第222回 因縁のマニラ市長選でエストラダ新市長誕生 直井謙二

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第222回 因縁のマニラ市長選でエストラダ新市長誕生

5月13日に行われたマニラの市長選挙は富裕層に支持を得ていた現職で83歳のリム市長を抑え貧困層の支持が高い76歳のエストラダ元大統領が当選した。フィリピンの選挙は富裕層対貧困層の構図になる事が多い。古くは1986年、黄色い革命でマルコス独裁政権を倒したアキノ故大統領が貧困層の圧倒的な支持を受けた。(写真)だが元々富裕層だった故アキノ大統領は政権に就くと旧マルコス派の排除以外は成果を上げられず、続く軍出身のラモス政権もアキノ政権の負の遺産を背負いこみフィリピン経済は低迷を続けた。

経済が低迷したもう一つの原因は東西冷戦構造の崩壊だ。共産主義の脅威がなくなったとしてアメリカは90年代の初めに極東最大の軍事基地だったスビック海軍基地とクラーク空軍基地から相次いで撤退し、米軍がフィリピンに落としてきた資金が途絶えてしまったのだ。その直後にマニラ市長に就任したのが華僑系のリム氏だ。リム市長はエルミタやマビニなどのマニラの繁華街の閉鎖を打ち出した。理由はいかがわしいバーを閉鎖して繁華街を金融センターに変えるというもので自らハンマーを握りバーの扉を封鎖した。バーで働く貧しい人々は、隣のパサイやマカティに移動しなければならなかった。調べてみるとマニラ繁華街の地主はほとんどが女性だということがわかった。フィリピンでは国籍を持たないと土地を保有できないため、華僑がフィリピン女性と結婚して妻名義で土地を購入していたのだ。華僑が地主だったというわけだ。

ベトナム戦争当時、華僑から土地を借りた欧米人が米兵相手のバーを経営し、歓楽街が形成された。冷戦構造の崩壊による米軍の撤退で繁華街の収入が減り、借地代を巡って経営者の欧米人と事実上の地主の華僑の間でトラブルになり、華僑系のリム市長が欧米人を追い出したというのが実態だった。

一方新市長に選ばれたエストラダ新市長も元々はアクションスターで銀幕では貪欲な金持ちをこらしめ弱者を救うヒーローだった。しかし政治には素人だったエストラダ大統領は外交、内政ともにつまずいた上さらに不正蓄財が発覚、2001年に大統領職を辞任し収監されていた。辞任直後、エストラダ氏の自宅を訪ねたが、かつてのアクションスターも寂しそうだった。

市長選と同時に行われた下院の選挙で83歳の故マルコス大統領夫人のイメルダ氏が再選された。アジアの選挙では日本も含め政治家の世襲が問題にされるが、フィリピンは世襲問題に加え世代交代も進まずにいる。


写真1:故アキノ大統領を支援する集会

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