今年2月21日からタイとカンボジアを結ぶ国際バスの運行が再開された。バンコク・プノンペンのおよそ700キロを11時間で結ぶバスの料金は片道900バーツ。バンコクとアンコール遺跡の街、シエムリアップまでの420キロは7時間で結ばれ、料金は750バーツだ。日本人ならタイはノービザ、カンボジアも現地で簡単にビザを取得できるうえ、2,000円から3,000円の低料金の国際バスを利用すれば両国の観光やビジネスに弾みがつきそうだ。
ベトナム戦争やカンボジア紛争が起きる前は、便利で安価な国際バスがタイと地続きの隣国ラオスやカンボジアを結んでいた。当時、外交官以外は長期ビザの取得が難しく、2か月から3か月ごとにラオスなど隣国に出て新たにビザを取得する必要があった。
タイには「寝台バス」という社名の大手旅行代理店がある。ラオスの首都ビエンチャンまで夜行バスに揺られ、在ビエンチャンのタイ大使館でビザを取得し、再びバンコクに戻る。夜行バスを営業していた時の名残だ。安価な国際バスはビザ取得のための貴重な足だった。
しかし、70年代80年代は戦争や紛争で国境が封鎖、また、敷設された地雷の影響により、国際バスの運行は中断された。
筆者がタイに赴任した1985年、隣国ラオスやカンボジア国境は軍が監視する「遠い国」だった。(写真)タイ国境から陸路でわずか150キロほどのアンコール遺跡の取材は、まずカンボジアのビザを取得する必要があるのに、当時タイとの間に国交がなかった。破壊の限りを尽くしたポルポト政権を追いだしヘンサムリン政権を樹立したカンボジアは、電話も壊されていた。そこでバンコクの中央郵便局に赴き、カンボジアへの唯一の連絡方法である電報で入国を要請する。待つ事数週間、カンボジア政府から入国を許可する電報が返ってくる。
その電報をカンボジアと国交があるベトナムの在バンコク大使館に示し、ベトナムのビザ申請をする。待つ事さらに2週間、ベトナムのビザを取得し空路でベトナムのハノイかホーチミンに向かう。そこでカンボジアのビザを取得し、空路か陸路でプノンペンに到着する。アンコール遺跡のあるシエムリアップはポルポト派の支配地区で遺跡のある地域も夜の外出は危険な状態で、カンボジア政府もなかなか取材許可を許さない。そんな状況の中何度もトライし、ようやくアンコール遺跡の前に立つ事ができた。その時は地の果てに来たような感覚を味わった。
今回の国際バス運行の復活にインドシナに訪れた平和を肌で感じている。
写真1:タイ軍が警備する80年代のカンボジア国境付近
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