、きわめてショッキングな発言であることは確かだ。発言したのが外務省の幹部であることから考えれば個人的発言とは考えにくい。たとえデマだとしても中国当局の何らかの意図を反映していることはまず間違いないであろう。
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